【レポート】

"Webらしい"新聞サイトのありかたを見つめ直す

1 新聞の価値とは?

    長谷川恭久  [2010/03/05]

    2月24日に「ネット時代のメディアとジャーナリズム」というオープンフォーラムが開催されました。フォーラムの模様は Twitter の #mf224 で追うことができます。終了後も頻繁に意見が交換され、メディアとジャーナリズムについて語れるディスカッションチャンネルのような存在になっています。パネルディスカッションではフォーラムの題名にもなっているメディアとジャーナリズムだけでなく、ビジネスモデルの話まで広げて議論がされていました。同じ日に日経が有料のWeb刊サービスの開始を発表しており、新聞サイトと紙媒体の新聞がこれから共存していくかが注目された1日でしたが、交わされる会話を通して感じたこととして、Web と紙の考え方のギャップは依然として存在するということでした。

    新聞の価値がコンテンツの価値ではない

    紙媒体の新聞はお金で買っていますが、Web にアクセスすれば同等のコンテンツを無料で読むことができます。よって、Web はすべて無料にしてしまうライバルのような存在と捉える方がいるでしょう。また、Web は、情報の価値を下げているので、価値に相当する値段を Web で付けるのは難しいと考える方もいるでしょう。しかし、私たちは新聞を買う際に新聞のコンテンツのみに対してお金を支払っていたわけではありません。私たちは新聞にお金を払うとき、以下のコストに対して支払っています。

    • 情報料 …… 掲載されている記事
    • 編集料 …… コンパクトに分かりやすくまとめられている
    • 印刷料 …… 手軽に読むために媒体を最適化
    • 配送料 …… 自分の手元に届く

    Web以前の状況では、今のように情報を探し出して読むのは大変手間でしたし、全体的に見渡すことも難しいです。ましてや、ニッチな業界や趣味の世界、海外からの情報を手に入れる方法は限られていました。そもそも素人の私たちでは情報を探すということすら不可能に近かったかもしれません。しかし新聞ひとつ読めば、すべてが網羅されているとはいえないものの、情報を探す手間が省けますし、ある程度全体構造を把握することができます。また、定期購読すれば毎日手元へ郵送されるので、自ら探しに行く行為も必要としません。いろいろ知りたいという私たちの欲求に対して新聞は応えていただけでなく、様々な手間を省いてくれる存在といえるのではないでしょうか。つまり、私たちは新聞にお金を払う際、情報だけでなく時間と手間というコストにも支払っていたわけです。

    新聞には様々なコストがかかっているわけですが、Webを利用することにより、以前かかっていたコストを削減できたり限りなくゼロに近づけることが可能になります。情報料のように Web になってもコストが変わらないものがありますが、以下の項目は下げることができます。

    • 編集料 …… 文法や文体への編集は必要だが、新聞のように有限領域の中に情報を埋めるという概念がなくなるため、紙媒体特有のレイアウト編集は必要なく、必ずしもコンパクトにする必要がない。また、システムを利用することでアーカイブ化やカテゴライズなど情報の整理をある程度自動化できる。

    • 印刷料 …… 部数(ビューワー)がいくら増えても印刷のようにコストが比例して増えていくわけではない。ページや色数が増えても劇的なコスト高にはつながらない。Webサイトのホスティングのコストは年々低化しているので、コンテンツが増えても負荷が上がるわけではない。

    • 配送料 …… 利用者が自ら訪れるので配送という概念があまりない。また、従来の配送システムのように読者に直接情報を送りたい場合は、メルマガやRSSといった技術 (サービス) を利用することで可能になる。情報の配送方法は数多く存在し、それらのコストは低く読者が増えたところでコストが大幅に上がることはない。

    このように紙媒体でニュースを配信していた新聞社も Web を利用することでコストを削減しつつ、より多くの読者にリーチする機会を得ています。今の新聞サイトの収益モデルが情報料と編集料の価値に相当する金額になっているかどうかは分かりませんが、Webが情報の価値を下げているというよりかは、Webでは情報にのみコストがかかっていると言い換えることができます。私たちが何気なく購入している新聞には様々なコストが含まれており、こうしたコストを軽減させてコンテンツをより多くの方に届ける手段として Web は有効ですが、それでは具体的にどのようにすれば有効に Web を利用して情報を読者へ届けることができるのでしょうか。

    Webの一部として存在するWebサイト

    新聞サイトだけではありませんが、Web サイトに見られる傾向として紙媒体の手法をそのまま Web へ移行しているのをよく見かけます。ひとつ例として挙げられるのが、Web サイトで自社の領域と他社の領域を明確に切り分け過ぎている点です。新聞は物理的に他の媒体 (世界) から独立して存在していますが、Web は違います。どんなにアクセス数が少なくて規模が小さなサイトでも Web という巨大なネットワークの一部として存在しています。巨大なひとつのネットワークにいるからこそ、利用できる部分は利用したほうが良いわけです。分断するより他との関わりをもつことで Web サイトのコンテンツがより豊かになるだけでなく、結果的にアクセス向上にもつながります。

    しかし、自社の領域を明確にしたいばかりに記事に関わるリンクをあえて付けないことで自社とそれ以外を分断する場合があります。リンクがなぜか全角英数になっていてクリックができないようにしているのもあります。他に便利な情報ソースがあるのにわざわざ自社で開発しているのも、紙の新聞のときにはあった「自社の領域・媒体」を明確にするための努力の結果なのかもしれません。「新s(あらたにす)」のようなコンセプトのサイトも新聞社がわざわざ作るサイトなのかといえば、どうなのでしょうか。

    BBC NEWSは、他メディアに載った関連記事にもリンク

    ひとつの独立したメディアを形成しているのではなく、Web という巨大なネットワークの一部として存在していることを強く意識しているニュースサイトとして「BBC NEWS」を挙げることができます。BBC Newsでは 2005年より「Related Internet Links (関連したインターネットリンク)」と名付けて、他社サイトの記事のリンク集をすべての記事の右側に設けています。このリンク集をクリックする利用者は多いそうですが、それでも撤去することなく 5 年後の今も同じようにリストされています。

    当時、BBC News のWebサイト編集をつとめていた Pete Clifton 氏は以下のように述べています。

    "Linking out to other sites is fine by me. If it helps someone triangulate in the privacy of their own room, that's fine by me, and we should always be confident that people will want to return to us."

    読者が別サイトへのリンクがあることで利便性が向上するのであればそれで構わないと思います。外部リンクを避けることより、読者が我々の元に戻って来るようなコンテンツを提供していることに自信をもつべきでしょう。
    引用元記事はこちら

    別サイトへリンクするという行為は BBC News がひとつの囲いを作ることなく、Web 全体との関係を見渡して必要だと感じたから設置したとえます。実際、利用者は様々なニュースをみるために Web へアクセスしているだけであって、BBC News にある記事だけで済ませようとはしていないでしょう。検索したり、幾つものサイトを見て回るよりも、BBC News へアクセスすれば他も見られるので手間は省けます。自社コンテンツに絶対の自信があるのと同時に、読者の利便性を尊重しているからこそできることでしょう。

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