NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏

子育てができるパパは仕事もできるのです―。このほど開催された「ワークライフバランスフェスタ東京2010」(東京都主催)で、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏が「仕事に活かすパパ力(ぢから)」と題して講演。現在の日本の子育て支援の課題や父親が主体的に子育てするなかで備わる「能力」などについて自らの体験なども交えて話した。

男性の育児休暇取得を阻む意外な存在とは?

安藤氏はまず、日本における父親の育児支援の必要性や問題点について話した。父親の子育てを支える環境づくりには、「行政・自治体」「企業」「地域社会」「家族」―の4方面から"攻める"ことが大事とし、行政や自治体には、父親をターゲットにした子育て支援に取り組むこと、企業には、男性中心の体質を変える意識を持つことなどを求めた。

「家族」にはどんな問題があるのだろう? 安藤氏はある男性のケースを紹介した。その男性は育児休暇を希望。会社側はOKを出してくれたが、妻から「育児は私がやるから、それより出世して塾代とか稼いだら」と反対され、思わぬ反応に閉口したという。同氏によると、こうした「門番としての母親」もパパの家庭参入を阻む"ネック"となっているという。また、妻が夫の育児休暇に賛成でも、姑から「うちの息子にオムツなんて換えさせて」と言われ、あきらめるケースも多いそうだ。

子育てしないパパを襲う離婚危機

男の育児にはどんな悩みがつきものなのだろう? まずは「仕事が忙しくて両立できない」ケース。意識調査ではパパの7割が「ワークライフバランス(WLB)」を実践したいと考えているものの、現実は仕事が忙しすぎて仕事主体になっているパパが多いという。

「子どもとどう向き合っていいかわからない」という男性も多い。一緒に遊べない、どう接していいかわからないという状態が続く→思春期になっても叱り方がわからずに悩む→感情的に怒ってしまい、悩んでしまう→子どもがかわいくなくなる→家に帰りたくなくなる―という"パパのデフレスパイラル"に陥りやすいとのこと。安藤氏は「帰りが夜遅いなら、朝早く起きて一緒にご飯を食べたり、着替えを手伝ったりして、少しでも子どもと会話やスキンシップの時間を持つことが大切だ」と話した。

最後に安藤氏が挙げたのは「子どもが生まれてから夫婦関係が悪化した」という悩み。FJの調査では5割以上のパパが、夫婦関係が悪化していると感じているそうだ。実際に子育て世代の離婚も多く、特に第一子の産後3年間が突出しているという。「子どもが生まれてから半年は結婚式以来の"フェスティバル"で盛り上がるが、半年を過ぎると、子どもは熱を出すことが多くなり、夜泣きが始まり、ママが眠れない…といったことになる。そしてちょうどそのころパパも(子どもといるのに)飽きてくる。仕事に逃げ帰りが遅くなり、母親はイライラする」と同氏。「ママを支えることは立派な"間接育児"。早く帰ることができなくても、帰宅したら子育てに追われているママの話を聞いてあげることが大事です」

男の子育てで身につく3つの「能力」とは?

子育てしている時間があれば、仕事をスキルアップできる本でも読みたい―。そんな父親もいそうだが、育児を「期間限定の"プロジェクトX"」に例える安藤氏は、「子育てをすることで仕事の能力も高まる」と話す。具体的な能力として、次の3つを挙げた。

  1. 「時間管理能力」―保育園児の朝は準備に追われ「戦場」。工夫することで時間を効率的に使うことができるようになる。
  2. 「リスクマネージメント能力」―子どもは病気になったり、悪さをしたりとよく問題を起こす。その"傷口"を治して、軌道修正することが必要になる。
  3. 「人材開発能力」―子育てがうまい人は部下育てもうまい。ワーキングマザーへの理解も深まる。

安藤氏が考える男性の育児のメリット

仕事のスキルアップだけではない。父親が積極的に育児参加する大きなメリットには、ママの育児ストレス軽減もある。「きょうも機嫌が悪いのではとドアノブを開けることに恐怖心を感じている父親は多いが、毎日ではなくても早く帰ることや、主体的に育児をサポートすることでママたちは笑顔になる」と同氏。実際第1子のときの父親のサポートの度合いにより、第2子目以降の出産意欲が上下する、という厚労省の調査結果もあるそうだ。ほかには、自活力が身につく、子どもが通う幼稚園や小学校などを通して地域とのつながりが持てる、子育てネットワークのなかでパパ自身の世界が広がる―といったメリットも紹介。困ったときに助け合える「パパ友」を持つことも大事なことだという。

「よせ鍋型ワークバランス」で人生を豊かに

「寄せ鍋型ワークバランス」のイメージ

ワークライフバランス(WLB)の問題について安藤氏はどのように考えているのだろうか。同氏は「労務管理問題ではなく自分の問題」として自分自身が働き方を改革していくことが重要とした上で、「よせ鍋型ワークバランス」を提唱した。これは、自分の人生を「鍋」に、仕事や趣味、介護、地域活動、趣味などを「鍋」のなかの「具材」に例えたもので、何か(具材)を鍋から出して、何かを鍋に入れるのではなく、一緒にグツグツと煮ることでできた味(人生)を楽しむ考え方のこと。同氏は自身が子育てを通して知り合った仲間と一緒に仕事をした経験や、仕事で培った広報やマーケティングの能力がPTA活動に役立つことなどを例に挙げ、「自分のやってきたステージから逃げずにそこで楽しいダンスを踊った人こそが人生を楽しめる」と子育てパパにエールを送った。