元は3D CADが専門だった脇田玲氏。自身も過去にWeb3Dを使った作品を制作しているメディアアーティスト

東京 表参道に開かれていたギャラリー station 5にて、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 脇田玲准教授のセミナーが開催された。セミナーでは、SFC脇田研究室の研究事例紹介が行われ、クリエイターとして活躍するSFC脇田研究室のOBたちも登場した。

脇田氏は環境情報学部に籍を置き、「デザイン言語」に関する教育とインタラクションデザインの研究に携わっている人物。脇田氏は「最近はデザインとエンジニアリングの両方の能力を持ったクリエイターが注目を集めている」と語り、講義を始めた。

「デザイン言語」とは

一般には馴染みのない「デザイン言語」という単語だが、実は何十年も前に建築やソフトウェア工学の学者が研究を行なっていたという。スタンフォード大学のテリー・ウィノグラード教授は「モノを使うユーザーとモノを作るデザイナーがコミュニケーションをするための視覚的・機能的言語」とデザイン言語を定義していたそうだ。脇田氏はこの言葉を元に自分なりの「デザイン言語」を解釈し、社会に貢献できる人材を育てようと注力している。

脇田氏が現職に就いたのは6年前のこと。既に存在していた「デザイン言語」の授業群を、情報時代のデザイン教育としてテコ入れを行なったという。脇田氏が今後重要となるキーワードとして挙げたのは、「パーソナル・ファブリケーション」。これは「ものづくり革命」とも呼ばれており、小型化した工作機械を誰でも扱えるようになる世界のことだそうだ。

脇田氏は「3Dプリンター技術」を例に出し、自身が想像する夢のような未来の世界を語った。会場のスクリーンには、約200万円の3Dプリンター「uPrint(ユープリント)」が映し出された。これは3Dデータを入力すると、樹脂から立体造形物を作ってくれるプリンターだ。いまはまだ高価な製品だが、今後低価格化が進み、誰もが持つ周辺機器になると予測。そのような時代がくると、「通販で品物を買っても3Dデータだけがネット経由で届けられ、そのデータを自宅の3Dプリンターで出力するようになる。たいていの製品が簡単に手に入るようになる」と脇田氏は語った。「こんな話は誰も信じないだろうが、コンピュータが誕生したときも同じようなものだった。パーソナル・ファブリケーションを提唱するニール・ガーシェンフェルド氏の話によると、IBMが世界中に数十台しか売れないと言っていたコンピュータが、いまやひとり1台の時代になっている。同じことが工作機器にも言えるのではないでしょうか?」

「ファブリケーション」は「ものづくり」という意味

プログラムでこのようなキットを制御すると、簡単な家電の心臓部を作ることができる

実用化が待ち遠しいSFC脇田研究室の研究事例紹介

脇田研究室では、情報がデザインに与える可能性について、さまざまな研究を行なっている。セミナーで紹介されたのは、「Fabcell」と名付けられた色が変わる布。脇田氏は「布は我々が着ている服はもちろん、床や壁など、ありとあらゆるところに使われている。これを情報を伝えるディスプレイにできないかと考えた」と、研究に至った経緯を話した。研究で使用した布は、電気信号を流すと色が変わる布。これをパソコンモニターのピクセル(液晶)のように使えば、身の回りのすべての布をメディア化できる。公開された写真では、まだ布のサイズが大きかったが、今後小型化に成功すればおもしろい製品が生まれそうだ。

さらに紹介された「Living Textile」は、布そのものを動かすという現在実験中の研究。この布は形状記憶合金の繊維で作られており、電気を流すと自在に変形する。例えばこの布をCADで制御すると、作った3Dデータと同じ形に変形させられるのだ。また、インプットとアウトプットを逆転させれば、布の形を手で変えるだけで3Dデータのモデリングが行なえるとのこと。

このように、とても興味深い研究を行なっている脇田氏の研究室には、大学1年生から所属することができる。これについて脇田氏は、「1年生を研究室に所属させることによって、学生たちに学校内での居場所を与えられます。そうなれば学生は早い段階から研究に没頭できるのです」と語った。

Fabcell」の紹介。小さな布がそれぞれ違う色に発色している

「Fabcell」を敷き詰めて文字を表示させる実験

電気信号を与えると変形する布「Living Textile」

後編では、現在はクリエイターとして活躍するSFC脇田研究室のOBたちが登場する。

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