千代田区立千代田図書館』では、地域に根ざした運営を行うことを目的に「5つの機能コンセプト」を掲げている。前回(昼間人口85万、オフィス街ならではのニーズに応える『千代田図書館』)お伝えしたように「創造と語らいのセカンドオフィス」という点については、平日夜22時まで開館し、ビジネス利用に配慮した資料配置や施設を用意するなど、ニーズを捉えた細やかなサービスが提供されていた。もう一つ特徴的なのが、地域連携を考えた「千代田ゲートウェイ」というコンセプトだ。

"本の街"における図書館の役割

千代田図書館で提供しているサービスの一つに「コンシェルジュ」がある。館内施設、展示の案内だけでなく、区役所や近隣エリアの施設、古書店、レストランなどの情報を案内してくれる、いわゆるホテルのコンシェルジュのような"千代田区情報専門"の担当者である。一見すると公共図書館とはちょっと結びつかないが、これは「千代田区ゲートウェイ」というコンセプトに基づいて提供されている。図書館が単に本を貸し出すだけでなく、人を介した情報の提供を行うことで"本の町"神保町を始めとする地元の活性化を目指し、さらに蔵書量の限界をカバーする意味でも館内だけでなく町全体で本の提供をしていきたい、という考え方が形になったサービスである。

貸出カウンターとは別に設けられたコンシェルジュ専用のカウンター

千代田図書館のコンシェルジュは館内だけでなく神田古書店連盟が管理する「本と街の案内所」にも出張して来客対応に協力しており、そこで知ったこと・調べたことを図書館のほうでも紹介するなど、人の交流や情報の流通を図っている。図書館を訪れた人が本や雑誌で知り得なかった情報に触れ、古書店街や千代田区の歴史に興味を持つきっかけにもなるだろう。何より、積極的に何かを知り伝えようと工夫された情報には独特の活気が感じられる。

コンシェルジュ達が新しく得た知識や情報をフリーペーパーにまとめ、カウンターで配布している

「調査研究ゾーン」にある展示スペース「としょかんのこしょてん」では、神田古書店連盟の店舗が持ち回りで古書籍を展示している。展示期間中には店主が来館して展示品の解説を行う機会が設けられ、展示品は購入することも可能だ。また10階につながる階段の前には、区内の出版社や美術館・博物館など千代田区に関わるテーマで展示を行う「展示ウォール」がある。

「としょかんのこしょてん」と「展示ウォール」。探せば見つかが触れる機会がなかった、というものを知るきっかけになる

千代田図書館では利用者を対象にしたイベントも数多く開催している。これは同館を運営する3社がそれぞれの立場から企画しているもので、その目的によって内容も多彩だ。ビアックスは、図書館の活用につながるセミナー、資料の探し方講座などを企画。サントリーパブリシティサービスは、広報の視点からイベントを通じてより広く多くの人に図書館へ足を運んでもらうことを目的に、落語や講談、ライティングの講座などを企画。シェアードビジョンは"区の施設"という立場から美術館・博物館の学芸員や古書店員を招いた講座、より深く街を知ってもらうための地域連携イベント等を企画している。

プロの職人による出張靴磨き」という一風変わったイベントは、広報・坂巻氏の企画によるもの。路上の靴磨きから始めて専門店を興した社長との会話が、ビジネスパーソンに人気だ。また、落語や講談などは少しでも興味のある人が気軽に参加でき、多くの人が目にする機会になるようにと、館内のオープンスペースで開催されている。また、コンシェルジュが神保町の歴史や見どころを案内するツアーも人気が高いという。同館のイベントは単に人集めの装置ではなく、それを通じて何を発信するのか、どんな成果を求めるのかが非常に明確になっている。

本を借りるだけじゃない、図書館の価値

千代田図書館に指定管理者制度が導入されたのは2007年。全国でも比較的早い部類に入り、その中でも「成功事例」として捉えられることが多いそうだ。だが坂巻氏は「成功かどうかはまだわからない」と言う。同制度では5年間という期限を経て行政が結果を判断することになるのだが、その指標が明確に定められているわけではない。蔵書数や貸出件数という数字で見るなら新刊・ベストセラーを多数置いて回転させることでも稼げるが、区内に多くの書店・古書店や出版社がある同館にとって「貸出偏重の運営は"地場産業"を圧迫することになりかねない」(同)。

千代田図書館が積極的に行っている地元連携やビジネスパーソンをサポートする取り組みが、行政からどのように評価されるのかは分からない。だが、こうした取り組みで同館が独自の価値を作り上げていることは間違いない。利用者側もこれまでの経験に捕らわれず、生活・ビジネス・知的好奇心探求の場として図書館を活用することで、図書館を中心とした新しい文化の場が醸成されるのかもしれない。

利用案内『千代田区立千代田図書館』
住所 千代田区九段南1-2-1 千代田区役所9・10F
電話番号 03-5211-4289・4290
開館時間 月~金 10:00~22:00/土 10:00~19:00/日・祝および12月29日~12月31日 10:00~17:00
休館日 第4日曜日、1月1日~1月3日、特別整理期間
料金 無料
アクセス 東京メトロ東西線、半蔵門線/都営新宿線「九段下」駅下車 徒歩5分
Webサイト こちら