すでに発売まで秒読み段階に近付きつつあるApple iPadだが、気になるのはiPadに対応した専用アプリの充実度だ。開発環境としてiPhone OS 3.2 SDK(beta)の配布が開始されて約1カ月経つが、本稿ではこれ以外の開発環境にフォーカスを当てて最新状況をレポートしよう。

「Apple iPad」

New York TimesのiPad専用Times Reader

以前、iPadなどのデバイスにおける雑誌出版社や新聞社らの電子出版の苦悩を「Apple iPadをめぐる、雑誌出版社の2つの苦悩 - Financial Times」で紹介したが、iPadとともに提供される電子ブック販売サービスの「iBookstore」は書籍のような売り切り型の静的コンテンツの販売には向いているものの、より柔軟な課金体制やコンテンツ配信形態を必要とする雑誌コンテンツにはなかなか適用しにくい。

そこで、記事中にもあるConde NastやNew York Timesでは、iPhoneやiPad向けの専用アプリを開発することで、こうした弱点を乗り越えようとしている。また専用アプリのメリットとして、動画の埋め込みやインターネットとの通信機能など、さまざまなインタラクティブ性をコンテンツに盛り込める。アプリを開発する手間こそあるものの、コンテンツ配信における柔軟性はiBookstoreに比べて格段に向上するだろう。

New York Timesが開発したTimes Readerは、もともとAdobe AIR用のアプリケーションだった。これならWindows、Mac OS X、Linuxと環境を選ばずに実行が可能だからだ。すでに課金も実施している。そしてNYTは、先月のAppleスペシャルイベントでもiPad専用Times Readerのデモを行っている、開発環境は不明だが、Adobe AIR向けに開発したコードが下地にあったからこそ、スムーズにiPad向けアプリの開発も可能になったと推察される。

iPad専用Times Reader(写真:Yoichi Yamashita)

WiredのAdobe AIR版iPad専用リーダーアプリ

さて、Conde Nastが計画しているWiredのiPad専用リーダーアプリだが、まずAdobe AIR版の提供が行われている。その動作画面はAdobeのページで確認できる。これは先週米カリフォルニア州ロングビーチで開催されたTED Conferenceでのデモをまとめたものだが、タッチ操作で手軽に記事の縮小拡大や切り替えを行えたり、デバイスの回転で表示モードを変更したり、あるいは埋め込まれた動画や音声を再生したりと、iPad型のタブレットデバイスを意識した作りとなっている。

この専用リーダーアプリはAdobeのCreative Suite 4(CS4)を用いて構築されており、そのままAIRアプリとして書き出しが行われている。CSを使っているメリットの1つは、その中に含まれるInDesignにあり、WiredなどConde Nastの雑誌の多くがInDesignをDTPソフトとしてデータを作成している。両者がシームレスに連動することで、AIRアプリの構築が容易になっているようだ。またAdobeが現在開発中のCS5では、FlashのActionScriptで構築したアプリをiPhone向けに出力する機能を備えており、将来的にiPadの書き出しも可能になる。

InfoWorldの報道によれば 、AdobeではこのAIR版専用リーダーをそのままiPhoneとiPad用アプリとして今年夏にも提供開始する計画だという。

Adobe CSがもともと出版社やデザイナーに近いツールであることを考えれば、自然な流れかもしれない。今後出版社やWebデザイナー、Flashアニメーション制作者が今後iPad市場を見据えた場合、まずAIR版でPC向けアプリ環境を構築し、次のステップとしてiPad用に再出力する形で対応するのが近道だろう。