宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月8日、「JAXAシンポジウム2010 - 世界に羽ばたく日本の宇宙技術」を開催した。会場となった有楽町朝日ホールには、700名を超す来場者が訪れ、満員状態での開催となった。

会場入り口にはHTVやH-IIBロケット、きぼうなどの模型のほか、金星探査機「あかつき」の模型も展示、その説明員としてJAXA宇宙科学研究本部 PLANET-Cプロジェクトマネージャである中村正人教授がおられ、老若男女問わず大勢の宇宙開発ファンから求められたサインに快く応じていた

フェアリングの大型化が課題となったH-IIB

同シンポジウムでは、3つのトークセッションが行われた。セッション1では「我が国のロケット開発の集大成『H-IIB』」と題して、JAXA宇宙輸送ミッション本部 H-IIBロケットプロジェクトマネージャの中村富久氏がH-IIBに関する講演を行った。

2009年9月11日にH-IIBの試験機が打ち上げられたが、そもそものH-IIBの開発方針は、これまで培ってきた成果を最大限に活用することで、短期間、低コストで官民のニーズを担うロケットを実現すること。ここで言う官とは国であり、そのニーズとは国際宇宙ステーション(ISS)へとたどり着けるロケットであること。そして民の方は、静止衛星軌道上に8t級の衛星を打ち上げられること。

H-IIBの開発目標と開発体制

H-IIAとの最大の違いは第1段ロケットの大型化で、これを実現するためにドーム部の国産化や、ニーズ対応のための衛星フェアリングの大型化なども同時に行われた。開発から打ち上げにいたるまでの期間は約4年間。推進系の開発はそれほど問題がなかったものの、フェアリングが大型化により問題が発生したという。

H-IIAからの変更点と開発スケジュール

フェアリングはチタン製のノッチボルト550本で止められており、誘導線の爆発の衝撃でノッチボルトを切断しフェアリングの分離を行う。試験では、通常使用時の1.25倍の力を加えるが、1回目の試験で分離機構などが破損。修理して2008年11月に2回目の試験を実施したが、やはりノッチボルトが破損した。結果として、フェアリングを3m伸ばしたためにかかる力が変化したことが判明、構造設計を見直し、3回目の試験を実施するも、挙動が安定せずに試験を中止、調査の結果、フェアリングと第2段ロケットの径が異なるため、フェアリングを集束させてロケット側と接続する部分に横方向に力がかかることが判明、その分離面のすべりを抑制するピンを分離機構に追加する対策を施し4回目の試験を実施、合格したのが打ち上げ1カ月前の8月11日だったという。

フェアリングの概要とH-IIBロケット開発で獲得した技術各種

こうした苦労を経て手に入れた各種の技術はさまざまあるが、例えばドーム部のスピニング成型技術はこれまでBoeingでしかできなかった技術。こうした技術が国産でできるようになったことは大きな意味を持つほか、エンジンのクラスタ技術についても、「大きな推力を得ることができるようになり、これからのロケットに生かせる技術」(中村氏)と、その意義を強調する。

また、日本の打ち上げ場である種子島は赤道から若干離れており、アリアンVなどに比べると、増速のための速度を大きくとる必要がある。JAXAとしては、第2段ロケットの改良などを行うことで、こうしたハンディを克服し、差をなくし、広く活用してもらえるロケットを目指したいとした。

H-IIA/Bと同程度の各国ロケットとの打ち上げ成功数比較