Googleが目指す検索の未来

Googleによる報道関係者向けイベント"The Science of Search"が8日、東京都内で開催された。日本だけでなくアジア太平洋地域から報道関係者が招待されており、基調講演における同時通訳は英語、日本語、中国語、韓国語の4カ国語対応で、質問も母国語で可能だった。もちろん同時通訳は人間の通訳者を介してのものだったが、講演では「5年以内にGoogleの音声認識技術と翻訳技術の組み合わせで(言語の壁を越えた)コミュニケーションも可能になるだろう」という話題も。会場後方のブースで同時通訳をしていた人たちは、やがて自分たちの仕事を奪うかもしれない企業の仕事をしていることになる。

Google エンジニアリング・リサーチ上級副社長 アラン・ユースタス氏

Googleの野望は有名だ。すなわち、世界中のあらゆる情報をデジタル化し、整理し、検索可能にすることである。それはWebサイトの検索から始まったが、今では書籍や論文、ソースコード、地図、画像、動画など多岐にわたる。このイベントでは、こうしたGoogleの検索に関する取り組みと、その成果について発表された。

エンジニアリング・リサーチ上級副社長のアラン・ユースタス氏は、過去15年間で人々が情報を探す手段が様変わりしたことを説明した。情報を世界中の人に届けようと思っても、地方紙や本などの物理的な制約のあるメディアでは、その実現が難しかった。そして一方向であるがため、情報がどの程度まで伝達し、どのような効果があったのかを把握することも困難だった。しかし、Webの発展によって、この状況が大きく変わった。現在では、誰もが簡単に世界中に対して情報を公開できる。

一方、Webで公開されているデジタル化された情報は増え続けており、この膨大な情報を整理することの重要性も増している。GoogleはWebのテキストだけではなく、画像や動画なども検索に取り込んできた。Googleマップによる地図サービスもその一環だ。「スターバックス」を検索したときに遙か彼方の店舗を提示しても意味がない。位置情報にしたがって、検索者の近くの店舗を表示してこそ、意味のある検索結果になる。同氏は、これらのGoogleが提供する情報やサービスをAndroidやGoogle Chrome、そして年末までにリリースが予定されているChrome OSを利用することで、よりシンプルに扱えるようになると説明した。

同氏はGoogleが持つ翻訳技術についても展望を語る。機械翻訳の精度は十分なものではなく、完全な機械翻訳の実現は容易ではない。しかし、Googleが持つ膨大なグローバル情報と検索技術との組み合わせによって、リアルタイムコミュニケーションが可能な精度まで高めていくという。「コンピュータサイエンスの科学者が英知を絞っている。携帯電話をあなたと私の間に置いて話すことで、それぞれの母国語で話して通じるようになる。そんな世界が5年のうちに具現化するだろう」。

リアルタイムな検索と翻訳技術

Googleフェロー アミット・シングハル氏

続いて登壇したGoogleフェローのアミット・シングハル氏は、検索技術を構成する3つの要素として「規模」「スピード」「関連性」を挙げ、過去から現在まで、これらの要素がどのように変化してきたのかを紹介した。最初の人類は親から子へ、または小さなコミュニティの中だけで情報が共有されていた。その後、活版印刷の登場により広く世界中の情報が記録されるようになった。知識が紙に記されることによって、人類の科学力や創造力が向上したのは間違いない。

そして、ほんの数十年前までの主な情報な媒体は印刷物だったが、これを変えたのが「インターネット」と「Google」であるとシングハル氏は語る。ただし、それは達成された話ではない。世界中のあらゆる情報を集めて整理し、検索可能にしたいが、世界にはまだまだビット化されていない情報が多く存在する点を指摘する。「ストリートビュー」などはその課題への挑戦と言えるだろう。まさにその活動は「ビットのないところにビットを作る」(同氏)ことに他ならない。

検索のリアルタイム性も向上してきた。Twitterの登場などにより、人々が発信する情報はより非同期なリアルタイム性を帯びつつある。ニュースやTwitterなどを検索可能にし、今この瞬間に何が起こっているのかを表示するリアルタイム検索が紹介された。数秒、または数分後には世界の反対側で起こった出来事さえ知ることができる。同氏によれば、米カリフォルニアの地震では、地震発生から約90秒後にはGoogleのリアルタイム検索に関連情報が反映されていた。これは地質学研究所が情報を更新するよりも約8分早かったという。

あなたのための検索

さらにシングハル氏は、検索エンジンがもっと人を理解できるようにしたいと話した。現代のコンピュータは、人間のように言葉の意味を理解するものではない。そこでGoogleの検索エンジンは、地域や他の単語の組み合わせによって意図を理解しようとする。具体的には、「tax」というクエリでは、日本からなら国税庁がトップに表示され、香港からであれば香港の税務局が表示される例を紹介した。複数の意味があり、多様な解釈ができる言葉に対しても、Googleにログインして検索すれば、その人に最適な結果が得られるという。

最後にシングハル氏は次の10~20年で実現したい自身の夢として、「何をするべきか」という問いに答える検索エンジンについて語った。自分が忘れていることや、意識していなかったことを、検索エンジンが事前に教えてくれるというものである。例えば(の話である)、妻の誕生日が近づいていることや、妻が喜ぶプレゼントは何かなどを検索できるようになるというのだ。数年前までは、こうしたパーソナルな情報の検索は難しかったが、FacebookやAmazonなどに登録してある情報を公開している人も少なくはないため、公開されているプロファイルから次の行動や趣味嗜好を推論することは可能だろう。もちろん、プライバシーとの調整は常に必要であり、これは今のGoogleがまさに直面している問題でもある。

数十年前まではSFの世界と思われていた技術が今は当たり前に使われている。シングハル氏によれば、同様に今はSFと思えるような技術が実現される日が必ず来るという。数年後にはTwitterやSNS、ブログ、電子メールなどのアカウントを検索エンジンに解析させ、「この仕事を依頼できそうな知人は誰か?」といった質問ができるようになるのかもしれない。それは、もはや検索エンジンではなく人工知能とも呼べそうだ。