東京大学・本郷キャンパスにて大学衛星「UNITEC-1」が完成した。4月21日には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・種子島宇宙センターに到着。金星探査機「あかつき」の相乗り衛星として打ち上げられ、ともに金星に向かう。

東京大学のクリーンルーム内で公開された「UNITEC-1」

「UNITEC-1」は、大学衛星としては世界で初めて、深宇宙(=月以遠)に向かうものだ。JAXAが2008年4月に相乗り衛星を公募したとき、大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)がこれを提案、UNISECに加盟している大学・高専が協力して、同年7月の採択から約1年9カ月をかけて完成させた。

UNITEC-1のユニークな点は、衛星の内部で、各大学による"コンペ"が行われることだ。深宇宙の環境は、強い放射線など、衛星にとっては非常に厳しい。この厳しい環境を逆に活かして、生き残りコンペにしてしまったもので、6大学のオンボードコンピュータを搭載し、誰が最後まで正常に動作し続けるかを競う。

選抜試験を勝ち残って、搭載が決まったのは東京理科大学、北海道工業大学、高知工科大学、東北大学、電気通信大学、慶應義塾大学の6大学。2009年8月に行われた予選会の詳細は、UNITEC-1のWebサイトに掲載されている。またこれ以外にも、衛星本体の開発には、多数の大学・高専が関わっている。

UNITEC-1の大きさは35cm立方。重さは約20kg。推進系や姿勢制御系は持たず、ロケットから分離された後は、金星に向かう軌道を漂うことになる。

UNITEC-1のフライトモデル。保護用のカバーは取り外される

反対側のアングルから。こちらの2面も太陽電池で覆われる

透明のカバーには、協力企業のステッカーが貼られていた

上面にも太陽電池がびっしり。高性能なガリウムヒ素(GaAs:効率28%)製だ

この小さなチップが送信用のアンテナになる。反対側にもある

底面。四隅にはロッド型の受信用アンテナが取り付けられるそうだ

底面のテープの部分にスターセンサーが入っている

机の上にはUNITEC-1のペーパークラフトも置いてあった

UNITEC-1を主導してきた東大の中須賀真一教授(UNISEC理事長)は、「これまでの1大学で作っていたフェーズから、複数大学でより高度な衛星を作るフェーズに移った第1号機」と、UNITEC-1の意義を述べる。「1大学ではやれることが限られる。それぞれの大学の強みを活かした衛星を作りたいというのが私の希望。それを今回は実験した」という。

今後、シリーズ化して欲しいという要望も大きいそうで、「UNITECはコンペのシリーズ機として考えている。今回のようなボードコンピュータ以外にも、例えばロボットによるバトルなんかも面白いかも」(中須賀教授)と、すでにアイデアは膨らんでいるようだ。

UNITEC-1は2010年5月18日、H-IIAロケット17号機にて打ち上げられる予定。金星探査機「あかつき」のほか、相乗り衛星として、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」(JAXA)、「WASEDA-SAT2」(早稲田大学)、「大気水蒸気観測衛星(KSAT)」(鹿児島大学)、「Negai☆″」(創価大学)も搭載されることになっている。