【レポート】

「はやぶさ」 - カプセルのサンプル回収はどうなっている?

    大塚実  [2010/08/13]

    小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還からちょうど2カ月が経過した。いわゆる「ラストショット」や流星となった最後の輝きなど、帰還はあまりにも劇的であったが、その後も国民の間で「はやぶさ」ブームは続き、相模原でのカプセル特別展示には最大で4時間待ちという行列が出現したほどだ。

    相模原での行列。2日間の展示で計3万人の人が訪れた

    しかし一方で、「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルの「その後」については、あまりメディアで紹介されることがない。いま現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)ではどういった作業が続けられているのか。ブリーフィングで明らかになってきた現場の状況について、ここで改めてまとめてみたい。

    微粒子は見つかったものの…

    6月13日の地球帰還後、「はやぶさ」が届けたカプセルは17日23時23分に羽田空港に到着。24日からは、JAXA相模原キャンパスに新設されたキュレーションセンターにおいて、サンプルの回収作業が開始された。

    相模原キャンパスのキュレーション設備。ここでサンプルの処理や保管を行う(提供:JAXA)

    サンプルの微粒子は極めて小さいために、キュレーション装置内で慎重に処理される(同)

    7月5日に開催された記者会見において、カプセル内のサンプルコンテナおよびサンプルキャッチャーに微粒子が見つかったことが発表された。これは新聞などで大々的に取り上げられ、「小惑星イトカワの物質か?」と期待した向きも多いだろうが、いまのところ、これが地球で混入したものなのか、それともイトカワで採取できたものなのか、特定には至っていない。

    このことについては少し補足がいるだろう。イトカワに行って帰ってきた「はやぶさ」のカプセルの中に、なぜ地球の物質が混入しているのか。じつは探査機の製造時や保管時に使われるクリーンルームというのはチリ1つ無いわけではなくて、ある大きさのチリが一定数以下になっていることを保証しているに過ぎない。

    その基準から計算すると、この中には少なくとも数十~数百のオーダーで微粒子が混じっていると見られており、考えられるのは「地球由来の物質のみ」「地球由来とイトカワ由来が混在」の2パターン。「イトカワ由来の物質のみ」と「何も入っていない」は確率的にあり得ず、微粒子が見つかったというだけで大喜びできないのにはこういった事情がある。

    そのため、イトカワ由来の物質が入っていたかどうかは分析の結果待ちということになるのだが、これ以降、メディアでの報道がパッタリと途絶えてしまったのは、じつは「進展があまりなかったから」という側面が大きい。

    といっても、これは想定内のこと。もともとJAXAは、それが判明するのは「8月以降」と当初から説明していた(現在はこれが「9月以降」になっている。遅れている理由は後述)。新しい発表がないからといって、特に大騒ぎするようなことではない。

    サンプルの微粒子は、光学顕微鏡で見ただけでは、それが何かは分からない。電子顕微鏡などによる初期分析にかけないと、由来を特定するのは難しいのだ。しかし、見つかった微粒子を片っ端から分析するのは効率が悪い。また外部の研究機関に渡す分や、将来の技術革新に期待して保存する分もある。そういったことから、まずは回収を進めて、全体像を掴んでから一部を初期分析にまわすことになっていた。それが「8月以降」ということだったのだ。

    予想外の微粒子に作業は難航

    ところが、微粒子の数が多すぎた。それにサイズも小さすぎた。

    サンプルコンテナ内の肉眼で見える粒子については、これは地球由来のものと見られている。現在、興味を持って調べられているのはサンプルキャッチャーの方だが、テフロン製のヘラを使ったところ、10μm以下の微粒子が数十個付着しているのが見つかった。これまでに回収が済んだのはサンプルキャッチャーの一部でしかなく、微粒子の数は最終的にはもっと増えると見られている。

    ヘラに付いた微粒子を(石英製の)シャーレに移すのに時間がかかる。微粒子は静電気でヘラに付着しているので、紫外線などを当てて電荷を減らすなどしないと、取り除くことはできない。しかし微粒子の数が多い上に、もう数回ヘラを使わないとすべてのエリアが終わらないので、こんな手間のかかる方法でやっていては、いつになったら初期分析が始められるのか分からない。そのためJAXAでは効率的な方法を探していた。

    これがいまの状況である。

    これまでのブリーフィングでは、いくつか検討中のアイデアが報告された。まずヘラをそのまま電子顕微鏡に持って行けるように、ステンレスやアルミなどの材質が検討されているという。テフロンは絶縁物であるため、電子ビームを当てるとそこに電荷が溜まってしまうので、電子顕微鏡は使えないのだ。ヘラに微粒子が付いたまま分析にまわせれば効率はかなり良くなる。

    また、サンプルキャッチャーの形状が複雑なため、光学顕微鏡が使えるのは一部の平らな面に限られていた。容器の奥も見られるように、いま調整を進めているとのことだ。

    これがサンプルキャッチャー。平面があったり曲面があったり複雑な形状

    内部は上下に2部屋。サンプル採取時は中央の回転扉で格納先を選択していた

    ところで、現在調べられているのはサンプルキャッチャーの「A室」と呼ばれる側なのだが、じつはもう一部屋あって、こちらは「B室」となる。「はやぶさ」のタッチダウンは2回行われており、B室は1回目、A室は2回目に使用された。

    じつは、イトカワ由来の物質が入っている可能性はB室の方が高いと見られている。「はやぶさ」はタッチダウンの際、イトカワ表面に弾丸を発射して、その衝撃で浮かび上がった物質をカプセルに入れる予定だったが、2回目のタッチダウンの際には弾丸が発射されなかった模様だ。1回目のときは事実上の不時着であったので、こちらも発射されていないのは確実なのだが、30分間も着陸していたので、そのときの衝撃で舞い上がった表面物質がカプセルまで届いているのではと期待されている。

    当初はA室の回収が終わってからB室に着手する予定だったが、A室は大変な割には可能性が低い。ある程度で見切りを付けて、8月末には"本命"となるB室の回収も始めたいという意向もJAXAにはあるようだ。

    JAXAはあと2回、今月の23日と30日に、サンプルの回収状況に関するブリーフィングを開催する予定だ。今後、なにか新しい情報が出てきたら、弊誌でもすぐにお伝えする予定なので、期待しながらお待ちいただきたい。

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