【レポート】
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が6月13日深夜、7年間に渡った航海を終えて地球に帰還。14日深夜0時より、相模原キャンパスにおいて川口淳一郎プロジェクトマネージャによる記者会見が開催された。
小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)は、小惑星からのサンプルリターン(試料の持ち帰り)技術の確立を狙って開発されたもの。2003年5月9日にM-Vロケット5号機で打ち上げられ、2005年9月に小惑星イトカワに到着。2回の着陸を行い、このほど地球に帰還した。途中、幾度となく重大なトラブルに見舞われ、その都度不死鳥のごとく蘇る様は多くの人に感動を与え、社会現象にもなった。
会見の冒頭ではまず、川口プロマネから状況の説明が行われた。
すでに精密な軌道修正が行われ、オーストラリア・ウーメラ砂漠への落下が確実になっていた「はやぶさ」だったが、再突入3時間前には試料が入っている可能性があるカプセルを本体から分離するという最後の仕事が残っていた。カプセルは再突入後、自動でパラシュートを開き、探索用のビーコンを発信する手順になっており、地上で待機する回収班がそれを観測することになっている。
川口プロマネが一番不安に思っていたのはこのカプセル分離だったというが、火工品はしっかり動作し、19時51分に分離は成功。23時にはビーコンも受信し、その後、ヘリコプターから目視による確認にも成功した。回収作業は14日の午後に実施される予定。「はやぶさ」本体はカプセル分離後、姿勢を変えて地球の撮影にも成功しており、文句なしの成果となった。
その後の質疑応答で、感想を求められた川口プロマネは「この成果は、諸先輩方が築き上げてきた宇宙開発技術・科学の上に成り立っているもの。我々プロジェクトチームはその中で、たまたまこういう場で任務についていただけ。お祝いの言葉は、諸先輩方に向けられるべきだろう」と述べるとともに、「いろんな方の声援を受けて、なんとかここまでやってこれた。みなさんに大変感謝している」と応援に対する礼を述べた。
当時、打ち上げ前の会見で「背伸びした計画だ」と述べたことを指摘されると、「今でも背伸びした計画だと思っている。技術実証の試験機なので、冗長性などの対策はほとんど取られていない。いつも今回のように成功するとは限らないが、ただこういう挑戦がどこかで行われないと、その先が見えてこない。これからも持続的な活動を支えるためには、こうした挑戦が必要だと今でも思っている」と述べた。
一般に、信頼性が重視される宇宙機ではいわゆる"枯れた技術"が採用されることが多いが、「はやぶさ」は多くの新技術を搭載した探査機である。その象徴と言えるのがイオンエンジンであり、これによって小惑星への往復が現実的となった。月よりも遠くの天体に着陸し、地球に戻ってきたのは世界初の快挙。川口プロマネが好んで使う"太陽系大航海時代"のためには必須の技術だ。
「はやぶさ」は約125億円という低予算の中で、世界初の成果をいくつも成し遂げた。この点について聞かれた川口プロマネは「ローコストだったのは、冗長性がない技術的挑戦だったから。それでうまくいったのは幸運」とコメント。「お金をセーブして成果を出せと言うのは無理。しかるべき投資をしないと技術成果が上がるはずはない。『はやぶさができたんだからローコストでもいいじゃないか』というのは論理が間違っている」と、そういった向きには釘を刺した。
笑みが漏れたのは、心境の変化を問われた場面。「行方不明になってからだと思う(2005年末の通信途絶)。決してオカルト的にやっているわけではないが、あるところから先はやっても分からない、そう思わざるを得なかった。神頼みもするようになった」と振り返り、「越えられそうもない困難を克服して、このような会見が開くことができた。今でも夢のようだ」と喜びを見せた。
プロジェクトマネージャという重圧から解放された川口氏だが、次の世代に対しては「挑戦することにためらいを持たないで欲しい」とメッセージを送る。「まだ7~8年あるのですぐにやめるつもりはない」が、「この8年間、いつも運用が気になり、休日らしい休日が1日もなかった。少しは充電したい」という。
JAXAは「はやぶさ」の後継機として「はやぶさ2」を計画している。しかし、プロジェクト化は一向に進まず、打ち上げは当初の2010年から、現在は2014年に延期されている。探査機の製造に要する期間を考えると、来年度が本当に開発を開始するタイムリミット。目的とする天体との位置関係が重要なため、これを逃すと、打ち上げる機会は当面なくなってしまう。せっかく「はやぶさ」で築き上げた日本の優位性が失われてしまうのだ。
川口プロマネには当然ながら危機感がある。立場上、明確な批判こそ避けたが、「はやぶさは今日で一応終わりを迎えるが、この瞬間から技術の風化・離散・拡散が始まっている。例えばメーカーの方々は、次のプロジェクトがなければ伝承する機会がない。ここで何かのプロジェクトを認めろと言うつもりはないが、将来に繋がるようなミッションを立ち上げる必要がある」と主張した。
来年度に「はやぶさ2」の開発を始めるためには、今年の夏の概算要求に予算を盛り込む必要がある。これが事実上のラストチャンスとなるが、国の方針が定まらない中、見通しは不透明だ。「米国は有人の小惑星探査の構想まで持っているが、これははやぶさが火を付けたんだと思っている。こういう活動をせっかく立ち上げながら、わざわざ身を引くような宇宙機関はあってはならない」(同)
「はやぶさ」の物語をこれで終わりにしてはならない。大事なのはむしろこれからだ。ブームを一過性にしないためにも、声を上げていくことが重要だろう。川口プロマネによると、応援してくれた人達へ感謝を述べるための機会を設ける予定とのこと。現場とファンが一体となり、日本の宇宙探査をまだまだ盛り上げていきたいところだ。
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