フィンランドNokiaのQt Software Framework部門は10月11日から3日間、ドイツ・ミュンヘンで年次開発者カンファレンス「Qt Developer Days 2010」を開催した。11日のトレーニングに続き、12日のオープニング基調講演ではNokiaのCTOであるRich Green氏が登壇、NokiaにおけるQtの重要性やコミットについて語った。

Green氏は、米Sun Microsystemsでソフトウェア部門トップを率いた人物だ。Green氏は2008年11月にSunを退社、Nokiaには2010年5月に入社した。Qt開発者の前で公式に話すのは今回が初となる。

「Nokiaでは新入社員」とGreen氏。「再び、開発者やコミュニティと作業できることをうれしく思う」と述べた

NokiaのCTOとしての任務について、Green氏は、「開発者組織と技術やマーケティングの組織とを合わせて、将来のビジョン構築に導くこと」と説明する。「製品設計、重要度が高くなっているユーザーインタフェース、技術戦略やビジョン、アーキテクチャ、どのように構築するのかのプロセスなど、さまざまな分野で助言や提言を行いながらリードしている」と続ける。

NokiaはQtに対し、

  1. 全世界の開発者向けにプラットフォームとツールを提供する
  2. Nokiaが顧客向けに素晴らしい製品を構築するのを支援する

という2つの目標を設定している。

携帯電話メーカーのNokiaがQtのTrolltechを買収したのは2008年のことだ。この背景について、Green氏は「エクスペリエンスの重要性が高くなっている」というモバイル市場のトレンドを持ち出す。スマートフォンブームがもたらしたトレンドだが、「Qtの買収は、Nokiaのアプリケーションへのコミットを象徴するもの」とGreen氏。Nokia社内でQtを利用して優れたユーザーエクスペリエンスを使うことが最大の目的という。

同時に、既存のQtユーザーの投資を保護し、大きな価値を提供するとも約束する。「デスクトップ、モバイル端末などに向けて開発する開発者に、引き続き優れたプラットフォームとツールを提供する。だが、一方通行ではなく、開発者やコミュニティといっしょに改善していく」とGreen氏は会場に呼びかけた。

プラットフォームがアプリケーション開発者とともに成長するための必須条件は、

  1. 大規模かつホモジニアスなインストールベース
  2. 優れたツール
  3. 開発者向けのシンプルかつ生産性が高い環境
  4. 実証済みプラットフォーム

とGreen氏。NokiaはアプリケーションプラットフォームをQt一本にフォーカスし、Nokiaが採用するSymbianとMeeGoの2つのOSの両方を結ぶ役割を持たせる。「たくさんの選択肢を揃えるのではなく、絞り込むことが重要」とGrenn氏。今後もQtへの投資を継続し、その成果を自社製品で活用して収益増を図るという戦略だ。Green氏はこれを、「Eating your own dog food(自社技術を自分たちが使う)」と形容する。

進化の方向性は、ユーザーエクスペリエンスだ。「素晴らしいエクスペリエンスの提供は、モバイルでは特に重要になる。これを実現するには外観と機能の両方が必要だ」とGreen氏。「Qt 4.7」で加わったユーザーインタフェイス構築ツール「Qt Quick」は、戦略的に重要になる。

基調講演ではデモ担当者がQML(Qt Quickの宣言的言語)のアプリケーション例として、「QML PathView」エレメントを使って構築したアルバムアートを表示するアルバムブラウザアプリを紹介した。コードはわずか130行だったという

Green氏は最後に、開発者がQtを利用するもう1つのメリットとして潜在市場の規模に触れた。QMLで作成したアプリケーションは、Nokiaのアプリストア「Ovi Store」で提供できる。潜在ターゲットは、インストールベースでは1億7,500万台、実際にOviに1カ月に1度以上アクセスする「アクティブ」デバイスに絞り込んでも4,500万台という。これに加え、次期「Symbian ^3」ベースの端末の予想出荷台数として、5,000万台が加わると予想。「すばらしいアプリを効率よく迅速に開発し、大きな市場にリーチできる」とGreen氏。

Nokiaではアプリ開発奨励として、賞金プログラムも展開している。年次イベント「Nokia World」では、アプリケーションコンテストの最優秀者に100万ドルの賞金を授与したほか、最新のフラッグシップ機「Nokia N8」では米AT&Tと共同で同じようなコンテストを展開する。米国外の開発者も応募できるとのことだ。

Green氏は基調講演直後に行われたプレス向けセッションで、Green氏と技術プランニング担当副社長のEric Klein氏が投資保護、Qt Quickなどについてコメントした。

「Nokiaに入社以来コードを書く時間がなく、まだQtを使ったことがない」というGreen氏

--スピーチでは後方互換性を強調されていましたね。

Green氏: 効率のよいアップデート/アップグレードメカニズムを構築していると思う。既存のデバイスを利用する顧客が確実に最新技術にアクセスできるようにしている。時間をかけてすべてのプロセスやプログラムを見直ししているところだ。互換性は重要なコミットと考えている。

--Qt Quickにどのぐらいフォーカスしているのでしょうか?

Green氏: 開発者に最大の効率性をもたらすプラットフォームを目指している。迅速にアプリを構築できるだけではなく、視覚的に美しいものを最低限の作業で実現する。これは(開発ツールにとって)必須になっており、これを提供しなければならない。

Nokiaスマートフォンのインタフェースは最高レベルに魅力的なものにしたい。そのために、継続的にプラットフォームを進化させ、それを活用する。これも重要なコミットだ。

「Richと一緒にJava開発に関わった」というKlein氏

--Java/Swingと比較してC++/Qtをどう見ていますか?

Klein氏: 2つともそれぞれの意図や目指すものが異なる。Swingは歴史があり、開発者の多くが親しんでいる。成熟した環境だ。

Qtも幅広いコミュニティで同じように発展してほしいと願っている。Qt Quickはそれに寄与するだろう。

性能、効率性、機能へのアクセスと、開発者が望むことすべてをもたらす開発環境は成功する。エンタープライズでJavaとSwingが普及したのもそのためだ。組み込み/デスクトップ/モバイルのコミュニティで同じような特徴を持つのはQtだ。実際、Qt Developer Daysの参加者は年々増加している。これは、Qtを利用する開発者が増えているということを実証していると思う。