存在感を放つDeNAとグリー

CEDEC 2010オープニングスピーチをする和田洋一CESA会長

ゲーム開発に関わる技術者やアーティストなどが一堂に会する国内最大規模のゲームカンファレンス「CEDEC 2010」が今年もパシフィコ横浜で開催された。ゲーム開発を生業とするプロフェッショナル向けの有料セッションが中心となるが、昨年に続きゲーム業界を目指す学生向けに入場無料の「『ゲームのお仕事』業界研究フェア 2010」も併催された。また、ニコニコ動画の「CEDECチャンネル」を通じ一部セッションがライブ配信され、より多くの人がCEDECを体験できるようになった。

これまで世界をリードし続けた日本のゲーム産業が低迷し、とくに新規市場の開拓や技術開発で欧米勢に遅れをとっているのは数年前から語られているとおりである。大型タイトルを作り続ける従来型のゲーム企業は意思決定が遅く、時代の変化に十分に対応できていないことが指摘されている。

そんな中、CEDEC 2010で強く存在感を示していたのが、モバイルのソーシャルゲーム市場で成功したディー・エヌ・エー(DeNA)とグリーの2社だった。

「モバゲータウン」を運営するDeNAは代表取締役社長の南場智子氏が特別招待セッションでソーシャルゲーム市場について講演した。一方の「GREE」を運営するグリーはソニーに並んでCEDEC 2010のゴールドスポンサーに名を連ね、多くのセッションと共に会場のいたるところで露出していた。

特別招待セッション「ゲームプラットフォームの未来」南場智子 DeNA 代表取締役社長

ゴールドスポンサーのグリー。セッションも多く担当し、存在感を示していた

両社とも、携帯電話を中心としたモバイル上で動作するソーシャルネットワークとゲームで大きく成長してきた。ファミリーコンピュータの時代から、流通も含めて護送船団的に発展してきたゲーム産業特有のしがらみを持たない点でDeNAとグリーの台頭は興味深い。

世界市場に自信を見せるDeNA

特別招待セッション「ゲームプラットフォームの未来」でDeNAの南場社長は今後のスマートフォンおよび国際市場へのコンテンツの展開に自信を見せていた。DeNAもグリーも、これまではガラパゴスと揶揄される国内の携帯電話市場で成長してきたが、iPhoneやAndrionなどのスマートフォン市場の拡大によってガラパゴス携帯電話からの脱却と海外市場への進出が両社の課題となっている。

日本のモバイル環境は世界で最も発展しているが、海外では成功していない

南場社長は日本のモバイルコンテンツが海外で成功できない理由として、日本とは違う海外市場の事情があると説明する。言語や文化が統一されている日本とは異なり、海外では国や言語、キャリア、デバイスが細かく分散しており、全体では40億の市場に見えても、実際には数百万単位の小さな市場の集まりだという。加えて、標準的な日本人の携帯電話は2~3年で買い換えられるため、多くの人が新しい世代のデバイスを持つが、海外では5年前のデバイスを持つ人も少ない。

南場社長はイギリスを具体例に挙げ、全体で6,100万人のユーザーがいても、Vodafoneでノキアの現行世代のデバイスを使っているユーザーを対象にるすると126万人にしかならないという。日本ではキャリアがプラットフォームを統一しているが、海外ではメーカー仕様やデバイスの世代格差が大きく、そのすべてに対応しようとすると膨大なコストが必要になるという。

海外のモバイル市場は小さく細分化している

iPhoneの登場によって、この状況が大きく変化しようとしている。iPhoneでは国、言語、キャリアが異なっていても、アプリケーションが動作するプラットフォームは全てiOSに統一され、そのコンセプトはAppleという強大な1社によって統合管理されている。よって、開発者はキャリアやデバイスの差をほとんど意識することなくコンテンツの開発に注力できる。

iPhone の躍進によってプラットフォームが共通に

もちろん、スマートフォンの世界もiPhone独占ではなくGoogleのAndroidやMicrosoftのWindows Phoneなどが追従する。それでも、キャリアやメーカーごとに分散しているこれまでの環境に比べれば、数社のプラットフォームに対応するだけで世界中の多くのユーザーにコンテンツを届けられるようになる。

iPhone の成功に続こうとする各社の動き

そして、複数の主要なプラットフォームに対してクロス・プラットフォームでコンテンツを提供するサービスが登場するだろうと予測する。デバイスを抽象化するサービスによって、同じソーシャルゲームをiPhoneユーザーとWindows Phoneユーザーがつながって一緒にプレイできるようになる。当然DeNAもこの地位を狙いにいくのだろう。

iPhone の躍進によってプラットフォームが共通に

ガラパゴス携帯電話で盤石な地位を得た彼らにとって、スマートフォンは脅威だったはずだ。スマートフォンのアプリケーションは競争が激しく、ユーザーも本当に価値のあるものにしか投資しない。これまで通用していた技術やビジネスモデルが、そのままスマートフォンで通用するとは限らない。しかし南場社長はスマートフォンの拡大は新しいチャンスだと歓迎する。

南場社長は世界市場への展開に自信を見せているが、DeNAの試みが一筋縄に行くとは限らない。海外では誰もがプラットフォーマの地位を目指して動き、自社のシステムで囲い込もうとする。Microsoftには「Xbox Live」があり、Appleもまた「Game Center」という同様のサービスを立ち上げる。Googleもソーシャルゲーム企業を相次いで買収しており、この分野への進出は間違いないと予想されている。世界に名立たる大企業に対し、日本のソーシャルゲームで成功したDeNAがどのような戦略で挑むのか注目したい。

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