ほめポイントを素直に書く
―「自分の評価を上げるほめメール」とは、一体どんなものでしょうか?
自分の評価を上げるには、まず他人を評価しなければいけません。つまり自分からすすんで他人をほめると、その分だけほめ言葉が返ってくる。「情けは人のためならず」ならぬ「ほめ言葉は人のためならず」の法則を利用した仕掛けです。
―ほめ言葉を使いたいけれども、どう言ったらいいかわからない人も多いのでは?
まずは相手をよく観察し、「『すごいねー』とか『頑張ってるね!』とか言ってもらいたいんだろうなあ」と感じた個所を素直に触れてあげればいいと思います。
例えば僕が講師をつとめるプロフィール講座の生徒から、「私が取材された記事が雑誌に掲載されました!」とメールが来た場合。
そこで「そういえば僕も今日取材なんだよ」と返信してしまったら、相手の気持ちは一気に冷めてしまうでしょう。
だからここは「よかったね!! 教え子が活躍する姿を見られて、僕もすごくうれしいです!」と書くのが「ほめメール」です。
―確かに私自身思い返してみると、相手のメッセージの本質を見逃してしまっていることがあるような気がします
メールはあくまでも「相手が主役」。そう考えると「ほめポイント」がとてもわかりやすくなります。
さきほどのメールの場合、生徒は取材されたことをほめてほしいからメールしたのであって、僕の予定を知りたいわけではないのです。まずはそれに気がつかなければいけません。
メールには必ずメッセージがあります。そのメッセージを見逃さず、素直にほめること。メールは相手の顔が見えないので、自分の情報を伝えることが優先だと思いがちですが、むしろ自分のことは書かなくていいんです。「ほめメール」で大切なのは自制心。相手をよろこばせるために書くものですから。
表現は大げさなほうがいい
―人をほめる時には、「3割増」で表現することも必要だとか
転職を決意した別の生徒にはこんなメールを送りました。
「よく決心しましたね。さみしさと不安な気持ちが交錯しているだろうけど、新たな世界に旅立つには通らなければいけない道だし、お母さんの夢も託されているよね。これからあなたが暴れまわることでみんなが幸せになるはずです。楽しみにしているよ!
今の状況や気持ちも忘れないで。近い将来、あなたが悩んだり行動したりした経験を学びたいと思う人がきっと出てくるから。今日がスタートです。そして私はあなたに会えて本当に幸せです。ありがとう」
これが3割増で書くということです。いわゆる「クサイ文章」ですね(笑)正直なところ、書いている自分も恥ずかしい時がありますが、ここまで書かなければなかなか気持ちは伝わらないんです。
このメールのポイントは、
・気持ちが暗くならないようなストーリーにする 「あなたが暴れまわることで……」
・生い立ちや過去のエピソードを入れる 「お母さんの夢も……」
・その人が決して孤独ではないことを伝える 「私はあなたに会えて……」
です。
これらの要素を組み込むことによってはじめて、「私はあなたを応援しています」と伝えられるのです。
―「ほめメール」は新人教育にも使えそうな気がします。浅野さんならどう書きますか?
僕が教育係で、ミスをした新人の指導をするという立場だとします。
頭ごなしに叱ったり新人の気持ちを無視したりすると逆効果だと思うので、まずはミスが起こった経緯をストーリー仕立てにすると思います。
「○時ごろの○○売り場で、君がよかれと思ってしたことに対して、お客様はこうおっしゃったよね。本当にびっくりしたでしょう。実は私も22歳のころ……」
と当時の自分の経験や感情の流れを思い出し、新人と同じ気持ちになるんです。
「わかるよ。自分にも同じようなことがあった。その時は……」と自分のエピソードを語れば、「浅野さんも同じようなミスをしていたんだ」と新人もホッとするはず。アドバイスはそれからです。
―アドバイスの前に共感することが大事なのですね
いくらアドバイスをしても、相手が心を開いていなければ通用しません。いきなり「こうしろ!」と言っても人は納得しませんが、相手の気持ちを尊重していれば、そのうちに向こうからアドバイスを求めてきます。それまで耐える覚悟があるからこそ、メールで人の気持ちを動かすことができるんです。
メールで理想の姿に近づく
―人をほめたり励ましたりするのがつらい時はありませんか?
もちろんあります。自分が落ち込んでいるときに、相手を励ますのはつらいですよね。でもメールは素の自分と切り離して書くことができるし、送信ボタンを押すまでは何度も書き直しができます。僕もメールを書くときは、「理想の浅野ヨシオ」になっているんです。
僕はコミュニケーションが大の苦手でしたが、「理想の浅野ヨシオ」になりきってメールを書いているうちに、普段の生活や会話でも「理想の浅野ヨシオ」になっていきました。メールはとても効果的なコミュニケーション訓練ツールなんですよ。
おかげで僕のもとにはたくさんの人が集まるようになりましたし、何かと助けてもらっています。友人には有能なビジネスパーソンも多いのですが、僕は彼らにビジネス上の貢献をしたことはありません。
むしろビジネスとは関係がない感情や共感を重視したからこそ、これほどの縁や協力が得られたのだと思います。
(撮影 : 中村浩二)
次回は、「初対面の直後に出すメールのポイント」についてうかがいます。
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