iPhoneでいつでも聴けるコミュニティFM

最近になって、「サイマルラジオ」放送という言葉をよく耳にするようになってきた。

サイマルラジオとは、コミュニティFM放送局の自主制作番組をインターネットでストリーミング配信するプラットフォームの名称。インターネット配信用のオリジナル番組を放送する「インターネットラジオ」とは異なる。ちなみにサイマルは「Simultaneous=同時」の略で、サイマルラジオは「同時にラジオ放送する」といった意味だ。

コミュニティFMは日本全国に200局以上ある。2008年6月に発足した「コミュニティ・サイマルラジオ・アライアンス(以下CSRA)」に加盟する36放送局は、サイマルラジオを通じて地上波放送のネット同時配信を行なっている。利用者はWindows Media Playerを使って無料で聴くことができる。

CSRAとフライトシステムコンサルティングは、このサイマルラジオをiPhone/ iPod touchで聴けるアプリケーション『コミュニティFM for iPhone (i-コミュラジ)』が、App Storeにおいて3月24日より発売開始された。価格は350円。

まずは9放送局がスタート。今夏を目途に全CSRA加盟放送局が参加予定。1stバージョンでは、各放送局ページで「各局のコメント」「Now On Air情報」「楽曲情報」「地域お天気情報」が表示される。また、地域情報のページに切り替えると、各放送局が提供する地域情報を見ることができる

同アプリ発表会の席で、CSRA代表 木村太郎氏は「デジタル放送化などの時流の流れを捉えながら、コミュニティ放送についても、今後はもっと劇的な質的変化が必要だと思っている。さまざまなアプローチ方法や三次元的な展開を模索してきているが、そんな中で、現在(国内の利用者数が)200万台を超えたというiPhoneを利用しない手はないのではないか」と、今回の取り組みへの背景を述べた。

ジャーナリスト、キャスターで知られる木村氏は、1993年開局の「湘南ビーチFM」の代表取締役社長でもあり、実は1996年からサイマル放送の実証実験を始めている。ネット配信における著作権管理団体との交渉や、独自の勉強会など長年に渡る地道な活動の結果、JASRAC(日本音楽著作権協会)や日本レコード協会との著作権問題をクリアさせ、正式なサイマルラジオ放送を提供するCSRAの設立に至っている。

「i-コミュラジ」を新しいプラットフォームへ

木村太郎氏

今回のiPhoneアプリに関しては、「単にiPhoneでラジオが聴けるというものでなくて、"ラジオをベースにした地域情報の配信"が特徴で、今後は様々な要素を取り入れていく。まだ第一歩というところだが、今後はデジタルサイネージ的なものにまで発展していく期待を持っている」(木村氏)。

今回のアプリ販売の売上は、インフラを担当するフライトシステムコンサルティングの開発費や、日本気象協会提供の「tenki.jp」の情報料として使用し、コミュニティFM側は受け取らないとのことだ。「そこから収入を得てしまうと、新たなビジネスとして判断され、著作権料が追加で発生してしまう。"ラジオを買ってもらった"という認識で、放送局側はお金を頂かない方式にした。だが、今後(物販などいろいろな要素を盛り込んでいく中で)、例えば、喫茶店で音楽をかけると著作権料が発生するのと同じような状況になるかもしれない。その辺をクリアしていかないと、なかなか一歩先へ踏み出せない」と木村氏。

また、3月15日には、関東・関西地区でTOKYO FMやTBSラジオ等の民放ラジオ13局によるIPサイマルラジオ「radiko.jp」が開始されている。これについて記者から意見を求められた木村氏は、「我々は決してマイナーなことをやっているのではなくて、"ラジオをネットで聴くことは当たり前“ということが広がってくれるとありがたい。そうなると(電波の)出力差ではなく、コンテンツの勝負となってくる」と答えた。

「『radiko.jp』は聴取エリアを限定しているが、『i-コミュラジ』では制限を設けていない。なぜか?」の質問には、「逆になぜ制限を掛けているのか? と聞きたい」(木村氏)。ネット時代のコミュニティラジオ開拓にいち早く取り組んできた木村氏ならではの見解を見せた。

説明会後に木村氏に伺うと、「サイマルラジオは、海外の日本人の方に聞いていただくこともできる。バンクーバーオリンピックの時もリスナーの方からいろいろ情報をいただいたり、メッセージが入ってきていたようです」。もちろんi-コミュラジでも海外からの聴取が可能だ。

そして、「ラジオのストリーミングは'96年から始めていますが、著作権などの問題で時間が掛かり、ようやく本格的に活動しだしたところです。まだまだクリアしなければならない問題は多い。時代にあった情報提供やその先のサービスを含め、iPhoneだけではなく、Androidプラットフォームや他のツールも視野に入れて、ありとあらゆる出口を模索しているところです」とも語っていた。

木村氏にiPhoneに触れる手つきがとても慣れている様子だったので、気になって、その使用歴を訊ねたところ、「日本での最初のiPhone発売時からずっとです。携帯電話というよりも、アプリをたくさん入れて使っています。アドレス管理やスケジュール管理などもこれでやっています。実は私、携帯電話は"らくらくホン"を使っているんですよ」と"ケータイ2持ち"姿を披露してくれた

『i-コミュラジ』の可能性へ向けて

リリース時点では、i-コミュラジで聴取できる放送局数は9局に限られているものの、今後の追加も予定されている。さまざまな土地の放送局が増えれば、より手軽にどこからでも地元情報に触れられるし、旅先の情報をコミュニティFMから入手するということも簡単になるだろう。機能面でも強化を図っていくとし、バックグラウンド再生への対応を予定しているとのことだ。楽曲の購入から、物販やアフィリエイトといったビジネスモデルの展開に対する期待も大きい。

マイナーではあるが必要とされている「地域情報」。そこにインターネットやiPhone等のデジタルツールが連携することで、リスナーにとっても放送局にとっても、新しいメリットが生まれるサービスが発展していくことが期待できる。さらに、TwitterやSNS等を使った別の展開も考えられるだろう。発表会で語られた「日本の距離感をゼロにする」という言葉に、その可能性が象徴されていたように感じられた。

今後の展開としては、iTunesからの楽曲購入、収録風景などの動画配信、GPS利用による最寄局の自動選択機能、地元名産品の販売とアフィリエイト、リスナー属性に合わせた行動ターゲティング広告、地域の災害情報発信などを視野に入れている。ビジネスモデルとしては、楽曲や商品購入のアフィリエイトなどを新たな収入源として見込んでいる