円高基調が止まらない。今年の6月10日前後には米ドル-円相場は91円前後を推移していたものが、3カ月後の現在84円をあっさり突破。どこで下げ止まるのか、まったく先行き不透明な状況となっている。

円高影響による企業の業績低迷は気になるが、個人投資家にしてみれば、円高の今こそ、外貨投資の好機到来とみるのが今までのセオリーだった。しかし、どこまで円高が進むか先行きが見えないなか、既にFXやその他の外貨投資で損失を抱えている投資家も多く、そう簡単に投資に踏み切れない向きも多いだろう。

そこで今日紹介したいのは、発想を変えて、短期で利食いを狙うのではなく、1度投資したら果報は5年以上寝て待て。あとは2倍になるのか3倍になるのか、はたまた少々の利益に止まるのか、将来の相場に賭けるという外貨投資。その名も「ディスカウント債券」投資だ。

ディスカウント債券とは聞き慣れない名前だと思うが、クーポンを受け取りながらも、当初の債券価格は償還時に受け取る額面金額より割り引かれている、という利付債とゼロクーポン債の間をとったような商品(表1参照)だ。

【表1】外債の種類

※途中売却時、譲渡所得で総合課税の対象となるのは以下の通り。所有期間5年以下 : 譲渡益ー特別控除50万円、所有期間5年超 : (譲渡益ー50万円)×1/2 ※2 年収2000万円以下の給与所得者で、償還差益を含めた給与・退職所得以外の所得が20万円以下の場合は所得税の申告の義務はない

外債には利付債、ゼロクーポン債以外に、知る人ぞ知る第3の債券がある

利付債の場合は、購入時と償還時の額面金額が変わらない代わりに、定期的にクーポンを受け取るところが旨味だ。現在外債投資をしているほとんどの人が、豪ドル、NZドル、ブレジル・レアル、南ア・ランド、トルコ・リラなどの債券に投資しているのは、その利率の高さが魅力だからだ。しかし、利付債の場合、クーポンを受け取るたびに、20%の源泉徴収をされてしまう。たとえば、毎回円換算して10万円のクーポンを受け取ることになっていたとしても、実際は8万円しか手元には来ない。利率5%の3年債に200万円投資したとしても、毎年10万円、合計30万円のクーポンを受け取るはずが、実際は24万円しか受け取れないわけだ。

これがゼロクーポンの場合、たとえば購入時170万円の債券を3年後の償還時に200万円で受け取る、という形になる。この場合、途中で受け取るクーポンはないので、20%の源泉徴収はとられない。しかし、償還差益である30万円には、雑所得として総合課税されてしまう。一般のサラリーマンなら、所得税が10%の人が多いので3万円の課税ということになる。さらにあとから住民税がかかってくることになり、利付債と比較した時のメリットはどっこいどっこいといったところだろう。

高い利回りをクーポンではなく額面にのせて約2倍に増える

では、ディスカウント債はどうだろう。ここでは、エイチ・エス証券が7月30日に販売を開始(既に販売終了)したドイツ銀行発行の円貨決済型ブラジル・レアル建ディスカウント債券の例で見てみよう。この商品、ブラジル・レアル建の7年債であるにもかかわらず、利率は0.5%しかない。通常なら、4年債でも7%前後はクーポンがついているのから見ると、非常に低い設定となっている。しかし、その分、売出価格は償還価格の54.17%となっている。クーポン分を足せば、7年後の償還時には合計で約2倍相当が手元に戻ってくることになる。これだけ見ても、結構な高利回りなのでおいしい商品なことはわかる。

【表2】円貨決済型ブラジル・レアル建ディスカウント債券の仕組み
(ドイツ銀行発行 2017年8月25日満期7年債の場合)

[利率]年0.5%(ブラジル・レアルベース)
[売出価格]額面価格の54.17%
[償還価格]額面価格の100%
[発行日]2010年8月27日
[償還日]2017年8月25日
[販売単位]1万BRL以上、1万BRL単位
※1万BRLの場合、約27万円(スプレッド適用後、為替レート50円の場合)

しかし、ディスカウント債のメリットはこれに止まらない。先ほどのゼロクーポン債のところでも紹介したが、償還まで持つとその差益は雑所得として総合課税されてしまう。たとえば1BRL=50円(スプレッド含む)で購入額面1万BRL分を投資するには、約27万円が必要となる。これが7年後には利金合計1万7500円(実際はここから20%源泉)に償還差益22万9150円を加え、合計24万6650円が収益となり、手元には51万7500円が戻ってくることになる(為替が購入時と変わらない場合)。

さらに利付債ならではの途中売却の裏ワザを使う

そこでここでもう1度表1を見てほしい。もしも、この債券を7年の償還を待たず、6年6カ月で売却したらどうなるだろう。途中売却は利付債の場合、非課税となるのが通常。上記の例だと、差益22万9150円まるまる手元に残ることになるわけだ。

もしも、これが7%などの高いクーポンでもらっていたら、その2割が源泉されてしまう。そのデメリットを最大限に低減し、額面部分に乗せることで高い収益を実現しているのがディスカウント債。これにさらに途中売却の技を使えば、同じ条件なら、利付債よりゼロクーポン債より、高い収益が自ずと実現することになる。長く外債を販売している業界関係者も「あまり人には言いたくないお宝商品」と口を揃えて、そのメリットを語る。

今回は円高投資ということでこの商品を紹介しているが、先ほどは、7年後の為替レートが今と同じだった場合で計算している。しかし、現在は最初に言ったように史上稀に見る円高相場だ。ブラジル・レアルは現状50円前後となっている。これが直近の高値70円になった場合だと、償還差益だけで22万9150円は42万9150円にもなる。しかも、途中売却なら非課税で手元に戻ることになる。

このお宝外債、ディスカウント債は、エイチ・エス証券、SBI証券などで比較的よく取り扱いをしている。その他の証券会社でも、取り扱っていることがあるようなので、担当者に問い合わせてみるといいだろう。

円高の今だからこそ、あせって短期の収益を追うのではなく、果報は寝て待て、といった投資スタンスをとってみることも一考ではないだろうか?

(経済ジャーナリスト 酒井富士子)