「いつか自分の店を持ちたい」。そんな風に考えている会社員、少なくないはずだ。"店"とは本屋やバー、雑貨店と様々だろう。3月27日に毎日コミュニケーションズが発売した『わたしのカフェのはじめかた。人気店に学ぶカフェオープンBOOK』は、その名の通り、カフェ開業本。同書には10店以上の事例が掲載されており、脱サラ組も多い。

『わたしのカフェのはじめかた。人気店に学ぶカフェオープンBOOK』(定価1,680円) B5変形判 144ページ

ブーム期に閉店が相次いだ理由とは

雨後の竹の子のように、次から次へとカフェがオープンしていった2000年頃。ちょうど私もその時期、カフェの取材がメインだったので、取材先には困らない状況だった。しかし、半年もしないうちに閉店に追い込まれる店も多かった。取材をしていても、読者の皆さんには信じられないかもしれないが、特に明確なビジョンも無く、「ブームだし、おしゃれだし、素人でもできそうだし、なんとなくやってみたかった」というオーナーも少なくなかった。そういう店は長続きしなくて当然だろうし、また、経営不振の理由として、カフェという業態だからこそ抱える問題も挙げられるだろう。

ドリンク1杯で済ませるお客が多い。フードを頼んだとしても客単価は1,000円前後。しかしながら、友達とおしゃべりしたり、1人で読書を楽しんだりと、滞在時間が長いお客が目立つ。つまりは、何の対策もなくオープンしてしまうと、「低客単価で回転率が低い」という非効率な店になってしまう。

また、「カフェめし」なんて言葉も当時流行になったが、素人料理的なものも実際は多かった。いくら内装に力を入れても、カフェは飲食店だ。ドリンクやフードがおいしくてこそ、固定客が付き、店を支えてくれるのだ。

その後は、フードメニューに注力し、アルコールもガンガン売っていき、ダイニング的な要素を持つ店、物販やレンタルスペースで副収入を得る店も出てきて、一流レストランで修行を積んだ人が開業するケースも多くなってきた。一口に「カフェ」といってもそれぞれ、本当に様々な個性を持っている。

十分な自己資金、入念な調査

ブームが落ち着き、成熟期も経て、今のカフェはどうなっているのだろうか。そんな気持ちで『わたしのカフェのはじめかた。人気店に学ぶカフェオープンBOOK』を見ていると、飲食店を渡り歩いて独立した人もサンプルケースになっているが、脱サラ組も修行期間を長くとっていることに驚く。

東京・中目黒の「カフェ ファソン」オーナー岡内謙治さんも脱サラ組の1人だが、約6年の間原宿のカフェで店長を務め、その後は自家焙煎の名店「堀口珈琲」で焙煎技術を習得し、開業へと至っている。開業資金は10年かけて貯めており、18坪・37席とスペースも確保、内装や家具類にもこだわり、しっかりとした仕上がりとなっている。

「カフェ ファソン」店内。内装は、内装も手がけている家具職人にお願いし、フランスのカフェを意識した

物件探しには100軒以上の不動産屋を廻ったといい、やはり開業には十分な自己資金、物件選びに関する入念な調査が必要だとわかる。それでこそ、思い描いていた自分の"店"が開けるというものだ。

「カフェ ファソン」オーナー岡内謙治さん

「ケーキセット」(900円)。コーヒーには、店内で焙煎した豆を使う

同書の特徴として、各店の開業および店舗データが詳細に掲載されている点が挙げられる。開業資金、その調達方法、客単価や1日の平均来客数を公開。こういった数字は開業志願者にとって非常に参考になることだろう。また、各店から贈られる「開業アドバイス」も実用的な内容が多い。定休日の設定方法、地域住民との接し方など、既にカフェのオーナーとなっている"先輩"からの助言である。ぜひ目を通してほしい。

さらには、東京・銀座で60年以上も続いている珈琲店「カフェ・ド・ランブル」や前述の「堀口珈琲」(開業は1990年)のオーナーインタビューも収録。"名店・老舗"と呼ばれるまでに至った経緯を読んでいくうちに、開業のヒントも得られることだろう。

飲食店取材をしていて感じるのが、「人気のある店には理由がある」ということ。「特別なことは何もやっていません」と言っていても、仕入れなどお客からは見えない面で工夫を凝らしていることが多い。「取材を通して、開業費用を賢く抑えるアイデアや、チェーン店のカフェに負けない工夫など今の時代のカフェオープンに必須の知恵を拾い上げました」と担当編集がコメントしている通り、同書には、成功している店の生きた情報が詰まっている。カフェ開業希望者にとってはもちろん参考になることだろうし、「なんとなくカフェを開きたい」と思っている人の背中を押してくれる存在にもなってくれることだろう。