【レビュー】

BOOK REVIEW - 数理モデルで解き明かすソーシャルメディア時代のヒット現象

    本多義則  [2010/10/13]

    ブログやTwitterはCGM、つまりConsumer Generated Mediaといわれる。これは消費者が自身の生活について書き込むものである。ブログやTwitterもメディアであるからマーケティングの手段となり得る。マスメディアで商品の宣伝や広告がなされてきたのに加えて、ブログやTwitterを宣伝/広告にどのように使うか、具体的にはブログなどで口コミをどのように起こさせるかが目下のCGMの話題である。

    口コミをブログ等で起こさせるための方法として、これまでは、ブロガーに依頼して商品の紹介をさせるというものがあったが、最近では流行っていないようだ。やらせでブログが炎上したという事件もあったし、なによりその人のブランドに傷がつくということにブロガーたちが気づいたのが本当のところだろう。

    ほかにはブロガーイベントというのがある。これはイベントにブロガーを招待し、あとで記事を書いてもらうというものだ。こちらは従来のマスメディアと同じようにブロガーが扱われつつある現象とみているので、今後もなくなりはしないだろう。

    あとは、企業自らがブログを立ち上げて、商品開発のストーリーを語ったり、企業側の生の声を発信したりして、消費者に影響を与えるとともに、消費者からの声を収集したりしている。

    現在のブログマーケティングはざっとこのようなところだ。いかに口コミを起こすかというものだが、CGMの特徴はほかにもある。それはCGMの生データを収集して分析することが可能になっているということだ。

    これこそが今後注目されるべきCGMの特性なのだ。リアルに存在する大量の生データ(=ブログ、Twitterなどのソーシャルメディアの書き込み)を収集、分析することで、消費者が全体として何を考えているか、何が流行っているか、また、今後流行りそうかが、アウトプットとして得られる時代がきているのである。

    どうやってブログを分析するのかというと、基本は検索エンジンである。人間がブログをひとつずつ見てはいられないので、ある程度の自動化は必要だ。たとえば、kizasi.jpというサイトはブログの分析により、流行りそうなきざしを見つけることができる。

    商品宣伝担当のプロがこのような分析を活用できないか、というと実は可能なのだ。そこで今回紹介するのが『大ヒットの方程式 ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する』(吉田就彦/石井晃/新垣久史 著) である。

    この本は、アバターなどの映画を題材に、なぜこの映画はヒットしたのか、なぜヒットしなかったのかをヒット現象の数理モデルに基づき分析したものだ。

    著者は、マイコミジャーナルでもコラムを執筆されている、ヒット学の権威で「チェッカーズ」や「おニャン子クラブ」「だんご3兄弟」をヒットさせたデジタルハリウッド大学大学院教授の吉田就彦氏と、鳥取大学の物理学の石井晃教授、鳥取大学博士後期課程在籍の新垣久史氏である。本書はエンターテインメントと物理学の融合により開拓された新たな境地である。

    ヒット現象の数理モデルとは何か? そもそも数理モデルとは自然現象や社会現象を単純化し数式で表し、シミュレーションを行うことにより今後の動向を予測するものである。一般に商品のヒットの原因となる要因にはAとBがあり、AとBとヒットの間にはこのような関係があると数式で表すことがヒット現象を数理モデル化するということである。本書にはその数理モデルが示されており基本的には微分方程式である。

    ヒット現象のモデル化においては、

    1. 広告・宣伝・報道の効果
    2. クチコミの効果
    3. 街中の噂

    の3つの要素からなるとしている。

    本書によると、いかに3の「街中の噂」を発生させるかが映画ヒットの鍵である。そのためにどのように広告/宣伝を打てばよいのかがブログの分析によってわかるのだ。

    また、ブログの内容を形態素解析により単語レベルで分析し、消費者がどのような感想を持っているかをマクロに把握することもできる。これにより過去のヒット作が消費者にどのように感じられたのかがわかるので、次の作品のための参考情報となり得る。

    このような分析はブログならではである。従来は紙のアンケートなどでしか消費者の声は収集できなかったので多数のリアルタイムの分析は不可能だった。企業のマーケターは今後はブログ、Twitterの分析を定量的に行う必要があるのかもしれない。

    注意してほしいのは、本書でも書かれてあるように、広告/宣伝戦略により、駄作をヒット作にすることはできないということだ。作品の中身が悪ければCGMによりあっという間にその噂は伝わる。広告/宣伝のできることは、もともと存在する作品の素晴らしさを最大限に世の中に伝えることであることを忘れてはならない。

    本書は、カンと経験と度胸でやってきたマーケティングに対して、CGM時代ならではの科学的手法を持ち込んだという点において一見の価値のある内容である。

    大ヒットの方程式 - ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する

    吉田就彦/石井晃/新垣久史 著
    ディスカバー・トゥエンティワン 発行
    2010年9月15日 発売
    A5判 / 208ページ
    価格 2,100円(税込)
    ISBN 978-4-88759-846-1
    出版社から: 『アバター』のヒットは封切り3日後にわかっていた! CGM(コンシューマー・ジェネレイティド・メディア)マーケティングを初めて数式化、「ダ・ヴィンチ・コード」「桃ラー」「水木しげるロード」etc. ヒットの経緯を分析し、ヒットを創り出す手法を提示する。クチコミの力を数理モデル化した前人未到の1冊!

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