Web 2.0 Expoで「Dropbox」共同創業者のDrew Houston氏(CEO)と「Xobni」共同創業者のAdam Smith氏(CTO)が共同で「ゼロから100万ユーザー達成まで」という講演を行った。Dropboxはオンラインストレージを用いたファイル同期/共有サービス、XobniはOutlookの検索プラグインだ。今は異なる市場のスタートアップを率いている2人だが、実はマサチューセッツ工科大の同級生で、2人ともエンジニアであり、そして2人ともマーケティングのバックグラウンドを持たない。それなのに、どちらも2年で200万ユーザー突破という成功を収めているから、スタートアップ成功術のスピーカーとして招待された。

Dropbox共同創業者のDrew Houston氏(左)とXobni共同創業者のAdam Smith氏

この部屋から2人のスタートアップ成功者が誕生した

最初に2人が指摘したのは「人々が求めるものを作る」。逆に言えば「人々が求めるかどうか分からないものを作るほど大きなリスクはない」。前者の例として挙げたのがNetscape Communicator。後者の例はセグウェイだ。技術的に注目されても、市場にフィットしなければ成功しない。

製品と市場のズレは優れたマーケティングでも修復不可能

アイディアを考え議論するだけならコストは大してかからない。しかしプロトタイプを作るとコストが負担になる。製品ローンチに至ってはスタートアップの命運を賭けたイベントだ。だから資金に余裕のないスタートアップは、資金を使う前、つまりアイディアを練る段階で自分たちが考える製品/サービスが人々に求められるかを十分に検討・リサーチする必要がある。

作らずに検討・リサーチするには、まず人に話してみる。これならコストはゼロだ。しかし会話を通じて得られる反応には少なからずノイズが混じるという。そこで市場にも問いかけてみる。例えばAdWordsを使ってネットユーザーの反応を見る。フェイクの商品紹介ページなどを作って統計を取るというのも方法の1つだ。

AdWordsテスト、またはスクリーンショットや解説ビデオの提供など、ネットでは製品を実際に提供することなく消費者の反応を確かめられる

Houston氏がDropboxの成功を確信したのは、リサーチ期間に作った3分間の説明動画をコミュニティ型のニュースサービス「Hacker News」に投稿したとき。数時間で議論が広がり、ランキングの上位に食い込むほど話題になった。

スタートアップはニッチから攻めるのが定石

ベータプログラムから製品ローンチにかけては、まず自分の製品に合った"小さな市場"に製品/サービスを提供する。どんなに優れた製品/サービスでも、利用体験を共有できる存在がいなければ、ユーザーは利用し続けてくれない。Facebookはハーバード大学の学生用SNSで始まり、レストラン/ショップ検索のYelpはサンフランシスコ限定でスタートした。Twitterは2007年に、音楽/映画/ネットの巨大イベントSouth by South West(SXSW)で参加者が会場内で情報交換するサービスとして使われて注目され始めた。

ベータプログラムを展開する場合、Webページは簡潔な説明でまとめ、必ず電子メールアドレスを取得できる形で申し込んでもらう。アーリーアダプタの電子メールアドレスは、スタートアップがユーザーを増やしていくための貴重な種になる

逆に失敗例として挙げられたのがGoogleのWave。技術的には面白いが、ベータプログラム開始時の規模・範囲が不適切で、利用できるようになっても実際に機能を試せる相手が少ないことから利用者の輪が広がるペースが鈍く、基盤となるアーリーアダプタを築けていないとHouston氏は指摘した。

これはアドバイスとして紹介していいものか微妙だが……オズの魔法使いを例に「機能の準備が整うまでは、シミュレートなどしてごまかせ」

スタートアップにクチコミ戦略は欠かせない。関心を持ってくれた人が友だちに紹介しやすいようにSNSやTwitterへのリンクを用意する。クチコミが広がる工夫も必要で、例えば招待に数や期間の制限を設けるなど、提供に限りがあるような危機感をクチコミの中に混ぜ込むべきだとSmith氏。ボーナスギフト付きの紹介プログラムも効果がある。Dropboxは紹介者に250MBの追加ストレージを提供するプログラムを用意しているが、同プログラムの開始で登録ペースが60%増加したという。

アーリーアダプタからメインストリームのユーザーへと製品/サービスを広げる際には「分かりやすさ」をとことん追求する。「10%簡単になれば、50%ユーザーが拡大する」とHouston氏。エンジニアは自分が盛り込んだ機能をすべてを書き尽くしたくなる。だが、Dropboxではロゴと大きなダウンロードボタン、そして「オンライン経由で、複数のコンピュータ間でファイルを同期」という説明だけのWebページでもっとも効果が見られた。

ユーザーが考え込まず、ただ使ってしまうように設計すべき

上はベータ初期の説明だらけのDropboxのWebページ、下はベータ後期のムダがそぎ落としたDropboxページ

もちろん製品の詳細な説明が不要なわけではない。が、「まずはユーザーを釣り(注: 本当に英語でもこのまんまの表現だった)、それから電子メールやTipsページ、ツアーページなどで教育すべき」とHouston氏。

インデックス化が完了した段階で検索例を表示。機能をユーザーに伝えるには作業の流れに組み込むと効果的。ほかにも紹介機能にSNSのソーシャルグラフを利用するなど、エンジニアの力を使い勝手の向上やクチコミ効果などにも分配すべきとSmith氏

「同じ製品でも、開発者とユーザーではまったく違うものに見える」とHouston氏。「どのような規模、どのような製品であれ、ユーザーテストは欠かせないプロセス」と指摘した。Dropboxの開発では明解な説明に配慮し、また分かりやすい製品ツアーも用意したので、Houston氏は「誰でも迷わずに使えると自信を持っていた」という。ところが一般消費者グループを招きDropboxを導入・利用してもらう様子を別室でモニターしたところ、ツアーのスクリーンショットをクリックし続ける人が出てくるなど開発者の予想を超えたハプニングの連続。それからもう一度ユーザーの視点に立ってDropboxを見つめ直し、ユーザーが考えこむ要素の排除に努めた。