モバイル関連技術とサービスの展示会「ワイヤレスジャパン2010」が、東京ビッグサイトにて開催された。このイベントの目玉のひとつであるAR(拡張現実)関連のブースのなかから、NTTドコモの「ゴルフ版直感ナビ」を、7月24日に発売されるマイコミ新書『AR-拡張現実』を執筆した小林啓倫がレポートする。

「ゴルフ版直感ナビ」のAR機能とは

「ゴルフ版直感ナビ」のホールレイアウト表示画面。自分の現在地と、そこからグリーンやバンカーなどといった地点までの距離の確認が可能。またユーザー間でやり取りしたメッセージも表示されている

NTTドコモが今年6月に発表した「ゴルフ版直感ナビ」。同社が昨年のワイヤレスジャパンで公開したアプリケーション「直感ナビ」をゴルフ用アプリケーションに応用したものだ。「直感ナビ」は携帯電話のカメラを通じて得られた画像に、様々な関連情報を重ねて表示するというAR技術で、今回はゴルフ場での情報提供に特化している。

「ゴルフ版直感ナビ」のベースとなっているのが、株式会社パー七十二プラザが提供しているサービス「ショットナビ」。専用のGPS端末や携帯電話向けに展開されているサービスで、GPSを使ってホールレイアウト上での現在位置を表示したり、グリーンやバンカーなど各種ポイントまでの距離を計測するなどの機能を有している。このサービスは、日本国内のほぼすべてのゴルフ場(約99%)を網羅している上に、一般的な地図情報ではなく独自データベースを使用しているため、コースの詳細まで確認することが可能だ。「ゴルフ版直感ナビ」でも、同様の機能を使うことができるようになっている。

そして目玉のAR機能だが、カメラを対象方向に「かざす」だけで起動される(設定で解除することも可能)。AR画面に切り替わると、コースレイアウト画面では地図上にプロットされていた各種地点が、現実空間上にアイコンとして表示される。

またアイコンには「池は青色で表示する」といった工夫や、重なり合いが起きないような計算が行われており、視認性が高い。さらに端末を水平に戻すと再びコースレイアウト画面になり、両方の画面をスムーズに遷移することができるようになっている。

「かざす」ことでAR画面を起動したところ。展示場は屋内のため、背景はパネルなのだが、実際に現実空間に浮かぶアイコンを確認することができる

また面白いのは、自分や他人のショットの軌跡もAR空間に表示できるという点。例えば自分の過去のプレイや、前グループにいる仲間のプレイと比較しながらラウンドを進めることができるわけだ。さらに将来的には、石川遼やタイガー・ウッズなど実在のプロがプレイした内容を表示することも検討中とのこと。現実世界のゴルフ場に、「何年何月の大会でXX選手がここからアプローチショットを打った」などという目印を建てることは不可能だが、AR空間であればまったく問題がない。あこがれの選手、あこがれの場面と自分を重ね合わせながらプレイする。AR機能によって、そんな新たな楽しみ方を実現することも可能だろう。

気になるのはバッテリーの消耗だが、ある程度のデータをダウンロードして保持しておくことにより、プレイ中の通信を抑えるなどとの対策が行われている。通常の使用であれば、ラウンド1回分は十分にバッテリーが持つとのこと。この点でも実用的アプリとして完成を目指していることが窺える。

ARアプリに最適の「場所」とは

NTTドコモはゴルフ版直感ナビを開発した理由のひとつに、ARアプリの「かざす」という行為が持つ問題点を挙げている。通常、携帯電話を「かざす」という行為は「写真を撮る」という行為を連想させるため、混雑した場所や電車内などでは心理的な抵抗感がある。そこで現時点でARアプリが受け入れられそうな場面、つまり心理的な抵抗感の少ない場面として、ゴルフ場でのプレイが考えられたというわけだ。「かざす」行為をどう受け入れてもらうかという点については、ARアプリを開発する各社が悩んでいる問題だが、無理に文化を定着させるのではなく、NTTドコモのように「できるところから始める」というスタンスもひとつの解決策となるだろう。

実際、「ゴルフ版直感ナビ」が提供しているAR機能には合理性があり、ユーザーは違和感なくARを活用できるだろう。またゴルフという世界に導入されることにより、これまでARが得意としていたエンターテイメント業界以外の分野で、新たなユーザーを獲得することになるかもしれない。AR業界にとっても、ゴルフ版直感ナビは注目のアプリケーションとなっていくのではないだろうか。

現在「ゴルフ版直感ナビ」はトライアル版を公開中(対象機種はXperia、HT-03A)。公開は7月30日までで、期間中は無償でダウンロードすることができる。2010年8月からは有償版の提供が開始される予定(サービス名称は未定)とのことなので、興味を持たれた方はぜひ実物を体験してみて頂きたい。

「ワイヤレスジャパン2010」は7月16日(金)まで、東京ビックサイトにて開催中。(16日の最終日は午後5時まで)。
(レポート執筆 小林啓倫)

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