宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月16日、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったカプセルの中から見つかったμmオーダーの微粒子1,500個について、そのほぼ全てが地球外物質であり、小惑星イトカワから採取したものであったと発表した。打ち上げ前に地上で混入した可能性があったため、分析結果が出るまで断定は避けていたが、今回、走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析によって判明した。

JAXAは同日、東京事務所にて記者会見を開催した

「はやぶさ」は今年6月13日に地球に帰還。探査機本体は大気圏への再突入により燃え尽きたが、小惑星イトカワのサンプル(試料)が入っていると期待されていた耐熱カプセルは予定通りオーストラリアに着陸、日本に持ち帰り、容器の開封、サンプルの回収作業が行われていた。先週までに、光学顕微鏡で60個、電子顕微鏡で1,500個程度の微粒子が見つかったことが明らかになっていた。

今回、イトカワ由来のものと判明したのは、この電子顕微鏡を使って見える極めて小さな微粒子1,500個。判断した根拠は以下の3つだという。

  • 鉱物の種類とその存在割合、および成分比率などが隕石の特徴と一致しており、地球上の岩石とは傾向が異なること。カンラン石が最も多く、以下、輝石、斜長石、硫化鉄と続いており、これは隕石(普通コンドライト)の傾向と同じ。

  • 含まれる鉄とマグネシウムの割合を見ると、地球の岩石よりも鉄の比率が高かった。イトカワでは、「はやぶさ」に搭載された近赤外分光器(NIRS)、蛍光X線スペクトロメータ(XRS)を使った観測によって、表面物質の組成が推定されており、これによく一致した。

  • 回収されたサンプル容器の中からは、地上で一般的な火成岩(玄武岩や安山岩やデイサイトなど)が見つかっていないこと。ちなみに打ち上げた内之浦の近くには桜島があるが、桜島の火山岩はデイサイトで、これはカプセル内から見つかっていない。

右下のグラフは鉄とマグネシウムの比率。微粒子の平均値(赤丸)は、イトカワ表面の物質と同じ傾向を示した

電子顕微鏡で撮影した画像。アルミの人工物(青矢印)もあるが、それは除いて岩石質(赤矢印)のものが1,500個見つかった

JAXAは当初、「詳細な分析にかけるまで宇宙由来かどうか特定は難しい」と説明しており、結果が判明するのは年明けになると見られていたが、今回は、電子顕微鏡による簡易的な分析のみでイトカワ由来であることが分かった。これは、「1粒や2粒なら結論を出すのは難しかったが、今回は1,500個も見つかった。統計的な処理の結果で確信した」(向井利典・JAXA技術参与)ためだという。

同日13時より、JAXAは記者会見を開催。「はやぶさ」プロジェクトを指揮したJAXAの川口淳一郎プロジェクトマネージャも出席し、「状況は聞いていたが、本当に信じられない気持ち。1粒でいいからあって欲しい、あるはずだとは思っていたが、大きな成果に恵まれて、本当に良かった。はやぶさ自身もこの成果をきっと喜んでいるだろうと思う」と喜びを述べた。

JAXAの川口淳一郎プロジェクトマネージャ

先週までの作業で1,500個の微粒子が見つかっていたのは、2回目のタッチダウンで使われたA室。サンプル容器には、1回目で使われたB室もあり、こちらはまだ未開封だ。もともとイトカワ由来のサンプルはB室の方に入っている可能性が高いと期待されており、あまり期待されていなかったA室からも見つかったことで、今後のB室の回収作業がさらに楽しみになってきた。

2回目のタッチダウンでは、本来発射されるべき弾丸が発射されていなかったために、A室で見つかったのは、ほとんどの粒子が10μm以下という想定外の小ささだった。1,500個とはいっても極めて微量にしかならないが、分析を担当する中村智樹・東北大学准教授は「サンプル量を必要とするごく一部の解析は難しいだろうが、我々のチームの分析は全部できる。現在のサンプル量でも、イトカワの物質科学的な特性は十分に把握できる」と述べる。

今後、A室の回収作業は中断し、今月中にはB室の開封に着手する見込み。全体のサンプル量を把握できた段階で、その15%を世界中の研究者に分配し、詳細に分析する予定だ。