Mike Downey氏

現在、MicrosoftでSilverlightやRIAに関連する技術のエヴァンジェリストを務めるMike Downey氏にSilverlightの現状と今後、そして否応なく比較されるFlashやHTML5とSilverlightとの関係について伺った。

同氏はMacromedia/Adobe Systemsで長年Flashのプロダクトマネージャ及びエヴァンジェリストを務めていた経歴を持ち、2009年7月にMicrosoftに転職した。それも、Flashの競合製品であるSilverlightのエヴァンジェリストに就任したため話題となった人物だ。なお、同氏は自身の転職についてSilverlight TVや自身のブログでも詳細を語っている。

Silverlightの可能性

――やはりDowneyさんといえば、元々AdobeでFlashの仕事をしていらしたという経歴が注目されていると思います。FlashとSilverlight、今のお立場からどのように考えられていますか。

Downey「私は2000年から2009年までMacromedia/Adobeに在籍していました。数年間Flashのプロダクトマネージャを務め、また最初のAIRのプロダクトマネージャでもありました。Adobeを去った後はFlashやSilverlightに関連するコンサルティングを行っていました。その過程で、Silverlightプラットフォームの強さを知ったのです。Silverlightはエンタープライズや動画配信などのメディア分野において、Flashより優れていることに気が付きました。そして、これからですが、オンラインゲームの分野でも、MicrosoftとSilverlightは大きな可能性を秘めています」

――Silverlight 4はビジネスにフォーカスした更新が中心でしたが、次はゲームやメディアに特化した更新が考えられるのでしょうか?

Downey「将来の製品についてコメントできませんが、メディアやエンターテイメント分野において大きな可能性を持っていると思います。また、プラグインで動作する点においてもメディア・エンターテイメントでHTML5とは違うことができるでしょう。Silverlight 4になってFlashに追いつきつつあり、なおかつAIRを追い抜いています」

――現在、多くのデザイナーはAdobe製品を使っています。『SilverlightではFlashと同じことができるよ』では、Silverlightには移行してくれないと思います。Silverlightだからこそ、できることは何なのでしょうか?

Downey「規模が大きく複雑なアプリケーション開発においてSilverlightはFlashやFlexに対して優位性があります。開発ツールや.NET Frameworkが非常に優れており、C#はActionScript 3よりも優れた言語です。一方で、小規模なキャンペーンやプロモーションサイトを作る限りにおいては大きな差はありません。しかし、将来においてはグラフィックの性能においても差が出てくるでしょう。HD ビデオを配信するSmooth StreamingはIISとSilverlightによって実現されており、このHTTP経由のストリーミング技術によって最高のユーザー体験を得られます。また、『Expression Blend 3』では既存のデザインワークフローとの統合にもフォーカスしています。今日デザイナーが使っている『Photoshop』や『Illustrator』のデータを取り込むこともできます」

――「Visual Studio」を使っている開発者ならSilverlightの優位性を理解しやすいと思いますが、多くのデザイナーには理解しにくいのではないでしょうか。現に本来「Expression」はデザイナーのためのツールですが、実際に使っているのは開発者です。少なくとも日本の現状ではそうです。

Downey「古いワークフローでは、開発者とデザイナーの関係は一方通行でした。デザイナーがPhotoshopやIllustratorなどでデザインし、それを開発者に渡せば仕事は終わりでした。Expression Blendが目指す新しいワークフローは、開発者とデザイナーに双方向で反復的な関係を求めます。それは、デザイナーに取っては新しい試練となるでしょう。最初のExpression Blendは、まだまだ開発者向けのデザインツールでしたが、『Expression Blend 3』、そしてまもなく登場する『Expression Blend 4』で、よりデザイナー向けのツールになりつつあります。今後は、もっとデザイナーを開発プロセスの中に組み込む必要があります。Adobeも新しいツール『Flash Catalyst』を出しましたが、これはデザイナーが作ったプロトタイプを開発者に渡して終わりという一方通行の古いワークフローのままです。Expression Blend は、より双方向の新しいワークフローに挑戦しています。ある例ですが、ニューヨークのFlashデザイン会社がBlendとVisual Studioを使ってSilverlightのサイトを構築するプロジェクトを行いました。最初、デザイナーは新しいツールであるBlendを使うことを嫌がりましたが、6週間経過してプロジェクトが終わる頃には絶賛していました」

――Blendは使ってみないとその魅力が分からないということでしょうか。だとしたら「Expression Express エディション」のような無償版を提供してはいかがでしょうか。

Downey「悪くないアイデアだと思います。すでにVisual Studioで無償のExpress Editionがありますしね」

――不況ということもあって、小規模・小予算・短期間のプロジェクトを個人で遂行できることが求められているという傾向もあると思います。先ほどFlash Catalystの話もありましたが「Adobe CS5」は、多くの作業をデザイナー個人で実現できるという点が、今の市場ニーズに一致しているようにも思うのですが。

Downey「Catalyst もいずれはBlendのようになっていくと思います。問題は、デザイナーが制作したプロトタイプを開発者に渡して製品に組み込むとき、変更が生じると一連の作業を最初からやり直す必要があり、開発者の負担が増えてしまうという部分なのです。Adobe製品では、これを十分にサポートしていません。Blendが挑戦している課題は個人のデザイナーではなく、全体の関わりです。デザイナーは絵だけではなく、よりインタラクティブなプロトタイプを作る必要があり、フィードバックやレビューを反映させる仕組みが求められます。Blendに含まれているSketchFlowを使うことで、インタラクティブなプロトタイプの作成と、開発者との双方向の開発をサポートします。Adobeのアプローチは従来のワークフローを発展させたものですが、Blendでは、これまでとは違う新しいワークフローによって新しい価値を提供します。

――品質やコストなどビジネス向けの開発をテーマにすると、開発ワークフローが重要になります。一方で、表現の場としてのWebもあります。アートとしての作品を表現するプラットフォームとして考えるとSilverlightは十分ではないと思います。デザイナー個人が開発者の手助けなしにメディア作品を作るのは難しいでしょう。

Downey「その通りだと思います。現在、その分野に我々はフォーカスしていません。キャラクタアニメーションやアートワークなどの作成にはFlashツールの方が良いでしょう。プログラムによるアートの生成であればC#がお勧めです」

――Silverlight、Flash、そしてHTML5の登場によって、Webアプリケーションの次世代プラットフォームが整ったと思います。今後、SilverlightはWebにどのような変革をもたらすと思いますか。

Downey「まず、Microsoft は HTML5を推進していきます。Internet Explorer 9は最良のブラウザになるでしょう。しかし、ご存知のようにWeb標準の進化はスローです。長い期間をかけてブラウザに取り入れていきます。これに対しSilverlightは革新的な技術をいち早く取り入れていきます。パフォーマンスやグラフィックなどでは常にブラウザをリードするでしょう。開発者にとってはC#や.NETなどで得られる恩恵もあります。そして、Silverlightはブラウザ、デスクトップ、モバイル、Xbox、Windows Media Center、TV などの開発プラットフォームとして多くのデバイスに配置され、One Tool、One Language、One Frameworkによる開発を実現します」

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Silverlight TV Japan: エピソード 2:元FlashのプロダクトマネージャーがSilverlightを語る

撮影:糠野伸