育児を積極的に楽しむ「イクメン」に注目が集まっている。17日には厚労省が「イクメンプロジェクト」をスタート。なぜいま「イクメン」が求められているのか? 同プロジェクトの発足式では、座長を務めるNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏ら"イクメン識者"がさまざまな視点からその"存在価値"について話した。

男性の育休取得率はわずか1.23%

17日にスタートした「イクメンプロジェクト」の目的は、働く男性が育児をより積極的に楽しみ、育児休業を取得できるよう、社会の気運を高めること。シンポジウムなどのイベントを開催するほか、イクメン登録ができる専用サイトを開設。子育てに取り組む男性が、育児体験や育休体験を書き込むことができ、そのなかから毎月「イクメンの星」が選ばれる予定だ。

プロジェクトの背景にあるのが、男性の育休取得率の低迷。女性の取得率が約9割に達している一方で、男性の取得率はわずか1.23%。育児の負担が女性ばかりに大きくのしかかっているのが現状で、第1子出産前後の女性の継続就業率は38%にとどまっている。

同プロジェクトでは数値目標として、男性の育休取得率を2017年度に10%、20年度に13%に引き上げ、女性の継続就業率を2017年までに55%に引き上げる、としている。今月30日には男性の育休取得の促進策を盛り込んだ改正育児介護休業法(※)も施行される。安藤氏は、「イクメンを一過性のブームではなく、日本の社会の大きなムーブメントとして育てていきたい」と意気込みを語った。

※改正育児介護休業法
3歳未満の子を持つ親が1日原則6時間の勤務が可能になる制度導入を企業に義務付け。両親がともに育休を取得する場合、取得可能期間は現行の「1歳になるまで」から「1歳2カ月になるまで」に延長される。

育休2カ月、「お迎え」週2がイクメンの理想!?

最近よく耳にするようになった「イクメン」という言葉だが、いったい妻たちが理想とするイクメンはどのレベルなのだろうか?

小室淑恵氏

同プロジェクトの推進メンバー7人のうち女性はワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏のみ。4歳児の母親の立場として発言した小室氏は「パパには最低限2カ月以上の育休をとってほしい」とし、「命を自分1人で預かることがどんなに怖いことかを体感してほしい。妻とこの体験を共有できれば、その後のパートナーシップは激変する。お互いの役割を実施し、立場を理解しリスペクトすることができるようになる」と述べた。

また、「妻の気持ちを理解するためにも週に2回以上の保育園へのお迎えが必要」とし、「働くママがどれくらい必死で段取りして定時に帰ってくるのか、"お尻"が決まっている世界がどんなにシビアかを知ってほしい」と訴えた。

イクメンこそ日本の"救世主"!?

妻や子どもがイクメンを求めるのは当然といえば当然。ではここにきて国が音頭をとって"イクメン増加作戦"に乗り出し始めたのはなぜだろう?

長妻大臣は発足式で「現在は現役3人で1人の高齢者を支える騎馬戦型だが、2055年には1人が1人の高齢者を支える肩車型になる。社会保障の担い手という意味で厳しくなる」とし、「お子さんを産みたい人が(産むことを)実現できる社会。夫が育児に参加する社会が必要。そのためには企業と社会の改革が必要だ」と訴えた。

した「イクメンプロジェクト」のロゴを発表する長妻大臣

一方、これまで700社のコンサルティングを行ってきたという小室氏は「(イクメンが増えることが)企業のビジネスにとってもプラスになると気付いてほしい」と発言。「今後10年で団塊世代の多くが高齢化し、団塊ジュニア世代の多くが親の介護のために介護休暇を取るようになる。企業が残業という切り札で利益を出そうということはもうできなくなる」と、企業側の意識改革を促した。その上で「今(企業が)イクメンに対応するのは将来への準備になる。日本社会の介護の問題、少子化の問題も救えるようになる。いろんな問題の救世主になるのがイクメンだ」と述べた。

"烙印"を押される時代は終わりつつある!?

今年に入ってから企業や自治体のトップの育休取得が相次いでいる。4月に東京・文京区の区長が2週間の育休を取得。今月に入ってグループウェアのサイボウズの青野慶久社長が育休を取得することが明らかになり、注目されている。発足会では、病児保育のNPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏が、今秋に育休を取得すると"宣言"。「自ら育休をとって、経営者の育休をはやらせたい」と述べた。

こうした動きに感慨深げなのは、現在横浜市副市長の山田正人氏だ。経済産業省課長補佐だった6年前に1年間育休を取得した山田氏は当時を、「何か『烙印』を押されたような、気が晴れない気持ちがなかったわけではない」と振り返り、「それがいま育児をする男性を国の大臣がこうやって応援してくれているとは…」と話した。

山田正人氏

駒崎弘樹氏

最後は男性自身の問題、長妻大臣も「意識改革していきたい」と決意

佐藤博樹氏

「企業や社会も変わらなければならないが、最後は男性自身が変わり、一歩を踏み出すことが大事」と呼び掛けたのは東京大学社会科学研究所教授の佐藤博樹氏。また、山田氏は、「育休を取得すると、『あなたは公務員だから(できる)』『あなたは大企業だから(できる)』などという言葉をいう人が多い。「『あなたとわたしとは違う』といったレッテル張りをするのは、自分が育児をしない理由をつけているだけ。結局は自分が親として子どもへの責任を果たすことが大事だ」と指摘した。

同プロジェクト推進メンバーがイクメンについて熱く語るなか、記者から「家事や育児はどの程度…」と聞かれた長妻大臣は「コップを洗うとか、できうるかぎりはやっていきたいと思っているが、十分にできていないので…」とモゴモゴ…。「これからはなるべく早く帰りたい。私自身の意識改革が必要だ」などと"決意表明"していた。