他行に先駆けて情報共有の推進に取り組み、ナレッジマネジメントシステムの導入や部門ポータルの構築を行ってきた三菱東京UFJ銀行。同行の法人企画部が部署の情報共有プロジェクトの第2フェーズのカギとして打ち出したのは「人の目」だ。システムで改善するのではなく、人が情報の中身を確認・判断し、届け方を決めることで情報の伝達力の向上を実現した。

KnowledgeMarketで情報を整理、全行員にオープンな情報環境を構築

三菱東京UFJ銀行がナレッジマネジメントを取り入れたのは、前身となる東京三菱銀行時代のことだ。バブル経済、不良債権処理、統廃合といった流れの中で守りの姿勢を強めるメガバンクが多いなか、攻めの姿勢を貫いた東京三菱銀行は中央集権的な意思決定や業務プロセスを自律分散型に転換するという業務改革を目指した。その根幹を担うものとして2003年にスタートしたのが「OPEN」と呼ばれるプロジェクトだ。

上意下達型ではなく、全行員が考え、ものを言える環境を構築するために、必要な情報もオープンに共有することを目指した同プロジェクトでは、情報の効果的な共有を実現するためにナレッジマネジメントシステムの導入が行われた。この時、リアルコムの「KnowledgeMarket」が採用された。

同行では従来からLotus Notesによって情報共有を行っていたものの、支店や部門の壁を越えた情報集約や適切な分類は行われておらず、探している情報にたどり着くのが難しい状態にあった。

こうした状況を整理する形で情報の絞り込みやマトリックス作成を実行し、情報を体系的かつ統合的に管理できる環境を構築した。さらに、利用状況のトラッキングや評価機能を利用することで、発信した情報がきちんと到達し、理解されていることを確認できるようにした。全行員1万5,000人を対象としたシステムの運用が開始されたのが、2003年10月のことだった。

情報の質を追求する第2フェーズに突入

その後、2006年1月にUFJ銀行と合併して三菱東京UFJ銀行が誕生してからも、KnowledgeMarketは利用され続けてきた。しかし、システムが稼働しているだけでは情報の活用は進まない。より効果的な情報活用を実現するため、同行の法人部門で第2フェーズの着手が決定されたのは2008年4月のことだった。

三菱東京UFJ銀行 法人企画部 法人基盤企画室 調査役 奥村嘉規氏

「ナレッジマネジメントシステムで情報共有の体制は整ったものの、金融環境の大きな変化によって現場行員に求められる情報量は増加する一方で、日増しに使いづらさが高まっている状態でした。そうした現場の情報取得ストレスを軽減しようと、法人部門が全行のパイロットとして取り組みを開始しました」と、法人企画部 法人基盤企画室 調査役の奥村嘉規氏は語る。

大量の情報を全行員が閲覧できる状況を実現して5年、次段階として目指したのは情報の質の向上だった。長年の利用で情報量が膨れ上がっていたうえ、法人部門だけでも日々60~80通の情報が新たに発信される。あふれる情報の中から、全員が知っておくべき「必須情報」と、業務の質を高めるための「付加価値情報」が区別でき、読み手にとっての重要性・緊急性が即座に判別できるようになれば、現場担当者の負担は大きく減る。

さらに、情報の内容も簡潔で必要十分に整えられていれば、発信側の意思は現場に正しく到達し、現場では短時間で必要な情報を確実に得られるようになる。これを実現する手法として三菱東京UFJ銀行が選択したのが、人の目による「目利き」だった。

人間の目で情報を選定するメリットとは?

「情報の読み手にとっての重要度の判定を機械的に行うのは難しいものです。そこで、発信者の一方的な思いを離れ、現場行員の視点に立って人の目で判断することが重要だと考えました」と奥村氏。情報を発信する部門ポータルの更新もシステムを活用した自動化に頼らず、HTMLファイルを手動で更新する方法を選択した。

「業務に役立つ情報かどうかは、読み手の利用シーンやタイミングによって異なります。日付やアクセス数に応じて機械的に表示するのではなく、HTMLファイルを手書きすることで情報の露出方法やタイミング、頻度を即座かつ自由に調整できることがメリットです」

本部から発信する情報に、形式や記載すべき内容に関する新たなルールを設けた。現場への「指示文書」は情報を発信する前に、付加価値情報は発信の後に、そのルールが守られているかどうかを第三者の目で確認する。問題がある場合は修正し発信者に差し戻すことで、情報の品質を維持する。

「新ルールをスタートした直後は8割の情報に何らかの"ルール違反"がありました。最初はルールの存在があまり認知されておらず、修正に快く応じてもらえないこともありましたが、3ヵ月程度で改善効果が現れ、現在では9割以上の文書が最初からルールに沿った形で作成されています」と、法人企画部 法人基盤企画室の三谷佳子氏は語る。