3月11日、Google主催による開発者向けの技術イベント「DevFest 2010 Japan」が開催された。本イベントへの参加希望者は事前に、過去のGoogleへの貢献(アプリケーション開発者、コミュニティへの参加など)やクイズによる選別が行われ、高得点順に参加権が与えられた。クイズに正解するには最低限のプログラミング知識(HTTPのPOSTメソッドでデータ送信、データ変換を行うWebサービスの公開など)が必要であり、好意的にみればGoogleらしい遊び心のある方法であるが、Googleが客を選んでいると解釈されることもあるだろう。

DevFest 2010 Japan

京都会場と中継

このイベントはメインの東京会場に加えて、京都にサテライト会場を設けてオンラインで双方向に中継が行われた。情報が東京に一極集中するなか、こうした地方地域に配慮した試みは高く評価したい。

Joseph Ternasky氏

基調講演の冒頭ではエンジニアリングディレクターのJoseph Ternasky氏が登壇。同氏の講演も含め、英語のセッションが複数用意されていたが同時通訳はない。これも Google らしい割り切りだが、英語が苦手な人にとっては敷居が高い。

冒頭、Googleが提供する各種サービスのデータを容易に移行できるData Liberationと、Google Appsに統合されたビジネスアプリケーションを配信するオンラインストア「Apps Marketplace」が紹介された。GoogleがSalesforceやMicrosoftと競合する法人向けのサービスを展開するのは興味深いが、イベントの趣旨上スーツ組の少ないこのイベントで法人向けアプリケーションマーケットであるApps Marketplaceが紹介されたのは首をかしげるところではある。

Data LiberationとGoogle Apps Marketplace

続いて登壇したのはシニアエンジニアリングマネージャの及川卓也氏。昨年から公開または更新された製品や技術を列挙し、大変なスピードで開発が進められていることを紹介。参加者とともにWebのイノベーションを加速させていきたいと語った。また「mixi」のOpen Socialのように国内パートナーと共にサービスを発展させていきたいとした。

及川卓也氏は、Googleのプロダクトやその取り組みを説明

近年はWebの要素を製品に組み込むだけではなく、Webそのものがアプリケーションプラットフォームになっている。一方で、ソフトウェアの機能がWebに移行するほど、安全な運用管理や拡張性の確保が求められてくる。特に、オープンなソーシャル系のサービスは負荷の事前予測が難しい。

プラットフォーム化するWebとジレンマ

Googleが提供するクラウドサービスである「Google App Engine」は、開発と保守が容易で、負荷に応じて拡張できる。一時的に負荷が増大するサービスや、期間限定のイベントなどにクラウドが有効なのは、すでに多くの事例で証明されている。具体的には、昨年にmixiで公開されたクリスマスアプリケーションにGoogle App Engineが使われていたことが紹介された。その他にも多くのサービスの実行基盤としてGoogle App Engineが使われおり、着実に実績をあげていることがアピールされた。

Google App Engineの利用例が増えている

ブラウザベースのアプリケーションは、便利な一方でOSネイティブのデスクトップアプリケーション、FlashやSilverlightに代表されるようなブラウザプラグインに比べてUIの表現力が貧弱である。しかし、Googleは独自の拡張ではなくオープンなWeb標準技術に強くこだわっている。Googleが積極的に推進するHTML 5世代の次世代Webでは、ブラウザだけでもリッチなUIを実現できるようになる。例として、以下のページがデモンストレーションで紹介された。

進化するWebの表現力を示すサイト例として、「Andrew Hoyer」(左)と「Depth of Field」が紹介された

そして、GoogleがWebアプリケーションのクライアント実行環境として提供するものがブラウザの「Google Chrome」、開発中の「Chrome OS」、そして「Android」である。これらはMicrosoftやAppleに競合するクライアント製品であるが、この分野に進出したのも全てはWebプラットフォームへの接続手段の提供を目的としたものだ。どの環境からでも同じWebアプリケーションを使うことができ、Googleアカウントを入力するだけで全てのデータが同期される。

オープンWebプラットフォーム

DevFestの位置づけ

基調講演の最後を締めくくったのはデベロッパーアドボケイトの石原直樹氏。

石原直樹氏

石原氏は、DevFestの位置付けと他のGoogleイベントとの関係を紹介した。DevFestは、Googleが開催する最も大規模なイベントの「Google I/O」と小規模ながら各地で頻繁に開催されるコミュニティイベントの中間に位置するもので、一方的な技術情報の提供だけではなく、コミュニティやユーザーと一緒に作り、情報をシェアしていきたいと語った。

DevFestの位置付け

こうしたGoogleの取り組みは、ユーザー、コミュニティ、そしてパートナー企業との横の連携を強めて、Googleの製品や技術を応用したアプリケーションの充実を図るエコシステムの確立を目的としている。だが課題も多く、Googleよりも歴史のあるMicrosoftやApple、Adobe Systemsのほうがエコシステムの構築では一歩先を行く。

人々が進んで自らのリソースを提供するには、それなりの対価が期待できなければならない。善意だけでエコシステムが回ることはないのだ。プロプライエタリ(なプラットフォーム)陣営はお金を出す顧客の存在が明確であり、法人の顧客も多いことからパートナー企業や開発者を巻き込みやすい。一方のオープン(なWebプラットフォーム)陣営は基本サービスは無料であることが文化として染みついているため、どのようにしてパートナーの利益を確保していくかが課題となるだろう。Googleの場合、Chrome OSやAndroid、Google Appsが突破口となるかもしれない。

立て続けに新しい製品を公開しているGoogleだが、注目の割に他の主要な競合製品に比べてシェアが低いものが少なくない。今後は製品を成熟させ、安いだけではなく品質面でも信頼されることがGoogleプラットフォームの定着に必要だ。そのためにも、パートナーを巻き込んだエコシステムの構築が急務となるだろう。