宇宙に行くと"生きてる地球"が感じられる - 野口宇宙飛行士の報告会が開催

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月5日、東京・日比谷にて国際宇宙ステーション(ISS)の第22次・第23次長期滞在クルーとして161日間ISSに滞在し、ISS日本実験棟「きぼう」での科学実験やシステムメンテナンスなどの作業を行った野口聡一宇宙飛行士によるISS長期滞在ミッションの報告会「野口宇宙飛行士 ISS長期滞在ミッション報告会」を開催した。

会場となった日比谷公会堂には1200名を超す聴講者が訪れ、会場は2階席まで埋まった

会場入り口にはロシア船内宇宙服「Sokol-KV-2」(左)やロシア船外宇宙服「Orlan-MK」が展示。来場者が記念撮影を行う風景が見られた

また、宇宙服のほか、ソユーズ宇宙船や同ロケットなどの模型展示も行われていた

JAXA理事長の立川敬二氏

報告会の最初には、JAXA理事長の立川敬二氏が登壇、「ISSの建設に占めるロシアを除く部分の日本負担分は12.8%、そうした貢献もあって長期滞在に2名送り込んだ。この比率だと、1.5年に1回は日本人宇宙飛行士を送り込める計算になる。すでに2名が決まっている。彼らは打ち上げの2年前からチームで訓練を行っている。長い旅だが、見守って欲しい」と今後のISSと日本人宇宙飛行士の活躍に向けた声援を送った。

続いて野口宇宙飛行士が登場。野口宇宙飛行士ら長期滞在クルーが撮影した映像による長期滞在の様子の説明が、およそ30分によるISS内の映像を交えて行われた。映像を見ながら野口宇宙飛行士は、ソユーズ打ち上げ後、5年ぶりにISSを見たときには「ずいぶん大きくなったな」という感じを受けたとしたほか、つくばの管理局と直接通信が可能になったことについて、それまではNASA経由でしかできなかったことに言及。これにより、日本語で通信ができるようになったのことは、日本の宇宙科学技術の発展に大きな意味があるとした。

また、宇宙に滞在した163日(内ISS滞在161日)については、「人間同士のつながりを大切にした日々だった」と振り返り、無重力になれるまでは長く感じたが、その後は早くなったと感じて、山崎宇宙飛行士がISSに着たころからはアッと言う間だったと語った。

ISSにて年を越したこともあり、除夜の鐘をついたりもした

左は山崎宇宙飛行士らと合流した際に撮影した記念写真。中央は夜の日本列島。右下の白い部分が東京で中央左下が大阪

映像紹介の後は客席からの質問に野口宇宙飛行士が答えるQ&Aが開催。長期滞在中にどれくらいの写真をとったのか、日本人宇宙飛行士同士でライバル心はあるのか、といったことが質問として聞かれた。

来場者からの質問に答える野口聡一宇宙飛行士(右)。左は司会を務めたテレビ東京の大江麻理子アナウンサー

野口宇宙飛行士はTwitterで写真の掲載が有名だが、その数は600~700枚という。実際に、長期滞在グループ全体で撮影したのは10万枚程度とのことで、実際に掲載できたのはその1割にも満たない量だったとのこと。撮影した写真の中でお気に入りは2つあり、「1つは景色としての富士山。やはり日本人としてのふるさとと言える感覚を持っている。特にキューポラ(Cupola)が搭載された後からは横向きの富士山の撮影が可能となって、より立体感を出せる写真が撮れるようになった」としたほか、もう1枚については「地球全体を魚眼レンズで撮影したもの。良く、宇宙から地球全体が見れるのか、と聞かれるが、それを今までなかなか見せることができなかった。それが見せられるようになったのは良かった」と写真撮影についての想いを語った。

野口宇宙飛行士が撮影した地球各所の風景

また、他の宇宙飛行士との関係については、「日本人宇宙飛行士はISS参加各国の宇宙飛行士の数に比べて絶対数が少ない。そのため、内部で争うよりも、誰かを出していかなければいけないという想いの方が強かった。若田宇宙飛行士とも一緒に勉強をしていたが、あまりの勉強のつらさに2人で"やってられるか!"と言い合っていた」と告白、ライバルと言うよりも部活の先輩後輩のようなノリで、同士としての感覚が強いとし、今後ISSへ行くことが決まっている古川宇宙飛行士や星出宇宙飛行士などに自分たちの経験をつないでいければとした。

他国の宇宙飛行士との関係に関する質問については、長期滞在の2~3年前よりチームとして活動することに触れ、そうしてコミュニケーションを深めていくことで諍いをしないで済むまでの深い関係を築いていくとし、「ISSでは15カ国から人が集まって同じゴールを目指して活動している。そこで諍いを起こせば、その活動はうまく行かなくなる。だからこそ互いに尊重して上手くやっていく。同じことは地球上でも言えるはず。限られたリソースであることはISSも地球も変わらない。それを意識していくことで世の中が変わるのではないか」とした。

このほか、宇宙での滞在や地上との違い、精神の変化などにも質問はおよび、「宇宙に行くと世界の見方は変わる。特に船外活動を行うと、本当に目の前に地球がある。地球と自分を1対1で対峙して、おこがましいかもしれないが生き物対生き物として向き合う。そうすると、"生きてる地球"が比喩ではなく現実として感じられるようになる」と宇宙に行った後の精神変化に触れたほか、睡眠は慣れるまでは寝づらいが、慣れてくれば問題なく、「地上で見るような夢、例えば、良く見るんですが、高校2年生の期末テストに遅刻しそうな夢も見ました」と地上と同じ夢も見れることを語った。