【レポート】

Run Anywhereなアプリケーションフレームワーク"Qt"の現在・過去・未来

    後藤大地  [2010/06/09]

    知らないうちにあなたも使っているQt

    現在、Qtの開発者は25万人ほどとみられている。草創期からLinuxやFreeBSDを使っているユーザや開発者にはKDEで採用されたマルチプラットフォーム対応のC++ツールキットとして知られている。メーカ関連で組み込み系や産業機械系の開発者であれば主要な開発環境として付き合うことが多いだろうし、携帯向けのネイティブアプリケーション開発者にも主要な開発環境のひとつとして知られている。

    NokiaがIntelと一緒に開発したモバイルLinuxプラットフォーム「MeeGo」(現在はLinuxファウンデーションに移管)もアプリケーションフレームワークにQtを採用している

    PCユーザやPCデベロッパはQtについてはそれほど馴染みがないかもしれない。しかし、日本で販売されているデバイスや産業機器のさまざまなものにQtが使われている。「知らないうちに使っている」というパターンだ。組込みに限らず、大規模システムで採用されることもある。たとえばドイツの航空管制システムはすべてQtで開発されている。

    QtはPCから組込み、携帯、産業機器などさまざまなプラットフォームで動作するアプリケーションフレームワーク。ライブラリはもちろん、開発環境、デザインツール、コンパイラ、サポートまで包括的に提供されており、成果物そのものはLGPLのもとでオープンソースソフトウェアとして提供されている。次期Qt 4.7には注目の機能が導入されることになっており、このタイミングでいちどおさらいしておきたいフレームワークだ。

    Qt 4.7は今夏登場 - QMLとWebkitに注目

    次期Qtはこの夏以降に登場が予定されているQt 4.7だ。すでにベータ版が提供されており試すことができる。Qt 4.7はユーザや開発者から要望が多かったQML追加されるというのが最大のポイントとなる。Webkitのアップデートと合わせて抑えておきたいポイントだ。

    QML

    QMLはCSSやJSONによく似たフォーマットのGUI記述言語。デベロッパはC++を使ってGUIを記述するが、これはデザイナには難しい。QMLはCSSやJSONにフォーマットを類似させることで、デザイナでも記述できるように工夫されている。さらにデザイナツールで作成したものから自動的に生成できるなど、記述すら必要ない状況にもなっている。オーバーヘッドを少なくするため、QMLはオンザフライで解析されUIが描画される。

    Webkit

    Qt 4.7のもうひとつの注目点は、統合されているWebkitがアップデートされること。HTML/JavaScriptエンジンの開発速度はきわめて速い。Webkitライブラリのアップデートで、こうした開発の恩恵をそのまま受けることができる。HTML5の機能も高速JavaScriptエンジンの成果も得ることができる。

    Qt 4.7の目玉機能はいくつかあるが、そのひとつがC++を使わずにUIデザインを可能にする機能"Qt Quick"だ。Qt Quickはここで紹介したQMLと、QMLのデバッグ/エディット/レイアウトを行うQt Creator 2.0から構成される

    QMLはデザイナでも扱える言語とされているが、最大の恩恵は開発者が感じることになるだろう。これまでC++で開発していたUIをQMLで開発できるようになれば、開発速度を引き上げることが可能だ。C++開発者にとってみればQMLの記述はとても簡単だし、一見して構造がわかるフォーマットになっているため、アプリケーションの構造化にも役立つ。Webコンテンツの言語がHTML5だとするなら、ネイティブアプリの言語がQMLになるようなものだと考えおくといいだろう。

    Nokiaによる買収 - 日本の開発者や企業には朗報

    今回お話を伺ったノキア・ジャパン ビジネスデベロップメントマネージャー 佐相宏尚氏。Qt 4.7のリリースは「夏から秋にかけて」とのこと。「パフォーマンスとクオリティの両方が向上しているので楽しみにしていてほしい」(佐相氏)

    QtはもともとTrolltechというノルウェーのベンチャー企業が開発していたが、2008年にNokiaによって買収された。これはQtの開発者にとっては朗報だったといえる。特に日本の開発者にとっては嬉しいことだ。Trolltechがノルウェーの企業ということもあって、これまで企業窓口を得ようとすればそこまで連絡を付ける必要があった。国際企業ならともかく、事業を国内で展開するほとんどの企業や開発者にとって、Trolltech本社とやりとりをするというのは困難なことだ。

    しかし、Nokiaに買収されたことで事態が変わった。ノキアは世界中にオフィスを構えている。日本においてもノキア・ジャパンという日本法人が窓口になることで、これまでよりも企業サポートを得やすくなった。Nokiaは現在、Qtの開発者を2009年現在の25万人から250万人へ引き上げるための活動を実施しており、日本でも同様のプロモーションが展開されている。日本語で各種情報が得られるというのは、日本の開発者にとっては嬉しいことだ。

    Qt Labs Japanという、Qt Labsの日本語版ともいえるサイトの運営もはじまるなど、日本語で情報発信やコミュニティがやりとりできる場所を提供するなど、徐々にその活動を広げている。2009年にははじめて日本でQtカンファレンスを開催するなど、Qtを推進する主要な国のひとつとしての取り組みが強化されつつある。

    日本語での情報提供は「Qt Labs Japan」から。少しずつ日本語コミュニティも拡がりはじめている

    Qt - "キューティ"から"キュート"へ

    以前からQtに馴染みのある開発者なら、Qtのことは「キューティ」と読んでいただろう。日本に限らず、Qtの発音は「キューティ」が多かった。しかし、今Nokiaの担当者と話をしても「キューティ」という発音はでてこない(ときどき、ぽろっとそう発音することはあるが……)。今全社をあげて「キュート」と読むように変えているところだという。

    これはいわばプロモーションの一環だ。もちろん「キュート」という発音は「cute (かわいい)」にかけてある。かわいいというよりは、どちらかというとパワフル、強力というイメージの強いフレームワークだが…… もちろん、アルファベット表記は今までどおり「Qt」だ。

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