Dirk Hohndel氏。セッションは最終日の午後だったが、盛況だった

米IntelとフィンランドNokiaの2社が、それぞれのモバイルLinuxの取り組みをマージさせて「MeeGo」を作成すると発表してから約8カ月が経過する。発表時はAndroid対抗と見る向きもあったが、その後リリースされた成果物はスマートフォンより幅広いセグメントを狙っている。10月、ドイツ・ミュンヘンで開催された「Qt Developer Days 2010」で米Intelの最高Linux&オープンソース技術者を務めるDirk Hohndel氏がMeeGoの取り組みを紹介した。

Hohndel氏はまず、MeeGoが狙うセグメントについて説明した。Nokiaの影響もあってスマートフォン向けと思われているが、「さまざまなセグメント向けに設計されている」とHohndel氏。実際、最初のMeeGo製品は52インチのTVだったという。モバイル端末では、独4tittoのタブレット端末「WeTab」などが事例となる。

MeeGoは幅広いセグメントをカバーするために、土台となる「Core OS」と各セグメント向けのユーザーエクスペリエンス(UX)で構成される。Core OSはLinuxカーネルをベースとしたオープンソースで、省電力、性能、各ユーザーエクスペリエンス向けに最適化されている点などが特徴。プロセッサはIntel「Atom」とARMに対応する。ユーザーエクスペリエンスは、最初に公開された「Netbook UX」をはじめ、携帯電話、車載情報システム(IVI)、インターネット対応TV、メディアフォン(IPベースの通信機器)を揃える予定だ。共通の特徴は、リッチなビジュアルインタフェースとユーザーインタフェースだ。特にモバイルについては、「携帯電話、タブレット、ネットブックの境界線があいまいになり、融合が進んでいる。MeeGoを使って、さまざまな端末間でシームレスで一貫性のあるエクスペリエンスを提供できることを目指す」とHohndel氏。

MeeGoのアーキテクチャ

インタフェースについては、狙い通りの成果が出ているようだ。「バージョン1のNetbook UXを公開後、ハードコアのLinuxハッカーから"これまでのデスクトップとは違う"と驚きの声をもらった」とHohndel氏は満足顔で述べる。「われわれが現在使用しているユーザーインタフェースは必ずしも直感的なものではなく、コンピュータの管理/操作として優れたものではないという調査結果もある」と述べる。われわれはすっかり慣れてしまっている現在のUIだが、コンピュータのこれまでの発達を考えると人間にとって直感的でわかりやすいものに改善する余地は多いにありそうだ。MeeGoはこれまでとは違う新しい方法の確立を目指しており、たとえばSNS、動画、音楽、カレンダーなどよく使うものを直感的に利用できるようにする。Hohndel氏はこれを、「親の世代でも使えるようなUI」と述べる。

ユーザーインタフェースについては、「消費者家電を中心に、ブランディングやユーザーエクスペリエンスが重要になっている」とHohndel氏。カウチに座って使う端末なのか、車の中か、シチュエーションが異なると操作/入力方法(タッチ、キーボードなど)も、制約(画面サイズなど)も変わってくるとしている。

同様に重視しているのがエコシステムの構築だ。「Linuxデスクトップで難しい部分はアプリだった」とIntel入社前にCTOを務めたSUSE時代を振り返りながら、「参加者が付加価値をつけ、収益を上げられる、これは非常に重要だ」とHohndel氏は述べる。この考えに基づき、MeeGoサービスプロバイダ、ISVが収益を上げられるアプリケーションストアを支援していく。現在、Intelの「AppUp」、Nokiaの「Ovi Store」がMeeGoアプリケーションを提供できる場となるが、サービスプロバイダなどがアプリストアを展開することにも期待を見せた。

エコシステムでは、ISVに特に期待を寄せた

開発面についての説明もあった。MeeGo APIはQtを含み、MeeGoのアプリケーション開発技術はQtのIDE「Qt Creator」が土台となる。Qtはクロスプラットフォームを特徴とし、既存のQtアプリを容易にポーティングできる。「ネイティブLinuxアプリケーションとQtアプリケーションを合わせると、膨大な数に達する。アプリ開発プラットフォームとしてQtにフォーカスすることで、幅広いISVとアプリにアクセスできる」とHohndel氏は述べた。

同時に、アプリケーション開発者に対しては、(アプリケーションストア以外に)「モバイル端末向けアプリでは

  1. 端末にインストールされるアプリケーション
  2. プラットフォーム上に直接載るアプリケーション

の2つのパーツがあることを理解する必要がある。それぞれ特徴が異なり、ビジネスモデルも異なる」と伝授する。

1はデスクトップ時代にはなかったチャンスだ。2はメーカー、サービスプロバイダ、オペレータなどが差別化を図る部分で、ここでもチャンスがあるという。概して、モバイルアプリケーションの可能性と機会を高く評価し、「Qtのリッチなツール、エコシステム、と最高レベルのアプリケーション開発を提供する」と自信を見せる。

MeeGoはオープンソースなのでだれでも開発に参加できるが、Hohndel氏はMeeGoがIntelでもNokiaでもなく、Linux Foundationでホスティングされていることを強調した。「中立性はMeeGoにとって重要な核となる。Linux Foundationはベンダ独立性で実績と定評がある」(Hohndel氏)。

10月末にリリースされたバージョン1.1ではタッチフレームワークが導入され、ユーザーエクスペリエンスはNetbook UX、携帯電話向けの「Handset UX」、車載インフォテイメント向け「IVI UX」が公開されている。Hohndel氏はバージョン1.1リリース以降、商用でのMeeGo利用が一気に進むと予想する。

MeeGoでは約6カ月おきのバージョンアップを目指しており、次は2011年春のバージョン1.2となる

最後にHohndel氏は、MeeGo成功の要因として、すばらしいユーザーエクスペリエンス、優れたOS、マルチカテゴリ、マルチハードウェア、オープンなビジネスプラットフォームの5点を挙げ、「エコシステムを大きくし、さらなる成功につなげたい」と熱意を見せた。