東京大学 情報理工学系研究科 教授 江崎浩氏

ICTが社会インフラとして透明化する一方で、これらの技術があまりにも一般化したために、安全性への思慮が欠けたまま利用するユーザが後を絶たない。日本のICT基盤を発展させていくためにも、今こそICT人材教育を本気で実践していくべき - こうした主旨の下、ICT教育の普及/推進を進めていく組織として「ICT教育推進協議会」が設立された。東京大学 情報理工学系研究科 教授の江崎浩氏が会長を務める。

江崎会長以下、同協議会の運営委員を務めるメンバーは以下の通り。

  • シスコシステムズ
  • 下條真司氏(大阪大学サイバーメディアセンター)
  • 日本電子専門学校
  • 山口英氏(奈良先端科学技術大学院大学)
  • 吉田眞氏(東京大学)

その他、監事は大木榮二郎氏(工学院大学)、顧問は佐藤元嗣氏(イークラフト)がそれぞれ務める。会員は一般会員と賛助会員があり、ともに入会金無料、年会費は一般会員は2014年度までは免除、賛助会員は2010年度は免除、以降は1口10万円からとなっている。8月12日現在、一般会員にはWIDEプロジェクト、IPv6普及・高度化推進協議会などが、賛助会員にはインフォテリア、シスコ、日経BPマーケティング、ネットワンシステムズなどが名を連ねており、同協議会では2010年度中に計100団体の加盟を目指すとしている。

今後、分科会としてワーキンググループ(WG)を設置し、「ネットワーク教育WG」「IPv4アドレス枯渇対応WG」「国際化対応WG」などを通して活動を行っていく予定だ。ネットワーク教育WGでは、ICT教育プログラムを指導する講師を支援する組織「トレーニングセンタージャパン(TCJ)」と連携を図り、TCJへの支援を通して同ワーキンググループの活動とするとしている。

日本が抱えるICT人材育成の課題をどう乗り越えるか

ICT人材育成の課題は、一般のICTリテラシを啓発し、高い技術力をもつICT技術者を育成すること、そして、ICT教育を行う教育者を育成することの2つが挙げられる。そのため、ICT教育推進協議会では、高等教育機関でのICT教育実践および教育者養成の支援を行うことはもちろん、早期からの人材育成が急務だとして小中学校などでの実践も進めていきたいとしている。とくに強く主張している点が「グローバル化」だ。江崎会長は「グローバル化はもはや日本が正面から向き合わなくてはならない課題。これからは小中学校でも外国人の生徒が占める割合がますます増えてくることになる。生徒だけではなく、教員もまた、意識を大きく変えなければならないとき」と語り、さらに「国内だけでなく、国外の教育機関に対してもICT教育を実践していく必要がある。新興国と呼ばれる国々の教育活動を日本がいかに支援していくのか、世界が注目している」とする。

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授 山口英氏。TCJ西日本世話人代表も務める

もうひとつ、同協議会が強調するのが「人材の受け皿となる産業界と、人材を育成する教育界の橋渡し役となること」(江崎会長)だ。シスコが同協議会の委員となっていることもひとつの現れで、委員の一人である山口氏は「教育については高所、大所からモノを言う人も多いが、現場の意見を反映していなければ意味がない。重要なのは実行に移すこと、実体験に基づいたスキルをどれだけ身につけることができるようになるかだ」と発言、大学など高等教育機関が社会のニーズにあった人材を提供していくためにも、これまでにあったような産業界との間にある"ミスマッチ"をなくしていかなければならないとする。「世界の第一級の大学教育機関と我々がこれから同じ土俵で渡りあっているけるのか、今、まさに問われている」(山口氏)という。また江崎会長は「我々のような教育機関が研究する先端技術としてのICTと、産業界が取り扱うコモデティ化したICT、この両方をハンドリングしながら活動を推進していくのが我々協議会の役割」とする。

高いICTリテラシをもつ技術者および国際人を育てる、彼らを指導する教員を育てる - そのためには教育機関や企業が単体で、あるいは部分的に連携していても限界が生じる。さまざまなノウハウや経験をもつ組織どうしが協力することが、日本のICT基盤を確立するためにもはや不可欠だとする。今後、ICT教育推進協議会では、ICT教育に係る諸事業の企画/立案をすすめ、実施に向けての情報共有を図り、関係省庁への政策提言なども行いながら、2010年度中に総会を開催する準備を調えていく。

東京大学構内の一室にあるCisco TelePresense 1300。TelePresenseシリーズの中では少人数向けの設計のシステム。慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)と実際に遠隔接続し、SFCの生徒を江崎教授が指導するデモが行われた。高精細画面により、直接対面しているかのようなコミュニケーションが実現、生徒の表情や周囲の様子、板書の文字などもクリアに映し出す。複数間拠点にわたる画面切り替えも可能。若いうちからこういったスタイルのICTコミュニケーションに慣れておくことが、実社会に出たときにも役に立つことになる。教員のほうも、すでにこういうコミュニケーションが普通になりつつあることを自覚して教育に臨む必要がありそうだ