ウェブメディアと紙メディアは何が違うのか──。出版社が培ってきた雑誌編集のノウハウは、ブログでも通用するのだろうか。ライブドアは13日、出版関係者を対象に『雑誌サバイバル時代の次世代ターゲットメディア戦略』と題するトークイベントを開催した。

写真左より、藤井敬也 小学館 女性誌局メディア戦略室副室長、小林弘人 インフォバーン代表取締役CEO、田端信太郎 ライブドア ブログメディア事業開発室長

本イベントでは、ウェブメディアのビジネスモデルやコンテンツ制作について、紙メディアとの違いなどを含めて意見が交わされた。参加者は、雑誌「ワイアード」やブログ「ギズモード・ジャパン」などを立ち上げた、インフォバーンの小林弘人氏、小学館で雑誌「CanCam」「AneCan」のウェブ戦略をプロデュースする藤井敬也氏、ライブドアのメディア事業を担当し、「アゴラ」「BLOGOS」など情報特化型ブログを立ち上げた田端信太郎氏。

メディアの資産、コミュニティを活かす

出版社を取り巻く状況は厳しい。小林氏は、雑誌に限らず、生き残りをかけるメディアはその資産を活かす必要があると指摘する。「大切なのは(雑誌という)形状ではなく、そこに集まってくる(読者の)コミュニティ。コンテンツはコピーできるが、コミュニティはコピーできない」。とくにウェブメディアの場合、機能としてメディア内部にコミュニティを構築できるため、読者間の情報共有や参画を促しやすくなる。

コミュニティを活性化する仕掛けも大事だ。小学館の藤井氏は、ブログなどのウェブメディアを「雑誌と読者の間をつなぐ、雑誌ブランドコミュニティの中核を担っていく存在」と位置づける。たとえば、雑誌AneCanの公式サイト内で提供する妊娠や育児中の読者に向けたブログコンテンツ「mamacan.tv」では、影響力のある読者が"mamacanブロガー"として参加することでコミュニティ価値を高めることに成功した。雑誌CanCamの公式サイト「CanCam.TV」では、Twitterやブログを使い、雑誌とは異なるファッションやライフスタイル情報を提供し、読者をひきつけているという。

そうしたコミュニティ作りの先にマネタイズがある。「メディアビジネス専業者は、コミュニティを換金化」(小林氏)していく方策を考えなくてはならない。マネタイズの手法は、コンテンツの有料化、広告、アフィリエイト、リアルイベント、通販など商材によって多岐にわたる。小林氏はその手法については「フリースタイル」の世界とし、自ら編み出していく必要性を訴えた。

ウェブメディアは何がちがうのか?

紙媒体の編集者にとって、雑誌に代わるターゲットメディアとしてブログなどのウェブメディアを運営するには、どのようなことに注意すればよいのだろうか。

小林氏は「紙は完成系メディア、ウェブは常にベータ版カルチャー」という認識を持つべきだと話す。多くのブログメディアを手がけてきた田端氏も同様に、「紙のメディアは編集者が100%コントロールし、完パケとしてアウトプットするのが前提。かたやCGMサービスはコントロールを放棄している。100%コントロールすると、おそらくメディア価値は低くなるのではないか」。

両氏が示す考え方は、とくに雑誌系編集者には切り替えが難しいかもしれない。しかし、ブログの運営ということで考えると、採算度外視のブロガーもひしめく中、紙メディアと同じような手法で情報を提供し続けていたのでは太刀打ちできない。"良い物を作れば……"は通用しない。例として、田端氏は自身のブログ運営について次のような考えを示す。

注目の言論ブログエントリを取り上げている「BLOGOS」では、登録ブロガーの選別を厳しくする一方、執筆テーマについては指示しない。編集部がすべてをコントロールするわけではないという点に「メディア価値を高める何かがある」(田端氏)。次のようにも話す。「(ブログのような)ターゲットメディアはフロー(情報の回転率)が大事。かなりニッチな話題にテーマを絞り、高頻度で更新していくことが成功の方程式だと思う。正確性を犠牲にしてでもスピードをとっていくやり方で、その分野でのメディア価値が圧倒的に高まる」。ブログではないが、「livedoorニュース」の実践例だと、トライアンドエラーを短期間で繰り返せるウェブメディアのメリットを活用したという。ニュース見出しのみの変更や5分程度でのニュース差し替えといった運用を続けることで、短期間でPVが2倍になった。

また小林氏は、ウェブメディアは目線が受け手(読者)に近い点が特徴とし、従来のマスコミ的な上段に構えた情報提供では通用しないと語る。藤井氏はファッション誌の女性読者を例にとり、読者にとってブログは特別なものではなく、身近な人との情報交換のような日常会話の延長線上として捉えられているという説明があった。当然、そうしたメディア上の情報は、文章の書き方をとっても、より親しみやすい形で提供することが求められるだろう。

ウェブメディア系編集者に求められるもの

ウェブメディアに取り組む編集者に対して小林氏は、「ウェブをどこかでバカにしていたり、紙より低く見ている人がウェブに入ってきたときは痛い目に遭う」と警告する。編集者が本や雑誌を手にとる読者の姿を想像するのと同じように、ネットユーザーの動きや検索動向などに注意を払う必要がある。ほかにも、「雑誌で必要な情報と、ウェブに置き換えたときに必要な情報は別物だと考えている。デジタル系の編集者に大事な資質は、そこの選別をいかにやっていくか。その能力が問われる」(藤井氏)、「モニタの向こうにいる顔の見えない人たちの創造性や善意をどれだけ心底信じられるか」(田端氏)といった意見が述べられた。

ライブドアでは、ブログASPサービス「Blogger Aliance」を提供している。ブログメディアを立ち上げる際は「システムインフラのコストをかけずに、損益分岐点を低く抑えてやっていくことが大事」(田端氏)