間もなくのリリースが予定されている.NET向け統合開発環境「Microsoft Visual Studio 2010」。これまで、一部機能に焦点を当てた限定的な紹介しかできなかった同開発環境だが、正式リリースが近づき、いよいよ全体像が明らかにされはじめている。
本誌は、マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャの近藤和彦氏に、同製品のコンセプトや概要を聞く機会を得たので、以下ではその内容を基にVisual Studio 2010の全体像を紹介していく。
3つのキーコンセプト
マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャ 近藤和彦氏 |
まずは、Visual Studio 2010の開発思想から紹介していこう。
Visual Studio 2010では、次の3つのメッセージが強く打ち出されている。
- 創造力の最大化
- 統合による最適化
- 確かな品質
1については、設計やデザインツールをより充実させ、開発者や設計者のビジョンやアイデアを"形"にしやすい環境を作ろうというもの。2については、最新のハードウェアやプラットフォームへの対応を統合開発環境側で行うことで、開発者の技術習得の負担を減らしていくという試み。3については、テスト機能の拡充や、全工程を通じた品質対策機能を搭載することでシステム構築作業全体の効率化を実現していこうという主張になる。
Visual Studio 2010では、これら3つのコンセプトに従うかたちでさまざまな機能強化が行われている。以下、順に見ていこう。
UML対応を強化、動く"モックアップ"も瞬時に生成
創造力の最大化に向けた強化ポイントとしては、まず、設計機能の拡充が挙げられる。具体的には、従来から対応していたクラス図に加えて、シーケンス図、ユースケース図、アクティビティ図、コンポーネント図の4つのUML図に対応。設計工程をより進めやすくなっている。
また、作成したUML図は、要件やテスト、ドキュメントなどと関連づけることができる。これにより、仕様変更やアプリケーションの改修が必要になった際に、何をメンテナンスして、どんなテストを行えばよいのかが判別しやすくなる。
SketchFlowでプロトタイプが手軽に作れる
さらに、Visual Studioに関連する設計の話題として注目されるのは、Web/WindowsアプリケーションのUI向け開発環境「Microsoft Expression Studio」に付属したツール「SketchFlow」である。
同ツールを使うと、モックアップのUIイメージ(XAMLファイル)を作成するだけで、実際のアプリケーションに近い振る舞いを行うプロトタイプアプリケーションを生成できる。同プロトタイプはSilverlight上で動作し、簡単なレスポンスが返されるほか、Webブラウザ上からコメントを付けられる機能も搭載されており、改善等を要望したい場合にはその内容を直接画面上に書き込むことができる。さらに、コメント入りのUI画面からWord形式の開発ドキュメントを自動生成することも可能だ。
もちろん、SketchFlowで作成した画面に対しては、Visual Studio 2010でロジックを追加できるので、「デモのためだけにアプリを作る」というような非効率な思いをすることもなくなる。
Web、モバイル、Windows、Officeアプリの開発機能を強化
「統合による最適化」という点で、中心となるのは各種UI技術への対応強化である。
マイクロソフトでは、「開発者の経験/スキルに依存したシステム開発から脱却し、現場のニーズに適したUIテクノロジーによるシステム構築を実現する」というコンセプトの下に開発環境の拡充を進めてきた。そのため、多様なUI技術を用意しており、例えば、Windowsアプリケーション向けにWindows Forms/WPF(Windows Presentation Foundation)があり、モバイル向けにWindows Mobile、Webアプリケーション向けにASP.NETやSilverlightなどを提供している。
そして、これらをまとめるのがVisual Studioである。同開発環境は上記のすべての技術に対応しており、開発者は同じ操作感でさまざまな種類のアプリケーションを構築することができる。さらには、Officeアプリケーションをフロントエンドとして使いたいというユーザーに向けて「Visual Studio Tools for Office」といったツールも提供しており、対応の幅を広げている。
今回のVisaul Studio 2010では、これらの多様なUI向け技術それぞれに対して、開発をサポートする機能が強化されている。
具体的には、Windowsアプリケーション向けでは、Windows 7の新機能に対応したほか、WPFで業務向けのコントロールを多数追加。さらには、マルチコア環境でのパフォーマンスを向上させるための機能も追加されている。
また、Webアプリケーション向けでは、Ajax対応強化の一環として、jQueryをサポートし、同フレームワークに対してもインテリセンス(メソッドなどの名称の一部を入力すると候補が表示される機能)が働くようになった。加えて、ASP.NETでMVC(Model View Controller)モデルのアプリケーションが開発しやすくなったうえ、Windows Azure向けの開発支援機能が組み込まれる、などといった強化も行われている。
一方、Officeアプリケーション向けでは、Office 2010に対応したほか、SharePoint向けの開発も行えるようになった。モバイルアプリケーション向けでは、Windows Phone向けの対応が強化されている。