Canon EXPO 2010 Tokyoで、今後の日本経済の成長について製造業が引き続き牽引役を果たすべきとの提言を行ったキヤノン 御手洗会長の講演レポートに続き、本稿ではその具体策を示した同氏の講演内容をお伝えする。

キヤノン 代表取締役会長 御手洗冨士夫氏

産官学連携で継続的イノベーションの仕組みを創出

昨今の日本経済の停滞を打開するには、"ものづくり日本"の復活が不可欠だと御手洗会長は語る。

同氏は「研究から実証に至るまで、一連の研究開発を1企業が単独で行うのは難しい」とし、成功の具体例としてクロスカップリング反応でノーベル化学賞を受賞した北海道大名誉教授 鈴木章氏と米パデュー大特別教授 根岸英一氏の例を引き合いに出し、「産官学連携の強化によって、継続的にイノベーションを創出する仕組みを確立することが必要」と述べた。

また同氏は、小惑星イトカワからサンプルを採取するという難事業をやり遂げた探索機『はやぶさ』の7年にわたる宇宙の旅の話にも触れ、「これは国家プロジェクトに企業が参加し、成功を収めた産官共同事業の好例である」として、「このようなすばらしい事業は、もっと大々的に報じるべきであった」と マスコミ各社に対して苦言を呈した。

世界最高レベルの生産システム構築を

御手洗会長は、"ものづくり日本"の復活の具体策として「世界最高レベルの生産システムの構築」を挙げた。

日本に限らずこれまでの製造業は、安価な労働力を求めて新たな途上国へと生産拠点を移すといったことを行ってきたが、同氏は「このような手法は早晩限界を迎える」として、トヨタ自動車の"かんばん方式"に象徴されるような、革新的な生産システムを生み出せるかどうかが、とりわけ国内製造業にとっての大きな岐路になると指摘している。

同氏は「これまでの製造技術の蓄積や世界最高水準のロボット技術を結集すれば、必ず先進国型の生産システムを構築できる」と強調。この仕組みの構築に際しても、産官学共同による取り組みの必要性を訴えた。

御手洗会長は同講演で「ものづくり日本」の復活を訴えた

開発の世界3極体制でグローバル多角化を推進

同社は1937年の創業から今日まで、まさに日本の製造業の成長と停滞を体現してきた企業の1つであるが、御手洗会長はこれまでの歩みを簡単に紹介しながら、「来年から始まる」(同氏)とされる同社の「グローバル優良企業グループ構想 フェーズIV」の内容を明らかにした。

1950年代にグローバル化戦略をスタートさせた同社

1960年代には事務機分野へと事業の多角化を図る

多角化によって今日おなじみとなっている複写機やプリンタなどが登場

「グローバル化」と「多角化」という2つの基本戦略に「環境」という要素を加えて成長を実現するという従来からの考え方を踏襲しながら、今後同社は「健全かつスピーディな成長」をスローガンとして掲げ、新たな成長路線へと舵を切る。

1990年代には、環境対応施策としてトナーカートリッジのリサイクルプログラムを開始

この「フェーズIV」における具体的な数値目標や事業ドメインの変革については次回レポート記事でお伝えするが、ここで同氏が強調したのは研究・開発・生産・販売といった「製造業の共通機能」の変革である。

とくに開発については日本一極型だったこれまでの体制をあらため、「日米欧の3極に『グローバルイノベーションセンター』を設置し、人材の採用や海外発の独自製品の展開を含めたグローバル多角化を進める」という。