【インタビュー】
鈴木博達氏は、現在東京大学経済学部の3年生。「FX自動売買研究所」を運営し、自動売買プログラムを受注製作するというビジネスを行っている。前回は、このビジネスを立ちあげるまでの話を聞いた。そのビジネスセンスのよさ、戦略性の高さには驚かれた人も多いことだろう。今回は、鈴木氏のそのセンスの源流はどこにあるのか、そして将来、ビジネスをどう展開していこうとしているのかを聞いた。
鈴木 大学に入るととすぐに、アルバイトを数多くやりました。家庭教師とか、プログラミングとか。それで月収が20万円を超えていて、自分では、ちょっとした金持ち気分だったんです。その頃、起業サークルで、ある女の子と知りあって、付き合っていました。食事もバブリーな感じの高級なレストランに行ったりして(笑)。でも、ふられちゃったんですね。「なんで?」と思いました。「こんなにおいしいご飯をご馳走しているのに」って(笑)。人生、お金じゃないんだなあと思いました。
それで、傷心旅行で、一人で米国のロサンゼルスに行ったんです。その時、ある本屋でたまたま見かけたのが、ドナルド・トランプ氏とロバート・キヨサキ氏が共著で書いた『あなたに金持ちになってほしい』だったんです。これは心に響きました。二人はその本の中で、「安定したキャッシュフローを築くことが大切だ」といっているんです。お金が自動的に流れ込んでくる仕組みが作れれば、常に仕事をしなけれならない状態から解放される。好きな仕事だけを選んでやれるようになるというんです。
――現在の自動売買プログラムを受注製作するというビジネスは、鈴木氏にとって、まさにこの「安定したキャッシュフロー」にあたるものだ。このビジネスは、一見、それなりの知識があれば、誰にもできそうに思えてしまうが、実はそう簡単ではないという。
鈴木 この仕事は、投資の知識とプログラミングの知識の両方が必要なんです。片方だけをもっている人はたくさんいるけど、両方を兼ね備えている人はそう多くありません。
例えば、お客様から「二つのある指標がクロスしたら、ポジションを持つというプログラムを制作してくれ」という注文があったとします。でも、これ、意外に難しいんです。というのは、チャートの直近の足というのは、価格が揺れ動いていますよね。5分足だったら、その足が完成するまでの5分間は、いろいろ価格が変動しているわけです。じゃあ、どの時点の価格を基準にして、指標がクロスしたと判断するのか。直近の足の始値で見ればクロスしていることになるけど、終値では実はクロスしていなかったなどということもあります。これをどう処理するかは、投資の知識だけではできないし、プログラミングの知識だけではできません。両方が必要なんです。
――他の人にはなかなか真似できないビジネスだが、鈴木氏は永遠にこのビジネスにこだわっているつもりはないという。
鈴木 今のビジネスそのままで大きくしていこうと考えたら、人を雇い入れて、顧客を増やして、ということになっていきますが、それではどこまでいっても人件費というコストに比例した売り上げにしかならないんですね。理想的には、できるだけ社員数を少ないままで、できるだけ多くの顧客の要望に応えられる仕組みを作る必要があると思っています。
その点で、Facebookはものすごく参考になります。Facebookは始めた頃は二人でしたし、今これだけ大きくなっても、約50人ぐらいで運営していると聞きます。外部のアプリケーションをうまく活用して、内部に人がいなくてもいい仕組みを作っている。うまいですよね。人数を増やさないで大きな仕事がしたい。インターネット企業でありたい。
――そこで、鈴木氏が現在始めた新しい試みが、FX自動売買研究所の「EA自動開発ツール」だ。人気の高いFX売買ツールMetaTrader4には、Expert Advisor(EA)という言語が搭載されている。これは自分でプログラムを書いておけば、その指示に従って売買シグナルを出してくれて、完全自動売買ができるというものだ。ところが、このEAを作るには、それなりの投資とプログラミングの知識が必要になる。鈴木氏は、このEA制作を受注請負しているビジネスを行ってきたが、新たに「EA自動開発ツール」を公開した。
これはチャート上の画面を見ながら、どのような指標がどうなったらどのようなシグナルを出すかということをメニューから設定していくだけで、EAを生成してくれるというものだ。生成したEAをダウンロードして、自分のMetaTraderに組み込めば、思い通りの自動売買が行えるようになるというものだ。
鈴木 最初は、自分がEAの制作を請け負っているときに、同じプログラムを何度も書くのは効率がよくないと思って作ったものですが、いいものに仕上がったので、みなさんに使ってもらいたいと思ったんです。こういうトレーダーのサポートビジネスに徹した方が最初は堅いし、安定したビジネスになると思うんです。
もちろん、より多くの人に顧客になっていただくために、トレードシステムを開発してレンタルや販売をするというビジネスも考えていますけど、そのためには、投資の高度な知識をもった人とのタイアップが必要です。今は、証券会社さんなどでパートナー探しをしている段階です。
――ところで、鈴木氏はこれだけのビジネスを展開しているとはいうものの大学3年生だ。普通なら就活の真っ最中であるはずだ。就職するという選択肢は取らないのだろうか。
鈴木 別に就職がいやだというわけではありません。正直、就活をすべきかどうかは悩みました。でも、自分はすでにビジネスを回しているし、このまま就職して企業に入って仕事をするのと、今のビジネスを大きくしていくのとを比べてみたら、今のビジネスの方が有利だと判断したんです。
もちろん、今就職をしないと、後は中途採用だけになってしまって、会社に入ることが目的なら、かなり不利になりますよね。でも、僕の目的は会社に入ることじゃないですから。さらに、今のビジネスだって、成功するとは限らなくて失敗するかもしれません。でも、失敗してもフリーターになるだけなんです。再起するチャンスはいくらでもあります。日本というのは本当にいい国で、フリーターをやりながら海外旅行にもいけるなんて国は、他にはなかなかないですよ。
――世間では、「最近の若い者は情けない」「起業しようという意欲がない」などといわれる。鈴木氏は、その中にあって、頼もしいというより、空恐ろしいともいうべき存在なのかもしれない。
鈴木 僕の周りには起業したいと考えている大学生はたくさんいますけど、それは僕が起業サークルなどに入っているので、そういう考えの友人が多いからだと思います。普通の同世代を見回したら、むしろ起業しようなんて考える人はものすごく少数派でしょう。たぶん、僕のことなんか「あいつちょっとヘンだ。就職もしないで大丈夫なのか?」と見られていると思います。でも、それでいいんです。みんながみんな「起業しよう」なんて考えている社会はヘンですよ。起業なんかするのは、一部の変わり者だけ。それでいいんだと思います。
――鈴木氏の最終的な目標とはなんなのだろうか。
鈴木 上場することは目的ではありません。目標というわけではないんですが、アップルのスティーブ・ジョブズ氏のような人物になりたい。ジョブズ氏のスピーチ力は素晴らしい。自分の考えを、簡単で短いスピーチで適確に伝えられて、人を惹きつけることができる。それに、iPodという製品が素晴らしいだけではなく、iTunes Storeというプラットフォームと合せることで成功している。こういうプラットフォームを構築するというビジネスモデルにはとても心惹かれます。
それで会社が成功したら、経営は人にまかせて、まったく別の事業を手がけるかもしれませんね。それでもまた成功したら、そうだなあ、世界一周旅行に行って、いろいろなものを見て回りたいですね(笑)。
――投資、FXというと、ほとんどの人が自分がプレイヤーになるビジネスを考える。要は、個人トレーダーとして成功して、次は顧客の資金を預かって運用してという道だ。しかし、鈴木氏は最初からプレイヤーではなく、投資プラットフォームの構築を目指している。実は、これは現在の証券会社の成り立ちと同じ発想なのだ。10年後、鈴木氏は、従来の証券会社とは異なる21世紀の投資プラットフォームを構築しているかもしれない。
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