円高・株安などで、先行き不透明感が増す日本経済。日銀がかってないほどの包括的な金融緩和策を打ち出すなどの対策がなされる一方、中小企業などの経営は苦しさを増している。今回は、融資の返済条件の変更要請に応じる努力義務を金融機関に課す「中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)」の延長問題や、「郵政改革法案」の行方、円高・株安への対策などについて、国民新党代表で前金融・郵政改革担当大臣の亀井静香氏に、同氏事務所でインタビューした内容をお伝えする。

国民新党代表で前金融・郵政改革担当大臣の亀井静香氏

「中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)」は、亀井静香氏が制定に尽力し、同氏が金融・郵政改革大臣当時の2009年12月4日に施行された。融資の返済条件の変更要請に応じる努力義務を金融機関に課すことを内容としており、金融庁によると、施行後から2010年3月末までに中小企業が銀行などの金融機関に貸付条件の変更などを申込んだ件数は48万1,367件で、うち金融機関が貸付条件の変更などを行った実行件数は、36万8,074件だった

経済状況の悪化から、来年3月末までの時限立法である同法の延長を望む声が高まる一方、「隠れ不良債権」を増やす可能性があるとの指摘もなされている。亀井代表は、延長問題について、どのように考えているのか?

「延長は、経済が回復していないため必要」

――あらためて、「中小企業金融円滑化法」を制定した亀井代表の思いと、同法の延長を考えるに至った経緯をお聞かせください。

中小企業、零細企業、商店、農家、サラリーマンの、資金繰りを少しでも楽にしてあげることが大事だという観点からやったわけですが、それなりの効果をあげていると思います。

いつまでも資金繰りに困るような状況が続く、というメッセージを送りたくないから時限立法にしたんだけど、残念ながら、経済が回復していないんでね。

――制定当時とは、事情が異なってきたわけですね。

今のような(中小企業などの)資金繰りが困るような状況がずっと続くんだという、そういう未来に対する不安のメッセージを政府が送るわけにはいかんでしょ。だから時限立法にしたわけだけどね。私が当初から強く言っておったように、資金繰りを良くするだけではなく、仕事を創出できるような経済運営、これをやらなければ駄目で、儲かる仕事がどんどんできるような状況になっていないのが、非常に残念ですね。

――延長されなかったらどうなりますか?

これは大変でしょう。

――延長される可能性は?

延長します。臨時国会で延長させます。今、(当初)法案に反対した公明党や自民党まで、延長すべしというようなことを言っていますよ。

本来ならこういう法律はなくても、金融機関が自覚してちゃんと金融業務をやってくれれば、何もこんな法律はいらないんです。しかし、残念ながら今の金融機関が、社会的責任を結局考えない経営をしているのが現実ですから、だからこういう法律を作ったわけなんです。

そういう意味で、今この法律が切れたら、(金融機関が)社会的責任に徹して経営をやるという状況には、残念ながらまだなってませんね。だからやはり、(モラトリアム法の延長は)必要だと思います。

――亀井代表が、金融担当大臣の時に、金融機関にそうした指導をされたのではないでしょうか?

私は、そういう責任感を持った金融業務をやらなければ、自分たちの金融業務自体も成り立っていかなくなるんだという、そういう理解は少しは生まれたと思いますけど、まだ十分ではありません。

記者からの質問に、ゆっくりと、分かりやすく、答えていただいた

「"トカゲの尻尾切り"みたいな事ではなく、メガバンクが責任を」

――中小事業者への融資に関しては、武富士の破綻など、消費者金融各社が苦境に陥っていることも影響するかと思うのですが、こうした消費者金融各社の苦境について、亀井代表の意見をお聞かせください。

零細な、緊急な融資を受けたいという事業に対して、きちっと対応していける金融システムになっていないことが、基本的な問題です。残念ながら、今までの貸金業というのは、高利で、わりと安易に貸し出すということで、多重債務者をどんどん作っていくという、大きな弊害が生まれましたから、やはり全党一致で、これ(貸金業法)は改正されたわけです。運用については手直しをして、今年6月から、完全施行したわけですね。

今後の大きな課題としては、ちゃんとした事業に対してどう金融機関が対応できるかを、金融庁を中心に努力していかなければならんと思います。

――運用ルールに関しては、亀井代表と、(当時の)大塚耕平副大臣が詰めて策定されたわけですが、その効果があったとお考えですか?

一部事業者については、プラス面で有効に機能していると思いますけれども、なかなかそうは言っても、一つは金融機関のマターとの関係があるわけで、全てうまくいっているとはいえないね。

"トカゲの尻尾切り"みたいな事じゃなくて、メガバンクが自分たちの責任を果たさないで、なかなかその辺りが問題の一番の元にある。

――メガバンクの問題点はどこにあったのでしょうか?

メガバンク自体が、高利な形で資金の供給をしておったという、さらにそれをそうしたところ(消費者金融)がユーザーに対して、さらに高利な形で貸す、ということでしょ。

メガバンク自体がもっと零細な事業者に対して、普通の金利で資金を供給していく努力をやっていくという事が必要なんですよ。しかしそれをなかなかやろうとしない、非常に残念だけれども。

――金融庁は、メガバンクに対し、どんな指導が可能でしょうか?

貸金業が苦境に立っている状況にある中、メガバンクを中心として、子会社に資金を供給して、ダミーでやらして巨額の利益を得てきている。メガバンクが、もっとこういう事については、責任を果たしていくということをやらなければいかんと思いますね。

かって住専(住宅金融専門会社、個人向けの住宅ローンを主に取り扱っていた貸金業)でもね、同じような事をやったんですね。(メガバンクが住専という)ダミーを作ってね、やったでしょ。手を汚したくないという。そこら辺のところを、金融界全体の体質改善をやっていくということも、必要なんじゃないですか。

一貫して、金融業界に対して厳しい意見を述べながらも、時折、笑顔を見せていただくこともあった

郵政改革法案「成立させなければ、菅政権の存在意義なし」

――ところで、「郵政改革法案」の行方については、いかがお考えでしょうか?

今国会で成立させます。

菅政権もね、文書できっちりと約束していることですから、これは必ず成立します。これを成立させなかったら、これは政権の意味がありません。公党間で文書で約束したことをね、実行できるのにしないとなると。

――郵政改革法案が成立しなかった場合、連立離脱もありえますか?

離脱とか、そんなことを言う前に、政権自体の存在意義がありません。

記者からの質問に、ゆっくりと、分かりやすく、中小企業金融のあり方から、郵政改革法案の行方まで、話してくれた亀井代表。次回は、円高・株安で先行き不透明感が増す日本経済の処方箋について、亀井代表が自民党の政調会長だった際の話なども交えながら、答えていただいた内容を紹介したい。