初の全編CGの長編アニメーション映画としてアカデミー賞3部門にノミネートされた映画『トイ・ストーリー』(1995)、映画史上初となる全工程にデジタル技術を用いた『トイ・ストーリー2』(1999)。新作を発表するたびに斬新な技術や映像で観る人を魅了し続けている映画『トイ・ストーリー』シリーズ。その11年振りの新作であり、このシリーズの集大成となる映画『トイ・ストーリー3』が2010年7月10日より、全国公開される。この作品に脚本家として参加し、映画『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)ではアカデミー賞も受賞している脚本家マイケル・アーント氏に話を訊いた。

マイケル・アーント
映画『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)でアカデミー脚本賞を獲得。映画『トイ・ストーリー3』が初のピクサー作品参加となる

――この作品は、本作の映画監督であるリー・アンクリッチや製作総指揮のダーラ・K・アンダーソン、映画『トイ・ストーリー』、『トイ・ストーリー2』で監督を務めたジョン・ラセターが原案を考えたとのことですが、マイケルさんはその原案をどのように脚本にまとめたのですか。

マイケル・アーント(以下、マイケル)「実際には、まず、アンドリュー・スタンセンをはじめ、ジョン・ラセター、リー・アンクリッチ、ピート・ドクター、ダーラ・K・アンダーソン、ボブ・ピーターソン、ジェフ・ピジョンといったメンバーで合宿行い、ストーリーの基本的なアイディアを色々出し合ったんです。で、そこで出た案を元にアンドリューが30ページ程度の原案を作成し、そこからリーとともに約3年もの月日をかけ、脚本を精査していきました。私の主な役割はこの作品はアニメなので、キャラクターの感情が劇中でどのように変化し、どのように成長していくのかということを書き上げることでした」

――原案の時点では、30ぺージ程度のものが、そこから3年以上の月日をかけ完成させた脚本は最終的には何ページになったのですか?

マイケル「基本的に映画の世界では、脚本は1分1ページといわれています。今回は94分ほどの作品だったので、94枚程度が妥当なラインなのですが、この作品はかなり内容の濃い作品で、色々な出来事がとても早く展開していくので、最終的には150ページ程度になりました」

映画『トイ・ストーリー3』

カウボーイ人形のウッディやバズ・ライトイヤーの持ち主である、アンディは大学進学に伴い、家を出ることに。そんなある日、些細な手違いからウッディたちは保育園に寄付されてしまう。その保育園は、おもちゃを乱暴に扱う幼児たちが大勢いる、おもちゃにとって地獄の場所だった…

――マイケルさんがアカデミー脚本賞を獲得した映画『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)は実写作品で、今回の作品は3DCGアニメーション作品です。脚本を執筆する段階でその違いなどは感じましたか?

マイケル「実写作品の場合は、まず、脚本をすべて書き上げ、その後、撮影、編集といったプロセスを踏むのですが、アニメーションの場合は脚本を書きながら、映像を製作し、同時に編集も行ってしまうといったすべての作業が同時に進んでいきます。そのため、作品を作りながら色々な人からアイディアをもらい、作品を精査していくことができる良さがあります。また、これはピクサーの制作方法なのですが、約7~8回ラフフォームで映画に落とし込み、そこから、さらに良いものに仕上げていくんです。実写映画の場合は、当然撮影は一度きりなので、撮影後、その映像を変更・修正するということはできません。そういった面からもアニメーションは、私たち脚本家にとっては凄く贅沢な撮り方だと感じました」

――この作品は、これまでの『トイ・ストーリー』、『トイ・ストーリー2』と違い、3D上映されることが決定しています。このことにより脚本を作成する上で、何か見せ方が変わるようなところはあったのでしょうか?

マイケル「今回の作品に関しては、私自身これだけ大きな映画に関わるのが初めてだったので、とにかく良いストーリーを作ることだけを考えており、とても3Dという要素まで考える余裕はありませんでした。もちろんリー監督はどこで3D効果を有効に使うかということ考えたと思います。ですが、私自身は今回、特にそういったことは考えていません。しかし、この作品で私は3D映画の脚本を書くという経験をしたので、もしまたピクサーで映画を撮ることがあったり、自分の次のプロジェクトが3D対応だったら、次回作では3D上映のことも考えつつ脚本を考えると思います」

――映画『グレムリン』(1984)、『グーニーズ』(1985)、『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(1985)といったスピルバーグ製作の大作映画で脚本を務めた、クリス・コロンバスなどはその後、脚本家から映画監督へという道を歩みましたが、マイケルさんも将来的に映画を撮りたいという想いはありますか?

マイケル「そうですね、それが私の最初の計画です。ゆくゆくは監督になりたいと思っています。そのために今、脚本を書くという仕事をしているんです。私自身が尊敬している黒澤明監督や小津安二郎監督などは、もちろん脚本家も使っているかもしれませんが、自分たちで脚本を書ける人が多いんです。監督もでき、自分で脚本も書けるというのが私が目指しているスタイルでもあります。ただひとつだけ言っておきたいのですが、良い脚本を書くということ自体、エベレストに登頂するのと同じくらい難しいことです。なので、決して脚本家が監督よりも楽という意味ではありません」


――最後に将来ハリウッドで脚本家や映画監督として活躍したいと考えているクリエイターにアドバイスをお願いします。

マイケル「ハリウッドでは、脚本が売れるまで約10年かかると言われています。私自身、2年で売れたので始めのうちは"できるじゃん"と思ったのですが、最終的に脚本家としてひとり立ちするには10年かかりました。もちろんその間、落ち込むような出来事も色々ありましたし、皆さんも経験すると思います。ですから私がいえる一番のアドバイスは、とにかく忍耐強く頑張ってくださいということです。台本を持ち込んでも、最初はうまくいかないことの方が多いと思います。重要なのは、そこで、どう忍耐強く、粘り強く、頑張っていけるかということです。それからふたつ目として、これは今回の作品に携わって自分自身が学んだことなのですが、いかに優秀な人たちと一緒に仕事をするかということです。例えば素晴らしいシェフになりたいならパリや東京に行って学ぶように、優秀な人から学ぶということは何にも変えがたいものだと思います。一緒に仕事をすることで、もっと簡単に自分の才能を見出せるということもあるので、一匹狼にならずに優秀な人たちと仕事をしてほしいなと思います。それから最後に謙虚でいることも重要だと思います。自分ができることに対する期待値も謙虚でなければいけませんし、人から批判を受けたときも謙虚に受け止めなければいけません。また、人の意見には謙虚に耳を傾けなければいけないと思います。ハリウッドでの映画制作は本当に大変です。だから、もしこの大変な映画制作の世界に身をおこうとするのであれば、自分が常に謙虚でいることが唯一成功する方法だと思います」

映画『トイ・ストーリー3』は7月10日(土) 全国ロードショー。

(C)DISNEY/PIXAR

インタビュー撮影:中村浩二