もう7年ほど前になるが、筆者がスペインに行ったとき、ジャパニーズ・コミックとアニメの浸食具合に驚いたものだ。テレビをつければ日本のアニメが放送され、『アルプスの少女ハイジ』は現役でチーズのコマーシャルに出場し、上陸したばかりの『クレヨンしんちゃん』は、子どもたちの流行グッズになっていた。

お洒落なカジュアルファッションのショップには、めちゃくちゃ萌え系キャラのイラストが入ったTシャツが、「どうだ、おしゃれだろ」と言わんばかりに売られており、駅前のキオスクには、書籍に混じってジャパニーズ・コミック(確か「りぼんコミックス」の漫画)が置いてあった。

語学学校の先生は、「『キャンディ・キャンディ』は悲しい話だよね! アンソニーは落馬して死んじゃうしさ!」などと嬉しそうに話し、先日カナリア諸島からやってきたというスペイン人の若者とは、『北斗の拳』『バガボンド』『ママレード・ボーイ』の話で盛り上がった。スペインでは、ジャパニーズ・コミック&アニメは、日常と融合しているのだ。

この度、テニスの取材でロンドンへ向かったため、スペインと海ひとつ隔てたイギリスで、ジャパニーズ・コミック&アニメがどのように受け入れられているかを確かめてきた。テニスとヲタク……。接点が何もない対照的な世界の調査を終えて、気分はもうロンドン通である。

呆れるほど巨大な建築物を一通り眺めた後、取材の前に、ロンドンに来たら先ず行きたい、世界一でかい展示物がゴロゴロある大英博物館に行ってみた。日本の部屋に行ってみると、百済観音やら兜やら「おお、これぞジャパニーズ!」って感じの歴史的展示品の中に、いきなり『土偶ファミリー』という漫画が……。確かに、土偶の横に置かれているのだが、正直謎だ。それにしても、「ロゼッタストーン」やらパルテノン神殿の彫刻と同じ会場に展示されるとは、日本一名誉な漫画である。

世界中から集められた展示品であふれる大英博物館

開かれたページのタイトルは「土偶な恋のメロディ」……

しかし、これはもしかして、ロンドンにはジャパニーズ・コミックがあふれているという前兆なのではないのか? 期待に心を震わせ、コミックショップを見に行った。基本的にヨーロッパは、まだまだ個人商店が流通のメインだ。大都会の中心部でなければ大型フランチャイズ店は存在せず、本も服もCDも、すべて小さな町のショップで売られている。本となると、店ごとに取り扱うジャンルが異なり、どこの店に行っても漫画が買える日本とは、事情が少し異なるようだ。ネットでロンドンにあるコミック取り扱いショップを調べ、向かってみる。まずは大英博物館入り口の斜め前に店を構える「Gosh!」だ

小さなバットマンの看板以外、「コミック」を主張するようなサインはない。ロンドンの店の看板は、非常に謙虚なのだ。住所はストリート名に番地とわかりやすいのだが、その分(?)看板がわかりにくいことが多い。「Gosh!」は小さな店舗だが、所狭しとアメコミが置かれている。ジャパニーズ・コミックは地下ということなので、恐ろしく小さい螺旋階段を下りた。するとそこにはひと棚、ジャパニーズ・コミックがならんでいた。

Gosh!
39 Great Russell Street, London, WC1B 3PH

『さよなら絶望先生』と『ソウルイーター』

『大奥』

『デトロイト・メタル・シティ』まである

ラインナップが面白い。手塚治虫はもちろん、『さよなら絶望先生』とか『大奥』まで。しかし、外国人が読んでわかるのか……? そんな疑問を店員のウィルさんに聞いてみた。

「漫画を読むのは主に子どもだね。大人で漫画を読むのは一部だよ。だから求められている漫画のストーリーは、子ども向けのものだね」

なるほど。しかし、子ども向けにしては『さよなら絶望先生』とか『大奥』は、大人っぽすぎるような……。なお、一番人気はやはり『NARUTO』だそうだ。ちなみに、ジャパニーズ・コミックは「マンガ」で通じるらしい。日本のマンガってのは、それでもうひとつのジャンルをなしているのだね。

ウィルさんのオススメは、辰巳ヨシヒロの『劇画漂流』。アメリカのamazonで2009年グラフィック・ノベル部門でトップ10入りした、海外で非常に評価の高い作品。英語タイトルは『A Drifting Life』