「帳票開発業務は、SEの仕事の中でも"腕試し"的な要素が強く、実際にツールを使って作業を担当するのは若手が多い」と語る富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(富士通SSL)の主幹エキスパート 福岡寿和氏。同氏はMicrosoft MVP(Microsoft Most Valuable Professional)や日本で3人目となるOracle ACEの認定資格を有する業務システム設計・構築のスペシャリストだ。ここでは、現場の苦労や悩みも熟知しライターとしても執筆活動も精力的にこなす同氏に、帳票開発の現状とツール選択時のポイントを聞いてみた。

そして"重要なもの"だけが残った

福岡寿和――Microsoft MVPとOracle ACEの認定資格を有する業務システム設計・構築のエキスパート。ライターとしても執筆活動を展開する。富士通SSL 第二産業流通ビジネス本部 第三システム部 主幹エキスパート

企業における環境意識の高まりなどから、業務システムにおける「ペーパーレス化」の流れは加速している。最終的には「印刷物」となる帳票の開発業務は、ともすると「斜陽業務ではないか?」と考えられてしまうケースも少なくない。しかし福岡氏は、「それは違う」と断言する。

同氏によれば、従来は「こんなの本当に必要なの?」と思われるものまで出力するなど、帳票開発にはムダが多かったと語る。現在はコスト圧縮、環境対策といった要素が業務システムの開発における必須条件とされることも少なくなく、「ムダな帳票は淘汰されていった」(同氏)という。

また、ペーパーレス化の流れの中で従来の「紙」をPDFなどの電子データとしての保存・利用するなどの利用シーンも確実に増えている。結果として残った「帳票」は「本当に重要(必要)なもの」であり、特に「紙」として出力しなければならない帳票に対する顧客の要求(こだわり)は、これまでにも増して厳しくなっているというのが現状のようだ。

精度を求めるなら"日本製"のツールを

福岡氏は、厳しさを増す顧客の要求に対応するにはツールの活用が不可欠だという。

「罫線の幅をプロパティで"0.75mm"に設定したのに、ツールによっては勝手に"0.7mm"にされてしまうものもある。これでは、出力結果を確認しながら微調整するといったアナログな作業が必要となり、ツールのメリットを生かしきれない」

同氏によれば、実際にはツールを使ってるのにわざわざ電卓を使ったり、ツールがあるのに属人的な"ノウハウ"によって力技でなんとかしてしまったり……といったことが現場では多いとのことだ。

もちろん、顧客に対して「できません」と言うのは簡単だ。しかし、「本当に重要なもの」である帳票について、顧客側も簡単に妥協するわけにはいかない。福岡氏は、「日本製のツールなら、このような要求にきっちりと対応できるものが多い」という。

デザインツールの使いやすさもポイント

帳票を作るということは、最終的に"カタチ"になるものをデザインするということでもある。ということは、帳票ツールに用意されたデザインツール(デザイナー)のユーザービリティは、効率化のためには極めて重要な要素となる。

「ツールを導入する際は、スペック面での要素に注目しがちだが、実際に現場で作業する開発メンバーのことを考えると、帳票をデザインするデザイナ機能が "いかに使いやすいか" ということがポイントになる」(福岡氏)

帳票開発の業務は、入出力項目やレイアウトを決めて……といった帳票定義のプロセスが最も時間がかかり、かつ苦労する部分でもある。度重なる修正要求にも迅速に対応できなければならない。

また、場合によっては納品後に「ここをちょっと直してほしい」といった依頼もあるわけで、そのような際にツールが「使いやすい」ということは非常に重要なのだ。帳票作成業務を外部に委託している場合、プロジェクト完了後に追加修正を外部にお願いするのは事実上困難。そんな時、"ちょっと"の修正をリーダークラスの人が自身でできるのとできないのとでは大きな違いを生む。その意味でもツールの「使いやすさ」は大事なポイントになる。

移行期を迎えた帳票ツール

福岡氏は、「帳票ツールはいま、移行期を迎えている」という。

「現在のWindows開発環境の主流は.NET Framework 2.0。Visual Studio 2008を導入している現場でも、実際には、ターゲットのバージョンとして.NET Framework 2.0を意図的に選択してアプリケーション開発を行っているところが多いのではないか」(福岡氏)

そんな状況でも、「新規案件はVisual Studio 2010、.NET Framework 4で開発してみたい」という案件が増えつつある。この背景には、「Silverlight 4やWindows Azureなど.NET Framework 4が前提となる技術が選択されはじめている」ということがあるようだ。

そうなると、帳票ツールにも最新の開発環境に対応したものが求められるようになる。その意味では、「今はツールの導入・移行を検討するには好適なタイミング」(同氏)とのことだ。