三洋電機は11月18日、環境技術説明会「Green Technology Forum」を開催し、兵庫県加西市の加西グリーンエナジーパーク(GEP)の概要と、今後注力する大型蓄電池事業の展開を明らかにした。

すでにGEPの詳細については、10月22日の稼動開始に先立つメディア向け内覧会でレポートされているため、ここでは主に大型蓄電事業の展開についてレポートしたい。

需要拡大を睨み大型蓄電事業を推進

大型蓄電事業について、同社代表取締役副社長の本間充氏は「従来の太陽電池事業、民生用2次電池事業、環境対応車用2次電池事業に加え、エネジー事業の4本目の柱として大型蓄電事業を育成・強化する」と語った。

三洋電機の代表取締役副社長である本間充氏

その背景として、低炭素化社会の実現に向けた再生可能エネルギーの大量導入を想定している。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、自然環境に左右されて出力が変動し需給にミスマッチが起こりやすい。このため再生可能エネルギーの普及に伴い、発電のピーク電力を貯蔵し無駄のない電力を確保する必要から、大型蓄電池の需要が拡大すると考えられる。同社では、2020年にはエナジー関連世界市場全体が10兆円以上に拡大する中で、大型蓄電用2次電池が2兆円以上になると予測している。

エナジー関連市場の拡大

実際に各国で大型蓄電システムの普及に向けた取り組みが始まっている。米国では経済回復・再投資法案により20億ドルを先進バッテリ製造助成に配分する他、エネルギー貯蔵設備に税控除を付与するSTORAGE法案を審議中である。欧州では、2020年までに再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げるため、蓄電需要が顕在化している。日本においても蓄電池など低炭素型産業の設備投資に対し1/3を補助する法案が成立している。

大型蓄電システムの普及策

この需要拡大を睨み、同社では10月1日付で大型蓄電事業部を新設した。加西GEPのコア技術である「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」のうち、畜エネ技術の事業化であり、大型蓄電システムの実現を目指す。

大型蓄電システムの実用化を目指す

加西GEPでは、世界最大級の1.5MWhのリチウムメガバッテリシステムを導入している。18650タイプのリチウムイオン電池を312本搭載した約1.6kWの蓄電池用標準電池システムを約1000台設置し、蓄電システムの実証実験を行っている。

大型蓄電システムの実現により、再生可能エネルギーの活用の最大化を進める。電力事業会社向けには再生可能エネルギーの課題である出力変動に伴うピーク電力の貯蔵を行う。携帯電話基地局向けにはバックアップ電源で使用されている鉛蓄電池の代替を進める。また、商業施設においては、安価な深夜電力の活用や非常用電源の確保が可能となる。さらに駐車場・駐輪場における太陽光発電を活用など、多方面での展開を想定している。

再生可能エネルギーの活用最大化

具体的な適用例として、系統連係を導入したオングリッド地域で、1日の発電需要が大きく変動する電力需要家は、需要のピークの時間帯の電力を大型蓄電システムからの放電で補うことでピークカットを行い、電気料金を削減できる。また、1日の電力需要の変動分を大型蓄電で補うことで発電負荷を平準化し電力の安定利用を実現する。一方、再生可能エネルギーへの依存度が高いオフグリッド地域では、大型蓄電システムにより出力の平準化させる他、既存の発電の発電効率を向上させる。

オングリッド地域での取り組み

オフグリッド地域での取り組み

電気自動車用事業とのシナジーを狙う

加西GEPを展開する加西工場の本来の役割は、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)用リチウムイオン電池の開発・量産である。同工場では、HEV用5Ah級リチウムイオン電池の量産をまもなく開始する。また、PHV/BEV用の大容量20Ah級リチウムイオン電池の開発を完了し、2011年後半に量産を開始する予定である。

加西GEPを展開する理由として、電気自動車用事業と大型蓄電事業とのシナジーを狙っている。電気自動車用電池と大型蓄電用電池の要求特性は非常に似ており、両者ともに

  1. 大容量
  2. 高エネルギー密度
  3. 高信頼性
  4. 長寿命
  5. 動作温度範囲
  6. 高出力密度

の6つの特性が要求されている。

大型蓄電システムへの要求

加西GEPで設置されている大型蓄電システムと既存の電気自動車用リチウムイオン電池を比較すると、エネルギー密度は蓄電システムの100Wh/kgに対し、電気自動車用リチウムイオン電池は125Wh/kgで、非常に近い特性を有している。また、出力密度や動作温度範囲、サイクル寿命では、電気用自動車用リチウムイオン電池が加蓄電システムを上回る特性を示しており、大型蓄電システムへの適用が可能と考えられる。

大型蓄電システムと電気自動車用電池の比較

同社では、加西GEPを拠点に既存の18650タイプの蓄電システムだけでなく、電気自動車用リチウムイオン電池の適用可能性を含め実証実験を進め、シナジー効果により要求される大型蓄電システムの早期開発を目指す。

なお、2009年にカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と、スマートグリッド実現に向けた包括的な共同開発契約を締結しており、2011年から米国においてもスマートエナジーシステムの実証実験を開始する予定。

UCSDとの提携