宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月2日、「第3回 相乗り小型副衛星ワークショップ」を開催、2010年5月21日にH-IIAロケット17号機にて「PLANET-C(あかつき)」とともに打ち上げられた4機の相乗り衛星などの結果報告を行ったので、その模様をお届けする。

会場入り口には鹿児島大学の「KSAT(ハヤト)」のエンジニアリングモデルや創価大学の「Negai☆"」の各段階のモデルなども展示されていた

企業と大学のコラボレーションで製作

鹿児島大学の西尾正則教授

鹿児島大学の「KSAT(ハヤト)」については、同大学の西尾正則教授が説明を行った。KSATは、「集中豪雨や竜巻の予測を目指した研究」および「宇宙からの動画撮影」を目標とした小型衛星。

大学発の衛星ながら、実際の開発は地域の企業技術者がメインとなり、それに学生と大学の研究者が混ざって実機の開発が行われた。このほか、研究者はミッションの実現に向けた提案や開発に必要な情報の大学経由による企業への提供をおこなったほか、学生が基礎的な設計、評価や企業側でカバーできなかった部分の設計・製作や衛星の運用などを担当した。なお、具体的な設計、製作は企業技術者が担当した。このほか、他大学との連携による衛星設計に関する情報の取得や、得られたノウハウなどの継承などに向けた連携に関する工夫も行ったという。

KSAT(ハヤト)のミッションと宇宙での状態イメージ

衛星の構造設計としては配線を含めたメカトロニクスの発想を持ち込み、ジュラルミンの切削加工で内容積の増加を目指し壁を薄くしたほか、コストよりも強度を優先して製作が行われた。なお、電子部品はインターネット通販を活用して調達したという。

こうして開発を終え打ち上げられたKSATは、打ち上げ直後は発信しているはずのマイクロ波の受信ができなかったが、学生達の頑張りもあり10日ほど経た後に無事に受信が出来た。ただし、受信成功より7日ほどで再び通信途絶となり、そのまま7月14日に大気圏へ突入、流れ星となったという。

開発のマイルストーンと実際に利用した各種パーツ

実際に開発、打ち上げ、運用を経て西尾氏は、「新しい技術の搭載よりもミッション主体で進めていくことで新規性を維持していくことで世代が変わっても学生へ成功体験を提供することができる。今後としてはより小さな衛星などへの挑戦もあっても良いのではないか」と感想を述べた。

民生品を活用した低コスト衛星

早稲田大学の宮下朋之准教授

早稲田大学の「WASEDA-SAT2」については宮下朋之准教授が説明を行った。

同衛星は、機械系の学生が中心となって開発された機体。側面パネルの展開機構を搭載し、地球にQRコードを投影し、それを撮影するほか、パネルの展開やセンサデータの取得/通信を目的としている。

参加人数は30名程度。それぞれの学生の希望に応じた開発人員配置で、リチウムイオン電池やH8マイコンなどの民生品を活用し、学内の工場での製作と修正が行われた。開発にかかった費用は約800万円ほどであったという。

WASEDA-SAT2のミッション概要

最大の困難は、学生主体のため授業や卒業論文、修士論文、就職活動との時間を調整することで、2010年3月までに終わらせられずに、4月まで卒業生含めて巻き込んだでしまった結果となった。また、書類の作成が思った以上に多かったことや、長いプロジェクト期間におけるモチベーションの維持なども問題として立ちはだかったという。

しかし、このプロジェクトを経て、学生の意識も宇宙へ向くことが多くなり、関連業界を志望する者も増えたという。一方、学生の感想としては、「完全性が求められる文書処理の多さに驚いた」、「途中で中断してしまうとリカバリが大変」、「プロジェクトの方向性に対する各個人の意識の相違」といったさまざまな意見が出たという。

参加した学生の感想。かなりザックリとした意見が書かれているのが見受けられる

WASEDA-SAT2は、学内外複数箇所での受信に挑戦したが、最後まではっきりとした電波を受信できなかった。「これについては非常に残念」と宮下氏は語り、次に向けた意欲を見せた。

試験を多く行うことで課題の解決を図る

創価大学の黒木聖司教授

創価大学の「Negai☆"」については、黒木聖司教授が説明を行った。同衛星は、「衛星と携帯電話の機能はほとんど同じ」(黒木氏)という観点に立ち、モニタとキーボードを地上局とし、コンセントの代わりに太陽電池を活用し、SRAMベースのFPGAとFlashベースのFPGAを活用し、システムを構築した。

Negai☆"の系統図と技術ミッションの概要

2つのFPGAはいずれも民生品で、SRAMベースは高性能だが宇宙線に弱く、一方のFlashベースは対宇宙線性が高いため、それぞれの役割に応じた使い分けを行うためにそのような搭載方法にしたという。

開発に関与した学生は電子系と情報系がメインで、2003年から述べ8年かかった。「試験を沢山することが成功への近道」を合言葉にさまざまな試験を数十回行って精度を高めていったという。

故障しても直しにいけない場所にある衛星では壊れないことが一番。そのため、試験を重ねに重ね万全を期したという

黒木氏は今回の取り組みを経て、「衛星は非修理系のもの。概念検討を良く行いコンフィギュレーションを変えないことが成功への近道。また、民生品を活用する場合は特性が不ぞろいであることを前提に考えた方がよい。また、地上局は八王子、石垣、八丈島に用意し、コストがかかったがこのおかげでミッションが成功したと思っている」とし、情報の取得の重要性や経験者の意見などの重要性を説いた。

バンアレン帯を超えた長距離からの電波受信に成功

東京大学の特任研究員である倉原直美氏

大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)のUNITEC-1(しんえん)については、東京大学の特任研究員である倉原直美氏が説明を行った。

UNITEC-1(しんえん)については、大塚実氏のレポートが掲載されているので、詳細はそちらを参照してもらうとして、簡単に説明すると、ミッションは11大学/高専の中から選抜された6校のシステムを搭載し、深宇宙でどれが最後まで生き残るかを試すというもの。また、深宇宙からの微弱電波受信実験も実施しようというミッションも並行して行われた。

UNITEC-1の概要とコンペとしてシステムが搭載された6大学

打ち上げ後の通信状況は、衛星分離から45分後に電波受信に成功とまずます。この時点では「非常にうまく打ち上がった感触を得ていた」(倉原氏)というが、2回目のパス(5月22日16時~23日2時)の信号を受信できず、それ以降、信号受信が出来ない状態が継続しているという。

衛星取り付けおよび打ち上げ時の様子

受信側(地上局系)については、アマチュアバンドを活用したが、5月21日に受信できた電波としては軌道推定通信は受信できたものの、H/Kデータおよび実験データは部分的に受信できただけで、「現状、情報の取り出しが難航している」と説明する。

地上局系の受信結果と受信スケジュール

UNITEC-1に発生した現象について、「恐らく、打ち上げ直後にバッテリの残量が少なくなっていたこと、および打ち上げ初日、温度環境が低温のワーストケースよりもさらに低くなっていた(最高約5℃、最低約-20℃)ということで、電力供給の異常、不安定が引き起こされ、送信電波の不安定が生じたのではないかと考えている」とした。

テレメトリデータを解読した結果、設計的にありえないデータであることが判明した

ただし、月近くの27万km付近からの送信電波を受信することには成功したとのことで、真空放電やバンアレン帯をクリアしたことは事実としてとらえて良いはずとし、今後、回路上の改善点や使用部品の改善、運用上の改善などを行うほか、プロジェクトを経て得た教訓を人間の知識、意識として持ち、「"衛星"本体を製作するという形から、"設計・開発~運用~解析"という一連のシステムを作る意識を共有していくことが重要な段階に入った」とした。

なお、JAXAでは明日8月3日に「第1回 相乗り小型副衛星セミナー」を実施する予定。場所は東京田町駅から徒歩3分のところにあるキャンパスイノベーションセンターで、高専・大学・院生、教員、中小・ベンチャーなど小型衛星に今後取り組む人たちを対象としている。セミナー内容は「小型衛星のミッションの作り方」「衛星設計・開発」「環境試験・運用」「システム安全とは」を予定。定員は70名(参加費は無料)としているが、まだ若干の空きがあるとしていた。