【インタビュー】
フラッシュマーケティングという言葉をご存じだろうか。最近、何かと話題のクーポンがその代表で、商品やサービスの提供にあたり、割引価格や特典価格のクーポンを期間限定(24 - 48時間が一般的)でネット上で販売する手法である。とくにクーポンビジネスは"通常価格の半分"など大幅な値引きを謳っている商品が多く、低価格志向の風潮と相まって、今やフラッシュマーケティングの代表的サービスとなりつつある。
一方で、フラッシュマーケティングとは対照的に、正価で商品を販売するECサイトも存在する。いわゆるラグジュアリーブランド、またはプレステージブランドと呼ばれる高級ブランドが直接運営するECサイトだ。こういったブランドの商品を愛用するユーザは、その商品を買うことで得られる満足感や達成感を重要視する傾向が強い。逆に、大幅な値引きや特典は、これらの層にとっては購入動機になりにくいといえる。
だがやはり、販売員が直接接客する百貨店や旗艦店と同じ体験をネット上で実現するのはそう簡単ではない。ECサイトを運営するプレステージブランドはここ1、2年で大幅に増加したが、売上を伸ばすための施策というよりも、ブランディングの一環としてECサイトを展開しているに過ぎないブランドも多い。
そんな中、確実にECサイトの売上を伸ばしているプレステージブランドがある。化粧品ブランドのクリニーク ラボラトリーズ(以下、クリニーク)だ。2009年12月にECサイトを、2010年1月にモバイルサイトを立ち上げ、2010年は月平均で+11%の売上成長率を実現している。全国に展開する150店舗強の中、ECサイトでの売上は上位20位以内に入る勢いだ。
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クリニーク ラボラトリーズ マーケティング本部長 日高千絵氏 |
ご存じの向きも多いと思うが、クリニークは米エスティ ローダー社が抱えるブランドのひとつ。つまり外資系企業の一事業部である。にもかかわらず、日本マーケットに適合させたブランディングで実績を上げたことにより、アジア地区のみならず本社でも大きく注目されているという。今回、クリニーク ラボラトリーズでマーケティング本部長を務める日高千絵氏に、プレステージブランドならではのECサイト戦略についてお話を伺う機会を得たので、これを紹介したい。
--クリニークのECサイトはモバイルも含め、大変好調に推移していると伺っています。その要因はどこにあったとお考えでしょうか。
クリニークと言えば、"皮膚科医のイメージ"、あるいは"白のイメージ"が強いと思います。百貨店などで美容部員が白衣を着て接客するシーンをご存じの方も多いと思いますが、まさにあれがクリニークですね。そのクリニークのコアな部分は変えずに新しさや楽しさを加える - つまりリブランディングを図ったのが2010年10月です。白がもつ清潔なイメージはもちろん大切ですが、それだに加え、化粧品ブランドならではの、気分が浮き立つような高揚感もお客様に伝えていきたい - きめ細かなサービスに加えてデザインも刷新しました。リブランディング後はトップページからの離脱率が目に見えて減るという効果も出ています。
--オンラインとリアルでは顧客層にどのような違いがありますか?
基本的にリアル店舗とECサイトのお客様の間で売れる商品が異なる、といった違いはほとんどありません。店舗で売れている商品とECサイトで売れている商品はほとんど同じ、つまりECサイトでもクリニークのコアとなる製品が売れています。そのほか、限定セットやキャンペーンをWeb上でチェックする方はとても多いですね。店舗で売り切れになったものをオンラインで購入できたりすることもあるので。
ECサイトでは「クリニークの名前は知っているけど、いままで買ったことはなかった」という新規のお客様の割合が75%と非常に高いです。
クリニークはプレステージブランドながら、20代以下のお客様が約40%を占めます。そして今の若い世代は百貨店に足を運ぶ回数が減っているのも事実です。そのため、ECサイトではとくに若い方々のニーズを重要視しました。情報ソースとしてデジタルツールを使いこなしている世代に、すんなりと受け容れてもらえるサイトにするため、成功しているさまざまなECサイトを参考にしました。アイコンのデザインや大きさ、画像と文字の分量など、細部に至るまで本社ともかなりディスカッションを重ねました。
--ネットならではのサービス、という面もかなり意識されていたのでしょうか?
クリニークが店舗で心がけている"きめ細かな接客"や"フレンドリーなイメージ"をオンライン上で実現するように努力しました。サービスの形態は違っても、クリニークならではの"ネットのおもてなし"を今も試行錯誤中です。「ファンデーション診断」や「マイ スキン コンサルテーション(肌診断)」など、本来は店頭でなければできないと思われていたサービスがECサイトでもお客様に受け容れられているのはとてもうれしいですね。ECサイトのお客様の中には「忙しくて店舗に行けない」という方も多いので、そういう方々に店舗と同等のサービスを提供することも重要ですから。こういったサービスがあるからこそ、プレステージブランドの製品を正価で買うという行為に、お客様が満足感をもってくれると思っています。
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日本は薬事法がきびしいため、オンライン上で書ける内容にも制限があると日高氏。グローバルとは基本的に路線を同じくしても、やはりローカルの事情に即したマーケティングは重要になる |
--外資系ブランドが日本で独自のマーケティングを展開するとなると、かなりの苦労が伴ったと思うのですが……
それはもう(苦笑)。本社とのネゴシエーションは相当重ねました。ただ、クリニークは日本に進出してからかなり経つので、本社のほうも日本のお客様の傾向というか、北米のやり方ではダメな部分もあるということは理解しているんですね。だから、こちらが提案した施策に最初は懐疑的でも、とりあえずやらせてみようか、とOKが出たときに、すかさず数字で結果を出すように努力しました。
たとえばモバイル事情をとってみても、日本の携帯電話市場はたしかに特殊ですが、海外に比べて進んでいる部分も多い。若い女性がどんな携帯電話を使っていて、どんなコンテンツをふだん見ているのか、そういった点をきっちり説明して、徹底的にディスカッションしました。そういう意味ではアジアの中でもかなり特殊かもしれませんね。
また、キャンペーンの展開にしても、北米ではTwitterやFacebookが主流ですが、日本の若い女性の間ではまだそれほど流行っているとはいえませんので、これらの扱いは逆に慎重にしました。ただ、Twitterキャンペーンは日本でも2010年のクリスマスシーズンに「メリー クリニーク」と銘打って試験的に行ってみました。わりと評判が良かったので、今後も積極的に検討していきたいと思っています。
--今後の目標があれば教えてください
プレステージブランドの中ではNo.1のECサイトを目指していきたいですね。あらゆる意味で。
それから20代のころ、クリニークを使っていたお客様にもう一度、クリニークの良さを伝えていきたい、クリニークに戻ってきてもらいたいと思っています。世代やロケーションを超えて、クリニークのもつ"フレッシュなイメージ"を再度浸透させていきたいと思っています。これはオンラインでもリアルでも同じですが。
そのためには、まだまだECサイトでできることがあると感じています。たとえば今は試験的に行っているのですが、チャットシステムを使ってリアルタイムでオンラインカウンセリングをしたり、お客様の履歴からお勧め製品のバーチャルセットを提案したり、とか。TwitterやYouTube、その他のソーシャルネットワークも試しながら、クリニークの良さを広い世代にアピールしていければと思っています。
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