【レポート】

天野喜孝が若手経営者に伝える「依頼される仕事の大切さ」

    寺田祐子  [2010/06/29]

    アメリカン・エキスプレス・アカデミー ~若手起業家のためのリーダーシップ育成プログラムが25・26日の両日、都内で開催された。

    同プログラムは、アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動の一環。35歳以下の起業家表彰制度「DREAM GATE AWARD 2007、2008」においてノミネートされた若手起業家や、NPO法人エティックの推薦を受けた有望な社会起業家を受講生として招待し、リーダーシップを育成するもの。昨年開催された第一回は、企業のライフスタイルに合わせた最適な経営チーム編成や、効果的なリーダーシップやコミュニケーションについて、先輩経営者による講演やワークショップ、ディスカッションを通して学んだ。

    第二回目となる今年は、大富代表取締役社長 張麗玲氏や、スポーツジャーナリストの二宮清純氏、元外交官で日本国際交流センターシニア・フェローの田中均氏ら様々な分野のプロフェッショナルを迎え、文化や価値など本来持つ日本の素晴らしさを世界でどう活かすことができるのか、グローバル・ルールの中で日本人が活躍するには何が必要か、アウェイな環境で勝負する交渉術などについて提言した。

    本稿では、ゲーム『ファイナルファンタジー』のキャラクターデザイナーであり、近年ではアーティストとして活躍の場を広げている天野喜孝氏の講演内容を紹介する。なお講演は、東京大学教授で産学連携本部 事業化推進部長の各務茂夫氏との対談形式で行われ、後半では若手経営者が積極的に、天野氏に質問を投げかける場面もあった。

    "日本的"と"非日本的"が共存する天野芸術

    ――日本的なもの意識しているか

    天野 : 日本的なものは好きではなかった。むしろアメリカの文化が好きだった。でも、やっぱり向こうの人から見ると、(自分の作品は)「日本的」。鳥獣戯画とか浮世絵は、自分のDNAというか無意識というか、血の中にあるもの。一方、アメリカのポップカルチャーは意識的に取り入れようとしたもの。この潜在意識と無意識が共存していて、結果的に表現として現れているんだと思う。自分はむしろ(日本的な文化を)否定してきているが、否定してもしきれなくて出てきてしまう、そういった匂いがある。

    ――作品の発表時、何かテーマはあるか

    天野 : 新しいこと、誰もやっていないことを表現するのがアートにとって一番大事なこと。(作品を制作する時は)自分の歴史をそのまま表現しているが、アニメーションやゲーム(を手がけてきた実績が)自分の絵柄に反映されていて、それも表現している。傍から見るとそれは個性と呼べるかもしれないが、僕自身は自分がやってきたことをアートとして表現しているだけ。

    ――どういう着眼で、天野芸術が生まれたのか

    天野 : 10代の頃にタツノコプロに入ったが、アニメをやっていると、自分でキャラクターは作るけど誰かが描いたものがテレビに流れる。純粋に僕の絵は出てこない。基を作っただけだから。それで、自分の絵は通用するのかなと思ってイラストレーターになった。今度はこの絵は世界的にどうなのかなと思って40過ぎに渡米して発表し、アーティストとしての活動を開始した。自分の才能を試したい、才能を出し切りたいというのがどんどん広くなっていった。それを追求した時に、表現せざるを得ないというところに行き着いた。

    ――普遍的な作品を求めているのか

    天野 : 1年後ぐらいまでに普遍的な大作をやろうと考えている。具体的には、東洋的、日本的な神話をやりたい。今はテクノロジーがあって、宇宙の謎がある程度解明されているので、それを踏まえて今の神話をやったら面白いのではないかと思う。『スター・ウォーズ』も神話と言えば神話だと思う。

    ゲームの世界、架空の世界を作品にして残してしまえば面白いなという、遊びみたいなもの。『ファイナルファンタジー』のマップを描いた時、それは1000年ぐらいたった時、マップを見た人がこの世界は本当にあったんじゃないかと思われたら、面白いなと思ってやった。ゲームが何百年後に、どういう風に残っていくか分からないが、そこに描かれた絵が実際にあろうがなかろうが、アートとして関係なくなるのではないか。

    ――『ファイナルファンタジー』の絵はどこに向かって描いていたのか

    天野 : ゲームの依頼がきた時、どうしようかなと迷ったこともあったが、自分の描きたい絵を発表する場と思って描いた。ただ、言い訳になるかもしれないが、ゲームをプレイする人は、頭の中でリアルな絵を想像していると思う。それで、リアルな頭の中の世界を絵にしたらいいのではないか、実際のゲームの絵と違ってもいいんじゃないかなと当時は考えていた。

    天野喜孝が伝える"依頼される仕事の大切さ"

    天野 : 絵を描くことは、依頼されて仕事としてやることと、自分でやりたいことをすることの2つの側面がある。ゲームにしてもイラストにしても、仕事としてやっている。そして、自分でやりたいことをすることで、次のステージにつながっていく。僕自身は1人で目の前の紙などに描いているだけなので、その行為が結果的にどこにいくか、描いたものがどこに行くかで全然違う世界になる。

    ――依頼される仕事ばかりだと嫌にならないか

    天野 : 依頼される仕事からやりたいことへは、急にではなく、だんだんシフトしていけばいい。ただ、依頼されてやるのは一番大事なこと。社会に認められているということだし、時代に適っているとも言える。一方で、時代は変わる。今良いとされているものが10年後には、職業自体がなくなってしまう可能性がある。そういう意味から、僕は職業を信用していない。だから、自分のやりたいこと、頭の中にあることを職業にしてしまう。

    ――自分の世界にばかり集中するほうにはいかないのか

    天野 : 基本的に依頼は受ける。絵を描いていること自体が好きなので、対象はなんでもいい。何を描こうが。描いている自分が好きだから(笑)。

    ――2つの仕事、依頼されてやっているものと好きなことやっていること、両方同時に追求できるものなのか

    天野 : 依頼されたものに新しいことを入れれば一番てっとりばやい。新しいことはいまだに模索しているけれども、そうじゃないと依頼されなくなってしまう。重ねて言うが、依頼されることは大事。そのために、時代の流れやブームの中で、うまく先を見る目を養う必要がある。若手経営者の皆さんは自分の勘を信じてほしい。勘の方が確かだと思う。

    ――才能を向上させる、出し切る力をつけるために意図的にやってきたことはあるか

    天野 : たとえば僕は壁画を描きたいが、壁画を描く場がなければならない。ということは、周囲が評価してくれて天野に描かせようとなればいいけど、そうならなきゃ、描きたくても描けない。表現するには他の人が協力してくれないとできない。評価してくれないと人はなにもしてくれない。やっぱり作品ありきだから、自分の作品を一所懸命追求している。それをやりつつ、それを共鳴してくれる人がいれば(世界が)広がる。

    プロデューサーではないので、(自分で作品を)売り込むことはできないが、僕の絵に力があればプロデューサーのような立場の人が国内外に関わらず動いてくれる。あくまで対自分とやるべきことの関係に全てがあって、それがよければ周りもついてくる。魅力的なコンテンツといってはおかしいけど、物があれば人は興味を示してくれる。

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