JALが大幅減便を発表する一方で、ANAの増便が着々と進む。7月に成田-ミュンヘン線を新規就航し、今夏からはTAM航空との共同運航便(コードシェア便)でブラジルへのアクセスをスタートさせる予定だ。そして10月には羽田発の国際線を増やす。

そんな世界への架け橋として今後が期待されるANAの伊東信一郎代表取締役社長に、インタビューを試みた。

羽田の国際線はできるだけ飛ばす

まずは、今年10月に本格的に国際化する羽田空港。ここからの国際線は、「できるだけ多くの便を飛ばしたい」とかなり積極的だ。

伊東信一郎(いとう・しんいちろう)氏
1950年生まれ。1974年ANA入社。2003年4月執行役員・営業推進本部副本部長兼マーケティング室長、同年6月取締役。常務取締役、専務取締役、2007年4月代表取締役副社長を経て、2009年4月代表取締役社長に就任

「昼間の(航空機の発着)枠が3万回から6万回になったが、そのボリュームは日本発着の航空便に占める割合からいえば、かなり小さい」と、発着枠が増えればもっと需要はあると見ている。

ANAは現在、羽田の暫定国際線ターミナルからソウル、北京、上海、香港の4都市に就航しているが、これに加え台北線の就航も表明。これらはすべて昼間の時間帯に運航される。 一方、「深夜・早朝の時間帯については先に需要があるのか、あるいは便を供給することで需要が生まれるのかは、"鶏と卵"のようなもので就航してみなければなんとも言えない」というが、新規就航の意思ははっきり示す。

その深夜・早朝の時間帯には、デルタ航空のデトロイト線とホノルル線、ハワイアン航空のホノルル線、アメリカン航空のニューヨーク線、シンガポール航空のシンガポール線、タイ国際航空のバンコク線など人気路線の就航が続々と発表されており、ライバルのJALもパリ、サンフランシスコ、バンコク、ホノルル線の開設を表明している。

となるとANAにも期待がかかるが、「冬ダイヤの策定をしなければいけない6月頃までには決めたい」とのことだ。

ミュンヘンとブラジルへ新規就航

では、成田発のアムステルダム、ローマ、サンフランシスコ、コナ(ハワイ)島、デンパサール(バリ島)。こうしたJALが今秋以降に撤退する路線にANAは就航するのだろうか。  これには、「興味はありません」とはっきりした答えが返ってきた。撤退するということは採算性が低いということだから、収益の厳しい今の業界事情からすれば当たり前ともいえる。利用者としてはコナやバリ島、ローマなどの魅力ある観光地に日本の航空会社が飛ばなくなるのは残念ではある。

客室を日本人CA(写真中央)が占めるのも、もちろんANAの特徴

羽田の国際化で話題を奪われがちな成田からもANAは着実に便数を増やしている。今年7月1日はミュンヘン線を就航。ミュンヘンはオクトーバーフェストや地ビールなど楽しみの多いドイツ最大級の観光地であり、また南仏などへの乗り継ぎにも便利である。

また、今夏にはANAの成田-ロンドン間とTAM航空のロンドン-ブラジル間をつなげて日本からブラジルへのネットワークを築く予定だ。ブラジルもイグアスの滝やリオのカーニバルなど観光地としての魅力があり、また近年の著しい経済発展でビジネス渡航の需要も増加。さらに2014年にはサッカーのワールドカップが、2016年にはオリンピックが開催される。

ブラジル・リオデジャネイロのコパカバーナ・ビーチ

羽田と成田はデュアル・ハブ

「ANAでは成田と羽田を合わせた『首都圏ディアル・ハブ』モデルの構築を基本的な考え方としている」。これは、両方の空港を旅の拠点として上手に使いこなすという考え方で、それは旅行者にとっても使える考え方。羽田発が混んでいれば成田発を使う、あるいは地方空港から羽田経由で海外へ行くなど、いろいろな旅のバリエーションができるわけである。

「ANAは以前からオープンスカイ(航空自由化)や羽田空港のハブ(運航拠点)空港化を主張してきたが、国土交通省の成長戦略会議もそれと同じ方向を向いてきた」。的確に時代を見据えてきたANAが今後、どういう路線ネットワークや乗客サービスを提供してくれるのか。楽しみである。