【レポート】
デジタルハリウッドは、デジタルハリウッド大学秋葉原メインキャンパスにて、映画『ソラニン』の三木孝浩監督と同作品のプロデューサーを務めたアスミック・エースの今村景子氏を招き、特別講義「映画『ソラニン』ができるまで」を行った。
三木監督はソニー・ミュージックエンタテインメントでの映像ディレクターを経て、2006年に独立。いきものがかりやORANGE RANGEなどのPVやライブ映像を制作し、映画『ソラニン』で監督デビューを果たす。原作は、若者に人気を集める浅野いにお氏の同名マンガだ。一方、今村プロデューサーは、ソラニン同様、マンガが原作の映画『ハチミツとクローバー』などのヒット作を手掛けている。
講義は、同校の高橋光輝教諭をモデレーターにスタート。映画制作の流れを知るということで、まず企画がどのような過程を経て映画化されるのかの説明を行った。今村プロデューサーは、企画立ち上げ時に「ソラニン」を選んだ理由として、ビジネス的な勝算はもとより自身の感動体験を重視したことを語った。「会社としても映画『ピンポン』のヒット経験もあり、若者を描いたマンガならいけるだろうと。でも、私自身このマンガを読んだ時に号泣したので、この感動をいろんな人に伝えなければと思った気持ちが最初にありました」
そんな作品の世界観を実現させる主人公・芽衣子の役に合う女優として、大半のスタッフが挙げたが、宮崎あおいだった。今村プロデューサー曰く「普通の女の子像を演じるには確かな演技力が必要。最後の演奏シーンを吹き替えにしたくなかったので、役に入り込む女優と言われる彼女になりきってみてほしかった」。しかし、実現までにはスケジュール調整など、多方面での調整が必要だったという。
メイキングを上映しながらの撮影現場解説では、空気感を出すために35ミリフィルムで撮影したこと、演技をきちんと収めるために普段一緒に仕事しているPVクルーではなく、あえて映画クルーと撮影を行ったことなど、三木監督の同作品に対するこだわりが随所で紹介された。特に演技や表現面では、役者とコミュニケーションを取りながら演技を決めていく貴重な瞬間が紹介され、「原作のキャラクターをなぞるだけではなく、場面ごとに人の感情がどう動くかを考えました。役柄に役者さん個々の個性と混ぜて演じてもらった方が、よりリアルな表現になります」と語った。恐らく、このスタンスが観客の感動を導く力に繋がるのだろう。また本作のリアルな表現という面では、ほぼ一発撮りというライブ直前の練習シーンなど、すべて出演者自身による演奏であることも重要だ。
「ずっとPVを撮ってきたからか、演奏の要になるリズム隊の演奏も含めて嘘をつきたくなかったんです。吹き替えを使わないことは、原作の浅野いにおさんからの数少ない要望でもありました。なので、最後のライブシーンにはすごく力が入りましたね。一日中かかって20テイクは撮影しているんです」
さらに、三木監督は、宮崎の演技のピークがライブシーンに重なるよう撮影日とクランクアップのスケジュールを調整。この役者の心理状態にまで配慮する三木監督の細やかさには、会場の学生たちも驚いていたようだ。引き続き、講義は苦労話やPVと映画業界の違いへと移り、双方の経験を持つ監督ならではの回答となった。
「PVはいわばアーティストや楽曲の宣伝ツールなので、一瞬で目を惹きつける広告効果を重視します。ですから発想も、もっときらびやかに、もっとかっこよく、とプラスの方向になる。しかし、映画は2時間かけてストーリーを見せていく作業なので、いかに引き算して演出するかという発想になるんです。それで言うと、PV業界は楽曲・アーティストありきですが、映画業界は物語ありきでスタッフと俳優が同列に扱われることが新鮮でした」
講義の最後は、三木監督と今村プロデューサーがこの作品においてどのような役割を果たしてきたのかを語った。「企画立ち上げから上映の後まですべてに関わるのがプロデューサーです。作品がお客さまに渡るまでの道をつくり、道を一緒に作ってくれる人を集める仕事でもあるので、始めから最終形を考えて企画を立てることが重要だと思っています」(今村プロデューサー)、「監督として、僕自身はオリジナルの物を作るよりも人のよい部分を活かす方が向いていると思っています。ですから今回は、キャストや原作のいい部分をまとめることに力を集約しました」(三木監督)
また、ヒット作となった今の状況をどう捉えているかとの問いに、それぞれ「原作の人気や出演者の豪華さからヒットの予測はそれなりにありましたが、想像以上の反響でした」(三木監督)、「公開まで4年かかりましたが、浅野いにおさんの人気が上昇したり、宮崎あおいさんを主演に迎えられたりと、いい流れで初日を迎えられました。時間をかけた作品を多くの方に見ていただけて嬉しい」(今村プロデューサー)と語った。
そのほか、聴講生からの質疑応答では、「今回の制作で一番苦労したことは?」という質問に対し三木監督は、「現場を楽しく進めることでしょうか。僕自身がピリピリした感じが好きではないし、ひとりでもテンションが下がるとそこから崩れてしまうので。みんなに作品に対するモチベーションを高く持ってもらうことがつねに一番大切だと思っています」と回答。監督自身の人柄を感じさせるもので、非常に印象的だった。
俳優の個性を活かし気配りをもって制作する監督と、作品を事業として動かすべく全力を尽くすプロデューサーの仕事。ふたりの言葉には、普段は目にすることのない、しかし重要な要素が凝縮されていた。
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