ワコムのクリエイター向けイベント「Wacom Live 2010」で行われたセッション『広告写真の最新手法から学ぶフォトレタッチの基本テクニック』では、広告写真のレタッチ業務を専門とするフォートンのトップレタッチャー toppy氏が登壇した。

フォトレタッチの様々な基本テクニックが紹介された

セッションでは、toppy氏がワコムのペンタブレット「Intuos4」を活用してフォトレタッチするテクニックを披露。モデルの顔のレタッチ前後を来場者に公開し、フォトレタッチのプロセスとポイントを指南した。

基本はスタンプツールとトーンカーブで

toppy氏はまず、ひとりの女性外国人モデルの顔のレタッチ前のオリジナル画像とレタッチ後の完成作品を公開。来場者たちからは、「レタッチでここまで変わるのか」という驚きの反応が沸き起こった。目のクマ、充血、肌のシワ、アバタ、ホクロ、ムラ、産毛などをレタッチ処理した後の変化が良くわかった。

「基本的なレタッチは大きく分けて2段階あります。まず、スタンプツールを用いてシワやシミ、ぶつぶつとした肌の消したい部分を弱めていきます。スタンプツールは取り除きたい部分が比較的はっきりした場合に使います。取った後は、肌の影やムラといった部分をトーンカーブを用いて全体と調和するようになじませていきます。この2段階で基本的なレタッチは終わりです」(toppy氏)

さっそくtoppy氏は、肌のアバタやホクロといった消したい部分を、その周辺の色を採取してきて、スタンプツールとブラシでその濃さを弱めていく。

「のちのちトーンカーブの処理で挽回できるので、『薄過ぎず、厚過ぎず』という調子で消したい部分の色を弱めていきましょう。ポイントは消すのではなく、弱めるということ。人間のシワなどは表情の中に含まれているものなので、やり過ぎる(消し過ぎる)と肌の立体感を失って、平面的な絵のようになってしまいます」(toppy氏)

トーンカーブで目の充血や肌のムラを弱める

サンプルとして掲出された外国人女性モデルの口元には、肌の起伏によってライティングの影ができムラができていた。「肌のでこぼこをならしていく、少なくするというイメージで、トーンカーブを用いて滑らかな肌をつくっていきます」とtoppy氏。目の充血や目元のクマについても同様に作業するとのこと。

目の充血を取る場合は、トーンカーブで赤を薄くしていく作業を重ねていく。この作業は、toppy氏が所属するフォートンの入社試験でも出てくる、フォトレタッチの基本ワークとのこと。「ブラシツールでなく、トーンカーブを用いて取っていくという部分が大切です。意外とトーンカーブを使わない人が多い」ともtoppy氏は語った。

また、トーンカーブからスタンプツールへの切り替えもある。瞳の固まった充血はトーンカーブで取れるが、瞳のなかに線のように走る充血の場合は、スタンプツールを使用する。スタンプツールで赤い充血線を、眼球の白に近い色で弱めていく。

「目の処理で一番大事にして欲しいのは、その立体感です。奥行き感がなくなってしまうと、絵になってしまいますから」(toppy氏)

まつ毛を書くときに「Intuos4」が活躍

toppy氏はさらに、「消す・弱める」という処理のほかに、「加える」作業のヒントも教えてくれた。まつ毛を書くことや唇にラメを入れるといった作業だ。

「私たちはモデルのまつ毛まで描いています。少し伸ばしたり、生えていない部分にまつ毛を1本加えたりしています。これまでは1回でまつ毛をなかなか描けなかったのですが、Intuos4で描くと一発で出来るようになりました。Intuos4の進化を実感するシーンですね」(toppy氏)

「ブラシツールを用いて自然な筆圧で描けます。ある意味、誰もが自由な筆圧でまつ毛を描けるので、我々の技術が必要なくなってしまうと思う程です。Intuos4を使えば、これまで30分かかった作業が、10分ほどで出来てしまいます」(toppy氏)

さらにtoppy氏は、産毛の処理についてもアドバイスしていた。これまで1本1本の産毛を消していた作業を、フィルターを使って「ぼかしていく」というイメージで消していくことができるようになったという。

「ただ、肌のキメなどを残しながらレタッチするということを忘れないでください。肌の質感を残しつつ、作品としての良さを創り出していくという感じです」(toppy氏)

肌の立体感や質感を大事に

toppy氏は「あくまでその人の持つ立体感」にこだわる。

「例えば、目の下のくすんでいる部分は、トーンカーブで消すのもいいが、消すというよりも立体感を残しながら色身を取っていくという感じの処理が望ましいです。これまでの雑誌や広告を見ていると、綺麗になっているのはわかるのですが、嘘っぽいと言うか、実感がないという印象もあります。涙袋の立体感などが、感じられず不自然な修正もあります。ぜひレタッチの際は、立体感を残して欲しいと思います」(toppy氏)

ポイントさえ押さえれば、トーンカーブとスタンプツールだけでオリジナルの画像を広告表現レベルまでに持っていくことができることを、toppy氏は示してくれた。そのプロセスには、デジタル処理には欠かせない道具であるペンタブレット Intuos4が貢献していることは言うまでもない。