6月13日22時51分、小惑星探査機「はやぶさ」と小惑星「イトカワ」より採取したサンプルを搭載したカプセルは地球への再突入を果たした。火球となってオーストラリアWoomera Prohibited Area(WPA)内へと降下したカプセルからはその後、23時02分にパラシュート開傘とほぼ同時にビーコン発信を開始、そのおよそ5分後に地球へのタッチダウンを果たした。

現地回収チームは、WPAの降下想定領域の周辺4カ所に電波方位探査システム(DFS)を設置しており、それらのアンテナにて着地点の位置を確認。23時20分にはヘリコプターによる現地でのビーコン確認と、同56分には目視による確認がなされた。

13日の夜間、目視により確認されたカプセルとパラシュート

これらスムーズな運用は、当初想定した地点から1kmも離れていない場所にカプセルが無事降下してくれたことにより成し得たことで、プロジェクトマネージャーの川口淳一郎氏は翌14日の昼間の回収状況に関する報告において、「思いがけずというか、予想外というか、理想的にきていると言える。ビーコンが予定通り発信しているということは、計器類にもダメージがないということでり、かなり良好な状態であると思っている」と述べたほか、同日14時00分にはカプセルを保護してきたヒートシールドの上面、下面ともにカプセルから約5km離れた場所で発見されたことについて、「上空の風が予想よりも弱かったことを意味しており、それが思っていたところに降下できたことにつながった」と喜びの笑みを見せた。

はやぶさの帰還祝いとして佐賀県の井手酒造が作成したはやぶさ用オリジナルラベルを貼り付けた同社の清酒「虎之児」。酒造元が川口有限会社になっていたり、住所がJAXA相模原になっていたりと、細かいところまで手を加えている

現地の回収チームは14日の7時54分にアボリジニの代表などを乗せた着陸候補地点特定のためのフライト(リコネッサンスフライト)を実施、アボリジニの聖地である現地の様子を確認後、回収チームの着陸の許可が出された。これにより、回収チームの第1陣が12時18分にJAXAのウーメラでの拠点であるRCC(Range Control Center)から出立、12時53分にカプセルより500m離れた場所に降下、安全性の確認を行いつつ、カプセルの回収作業を開始した。

カプセルを回収するためにはカプセルに亀裂などが生じていないかを確認、付着した土壌の処理やサンプリングのための周辺土壌の採取などを行いつつ、カプセル本体を搬送用のコンテナに詰め、RCC内に用意したクリーンルームにおいて日本へ運搬するための梱包作業を行い、その後、予定では6月17日に日本への輸送を開始する計画となっている。また、回収されたヒートシールドも熱ダメージのデータ採集のために日本に持ち帰られる予定となっている。

左が14時50分に撮影されたカプセルの着地状況。カプセルの下が上を向いている。真ん中が15時01分に撮影された未発火の火薬が残っている危険性などを考慮し防護服を着込んでカプセルの状況を確認している様子。右が15時06分に撮影された安全が確認されたことから、カプセルの様子を記録する回収チーム(提供:JAXA)

なお、今回の回収には日本のほか、現地オーストラリアや米国航空宇宙局(NASA)などの協力がある。特にオーストラリアの協力について、現地で指揮を執る宇宙航空研究開発機構(JAXA)執行役の長谷川義幸氏は、「立ち入り制限区域(WPA)なので、色々と厳しいのではと思っていたが、日本人並みの気配りをしてくれている。それは日本を好意的に見てくれている、ということと、オーストラリアの政府としても宇宙関連でより上に行きたいという思惑があると考えており、国民全体がこうした宇宙に関するイベントにワクワクしている」と、オーストラリアでも今回の件が好意的に受け止められていることを説明する。また、「オーストラリアとしても、日本との宇宙開発も踏まえた協力関係を構築することで、これを機に将来を見据えた両国間の関係を強化したいという狙いもあるし、回収したサンプルの分析チームにはオーストラリアからもスタッフが参加しており、まだまだ関与が続くということもあり、相当盛り上がっている」(同)とする。

カプセルの回収時間は16時08分。搬送先のRCCに到着したのが17時00分、同17時10分にはRCCに用意されたクリーンルームにカプセルが搬入され、その日のカプセルの回収作業は終了した。また、ほぼ同時に発見されたヒートシールドについては、その場所の確認が行われただけで、15日の午前中に回収作業が行われる予定となっている。

左がヒートシールドの前面。右がヒートシールドの背面

さらに15日午後にクリーンルーム内にてカプセルに付けられているヒートシールド分離およびパラシュート開傘、切り離し用の4個の火薬部分と、ビーコン発信や火薬への点火、コントロール用FPGAの動作維持などに用いられたリチウムイオン1次電池の取り外しが予定されており、それら作業を終えた後日、日本への運搬に向けて密封、気密性コンテナに入れ、窒素をパージして17日にウーメラ空港より日本に向けてチャーター機を飛ばし、日本には翌18日に到着する予定。