国際レスキューシステム研究機構(IRS)は4月24日、東京電力(東電)・福島第一原子力発電所で発生した事故への対応について記者会見を開催、投入予定のロボットを公開した。原子炉建屋内での放射線量計測を想定しており、作業員の被爆軽減を目指すという。

レスキューロボット「Quince」を改造

IRSの東日本大震災に関する記者会見は4月6日に続いて2回目。今回はIRS会長である田所諭・東北大学教授も出席し、最新情報を報告した。

国際レスキューシステム研究機構(IRS)会長である田所諭・東北大学教授

IRSは東日本大震災において、こういった活動を行ってきた

前回のレポートでお伝えしたように、IRSは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発したレスキューロボット「Quince(クインス)」の投入を計画している。福島第一の原子炉建屋内ではすでに米iRobotの「PackBot」が使われているが、「PackBotでは階段を登って2階以上に行くのは難しい。一方、我々のQuinceは運動能力が高く、階段の上り下りは得意。特性を活かして役に立ちたい」と田所会長は語る。

建屋内でロボットを使うための課題の1つに、電波の問題がある。コンクリートの壁が厚く、とにかく無線が届きにくいために、前回の記者会見では無線Quinceを中継器として建屋前に置いて、そこから有線Quinceを建屋内に向かわせる方法が考えられていたが、これを変更。比較的線量が低いタービン建屋から二重扉を開けて進入できることが分かったことから、有線Quinceと無線Quinceを2台ペアにして共に建屋内で行動させる方針に転換した。

以前はこの方法が検討されていた。無線で2km遠方からロボットを操縦する

新しい方針。PackBotと同じように、2台がペアになって行動する

オペレータはタービン建屋からロボットを操縦。有線Quinceのケーブルは400m程度まで伸ばすことが可能で、無線Quinceとの間は無線LAN(IEEE802.11g)により通信を確保する。先行する無線Quinceを有線Quinceのカメラで撮影していれば、周囲の状況が分かって操縦がしやすいというメリットもある。なお階段には瓦礫が落ちているほか、水で濡れて滑りやすくなっているが、すでに東電から建屋の図面は入手しており、上層階に行けそうな見通しは得られているという。

もう1つの課題は放射線への対策である。Quinceはもともと原発災害は想定しておらず、コンピュータの故障やエラーが心配されていたが、実際に放射線を当てる試験を実施したところ、何の対策をしなくても50Sv程度であれば問題なく動作できることが確認できた。これは作業員の被曝線量の上限である250mSvの200倍に相当する。ただし、ロボット自体は汚染されてしまうが、除洗できない場合には再利用せずに使い切って廃棄することも視野に入れているそうだ。

こちらは有線Quince。有線だと遅延が少ないので操縦しやすいという

Quinceのコントロールシステム。ゲームパッドで簡単に操作できる

線量計を搭載した無線Quince。ケーブルがないので自由に動き回れる

線量計のメーターをカメラで撮影する仕組みになっていた