アクシスコミュニケーションズ 代表取締役社長の永久茂氏

監視カメラシステムでアナログ方式からデジタル方式への移行が進んでいる。デジタル方式に対応した監視カメラはネットワークカメラと呼ばれるが、矢野経済研究所の調査レポートによると、2005年に全世界で約500万台だったネットワークカメラの市場規模は、2008年には約1600万台と3倍強にまで成長。リーマンショックの影響で2009年こそ前年比6.9%増にとどまったが、2012年までに年率20%で伸びていくことが見込まれている。

そのネットワークカメラ市場で約32%の世界トップシェアを握るのがスウェーデンに本拠を置くネットワークカメラベンダー、アクシスコミュニケーションズABだ。同社の日本法人アクシスコミュニケーションズは9月27日、ネットワークカメラの映像を記録するレコーダー分野で国内トップシェアのR.O.D(アール・オー・ディー)と販売提携を強化することを発表。"監視カメラシステムのデジタル化"という市場ニーズの高まりにこたえるための体制を整備した。

そこで本誌は、アクシスコミュニケーションズで代表取締役社長を務める永久茂氏に、監視カメラの市場動向やデジタル化のメリットを聞いた。

最大のメリットは解像度の高さ、さまざまな分野で応用

「監視カメラシステムのデジタル化は、5年ほど前から大きく伸びてきました。アナログからデジタルへのリプレースするというニーズが中心で、特に、欧米では、治安の悪化やテロへの対応という観点から、空港や港湾、街頭の監視カメラをデジタル化する流れが進んでいます」(永久氏)

アナログでは、輪郭がぼやけた人物がカクカクとコマ送りされるような映像が普通だ。だが、デジタルになると、人物の顔の表情はもとより、レジに入ったお札が何で、どのように数えているかまでがクッキリと滑らかに映し出される。映像を見比べると、ちょうどテレビ放送がアナログからデジタルへと変わったくらいのインパクトを受ける。永久氏はそのメリットについて、こう話す。

「最も大きなメリットが、そうした高精細な映像を映し出せるという点です。アナログの監視カメラの解像度は高くてもVGA(640×480ピクセル)。人の顔を正確に判別するには最低でも60ピクセル幅が必要とされているのですが、VGAでは小さく写った人の顔を拡大してもぼやけてしまいます。一方、デジタルの場合は、VGAの4~5倍にあたるHDTV(1280x720/1920x1080)に対応していて、顔のちょっとした表情の変化まで正確に記録できるのです」

ストレージ容量の拡大もフレキシブル

高解像度に加えて、データの容量に応じてストレージの容量をフレキシブルに拡大させられる点もメリットの1つだ。一般にCCTV(Closed Circuit Television)と呼ばれるアナログの監視カメラシステムシステムでは、アナログビデオカメラで撮影した映像を、ビデオ端子を経由してVHSテープやハードディスク(DVR: Digital Video Recorder)に保存する。テープは容量を自由に拡大できるわけではないし、DVRの場合も一度アナログデータをデジタルデータに変換するなどの手間がかかる。

一方、デジタル方式の監視カメラシステムでは、デジタルビデオカメラで撮影した映像を、IPネットワークを経由してネットワーク上のハードディスク(NVR: Network Video Recorder)に保存する仕組みだ。iSCSIやSANにも対応しており、ハードディスクの増設によって、高いスケーラビリティーを確保することができる。

「スケーラビリティについては、カジノの事例が参考になります。カジノでは、ディーラーやプレイヤーの不正行為を防ぐために、監視カメラが数多く設置されています。例えば、1つのルーレット台には8~10台の監視カメラがある。これだけの規模になると、デジタルデータとして直接扱うほうがメリットがでます」

実際、ラスベガスのカジノでは同社のネットワークカメラが大量導入されていて、取り扱うデータ容量は、1つのビルで数十テラバイトを超えるほどだという。

遠隔地からの監視も可能

3つめのメリットとして挙げられるのは、遠隔地からの監視が可能になることだ。ネットワークカメラで撮影された映像は、IPネットワークが構築されていればデータのやりとりができる。このため、例えば、複数の支社や店舗に設置した監視カメラを本社側で集中管理するといったことができるわけだ。

特に国内では、こうした遠隔監視に対してのニーズは高く、コンビニやスーパーといった小売業向けが半分程度を占めるという。興味深いのは、小売業の中には、「監視」にとどまらない用途でのテストケースが始まっている点だ。

「例えば、商品の陳列棚を監視カメラで写して欠品の有無をチェックしたり、フロア全体を監視カメラで見渡して、顧客がどういった回遊行動を取るのかを探ったりといった取り組みが始まっています。また、海外では、カメラ本体に備わる人数カウント機能を使って、来店した顧客の数を数えるといったケースも見られます。高精細、スケーラビリティ、遠隔監視という3つの特徴を生かして、CCTVでは出来なかったような新しい用途での利用が始まりつつあるのです」

トータルソリューションの実現に向けて

もっとも、永久氏によると、そうしたさまざまな用途の紹介や提案を幅広く行なっていくには、アクシスコミュニケーションズだけでは難しい面があったという。同社は、ネットワークカメラのトップベンダーであるが、レコーダー(NVR)やネットワーク機器まで取り扱っているわけではない。一方、監視カメラシステムは、監視カメラとレコーダーなどの機器とを組み合わせることで初めて提供されるソリューションである。そこで、同社は、NVRベンダー最大手のR.O.Dとパートナー契約を結ぶことによって、両社の特徴を生かしたソリューションを提供できるようにしたという。

永久氏は、同社製品の特徴と提携の意義について、こう話す。

「当社製品の特徴は、機種のラインアップと機能のバリエーションが豊富なことにあります。ラインアップとしては、屋内/屋外用の固定カメラ、ドーム型カメラ、パン/チルト/ズーム可能なカメラなど、全70機種を揃え、機能としては、メガピクセル/HDTV解像度への対応、Power over Ethernet対応、ワイヤレス接続、赤外線、双方向音声などがあります。こうした特徴は、マルチベンダーに対応したR.O.Dの『VioStor』と組み合わせることで、より大きなメリットを引き出します。R.O.Dと営業支援リソースの重点投入や共同拡販活動の強化を図りつつ、各種機能の設定方法や初期導入時の問い合わせに対してスムーズに対応できる体制を整えていきます」

監視カメラシステム全体で見ると、アナログのシステムが大半を占めているのが現状だ。永久氏は、デジタル化を進めるうえでは、デジタル化によってメリットが出るシステムと、アナログのままで運用したほうがよいシステムとを見極めることも重要とし、今後は、そうした監視カメラシステムの最適化についても積極的に提案していくという。