ITを手中に収めよ

マイクロソフト エバンジェリスト 高添氏

「IT管理者の皆さんは、『私はITを管理しています、ITは私の手中にあります』と胸を張って言い切れますか? 」――マイクロソフト エバンジェリストの高添氏は「Tech Fieldersセミナー System Center祭り」の講演の中でこのように問いかけた。

保守/運用管理費が増大傾向にある昨今、システム管理者は、ともすると悪者に仕立て上げられてしまう立場にある。一向に減る気配のない"IT固定費"を前に、経営者の怒りの矛先はIT管理者に向けられる傾向にあるようだ。

もちろん、ほとんどの場合、IT管理者に過失はないのだが、保守/運用管理費が軽視できない額に膨れ上がっているのは紛れもない事実。こうした状況を改善するために、IT管理者は"作業をこなす"というスタンスを改める必要がある、と高添氏は語る。

「保守費用を減らすには、IT管理者が本当の意味でITを"管理"しなければならない。そのためには、"運用の管理"という一段上の視点が必要。そのように考えると、今もてはやされている仮想化もあくまで要素技術の1つにすぎず、重要なのは、仮想化を含むさまざまな環境に対する運用の"自動化"であることに気付くはず」(高添氏)

マイクロソフトでは、以前から上記のような考えのもとに製品開発を進めている。仮想化を実現する「Hyper-V」がOSの一機能として提供されていることなどはその一例だ。仮想化技術そのものが大きな価値をもたらすわけではなく、それを制御/管理機能と組み合わせ、運用シナリオの中で簡単に生かせるようになって初めて、IT管理者、ひいてはビジネスの役に立つ。だからこそ、Hyper-Vを単体の製品ではなく、OSの中に組み込み、使いやすい環境を整えて提供しているのだという。

そのマイクロソフトが今、運用/管理の自動化を実現する製品群として特に力を入れているのがSystem Centerだ。今回参加した「Tech Fieldersセミナー System Center祭り」では、そのSystem Centerの概要と最新情報が3人のエバンジェリストにより伝えられた。

以下、その模様を簡単にご紹介する。

会場は満席。System Centerに対するシステム管理者の注目の高さが伺える

仮想化で管理作業を増やさないために

最初に取り上げられたのは、現在、ユーザー企業の関心が最も高い仮想環境管理製品「Microsoft System Center Virtual Machine Manager(以下、SCVMM)」だ。こちらは、「ITプロ向けのセミナーで長い間SCVMMを担当してきた」と述べる高添氏が担当した。

SCVMMはその名のとおり、仮想環境を管理するためのソフトウェアである。最新のバージョンは「SCVMM 2008 R2」になる。

マイクロソフトの仮想環境管理ソフトウェアというと、Windows OS向けに「Hyper-V Manager」も無償で提供されているが、そちらは「主に仮想マシン1つ1つを管理するためのツール」(高添氏)になる。個々の仮想マシンについて起動や停止などの操作はできるが、仮想環境全体を管理するという用途には向いていない。

それに対し、SCVMMでは、複数の物理サーバ上の仮想マシンをまとめて表示する機能を備えており、仮想環境の集中管理が可能。また、運用プロセスを意識した自動化機能も多数組み込まれており、先に触れた"運用の管理"が実現できる製品になっているという。

SCVMMの画面

SCVMMを利用する際の基本運用フローと、それを実現する機能は次のスライドのとおり。

SCVMMの機能と運用フロー

高添氏の説明をごく簡単にまとめると、SCVMMでは、各種の業務/用途に応じて必要なソフトウェアを組み合わせた仮想マシンのテンプレートを登録しておくことができる。仮想マシン作成時にはそれをコピーして使用することが可能なため、仮想マシンを作成する際にいちいちOSのバージョンやアプリケーション等を指定する必要がないうえ、仮想マシンの立ち上げそのものの時間短縮にもつながるという。

また、仮想マシン作成の際には、プロファイル機能により、運用ポリシーや利用状況に応じて最適な物理マシンが選択されるほか、仮想マシンに関する各種の環境設定処理についても自動化することが可能だ。

さらにSCVMMでは、これらの機能を活用して作られたユーザー向けのポータル画面「セルフサービス ポータル」も用意されている。こちらは、ユーザー自身の手で仮想マシンの作成/停止などを行えるようにするためのインタフェースだ。ただし、「これは、主に開発環境での利用を想定したもの。本番環境で何の運用ポリシーもなく公開すると管理が不能になるので注意が必要」(高添氏)という。

仮想マシンの運用という点では、稼働中の仮想マシンを、停止させることなく異なる物理マシン上へ移動させることができる「Live Migration」機能や、短時間の停止でストレージを移行することができる「Quick Storage Migration」機能などを有する。加えて、既存の物理マシンをまるごと仮想マシンに移し替える(P2V[Physical to Virtual Conversion])機能や、VMwareなどの他社製仮想マシンをHyper-V上に移す(V2V[Virtual to Virtual Conversion])機能なども用意されており、状況に応じてリソースを最適化することが可能だ。

そして、SCVMMでは、仮想化環境の現状を把握するための監視機能も「Microsoft System Center Operations Manager」(後述)と連携するかたちで提供されており、「仮想マシン利用度」、「ホスト利用度」、「仮想マシン配置」など5種類のレポートを出力することが可能。"もしも"のときに備え、Hyper-Vのスナップショットをとっておくこともできるので重宝するはずだ。

Microsoft System Center Operations Managerとの連携でさまざまなレポートを出力できる

以上のように、主な機能を並べただけでも長々とした説明になってしまうSCVMMだが、ポイントはやはり、効率的な運用フローに則して機能が開発されている点だろう。

仮想マシンを作るのも、仮想マシンのテンプレートを選ぶだけOK。あとは各種のレポートをチェックしながら、必要に迫られたらGUI画面(もしくはPowerShellのコマンド)で仮想マシンの移行を指定すればよい。P2V、V2Vも関係なく、グラフィカルな管理画面の操作で完結させることが可能だ。

急速に導入が進んでいる仮想化技術だが、仮想化対応したことで管理者の手間が増える結果になっては本末転倒。そうした悲劇を防ぐための管理ソフトウェアがSCVMMと言えるだろう。

なお、SCVMMの将来のバージョンでは、「(UMLのような)モデルベースで仮想環境を管理する機能や、登録済みテンプレートに対して自動的にパッチを適用する機能(通常は、テンプレートに登録した環境を一度立ち上げて、パッチを適用してから再度登録しなおすという作業が必要)も提供される予定」(高添氏)のようだ。このことからも、仮想化技術だけを進化させるのではなく、「システム全体という視点で管理効率化を実現する機能の開発に取り組んでいる」(高添氏)ことがおわかりいただけるだろう。