【インタビュー】
日本のアニメ・特撮音楽の礎を築いてきた作曲家・渡辺宙明氏。手がけてきた作品は『マジンガーZ』をはじめとするロボットアニメ、『秘密戦隊ゴレンジャー』をはじめとする戦隊シリーズ、『人造人間キカイダー』『宇宙刑事』シリーズほか多数。このインタビューは、氏の半生をまとめて振り返る初の試みである。
――最初に作曲家になろうとお思いになったのは……。
「中学1年ごろに、クラスの中の1人がハーモニカを吹いてたんですね。うまかったですよ。そして自分も吹きたくなって、早速、日本橋三越にハーモニカと教則本を買いに行きました。教則本を頼りに練習を始めたのです。当時のハーモニカの楽譜は、数字の楽譜なんですね」
――音符は書いてないんですか?
「五線譜はないんです。数字だけです。「ド」が「1」で、「ソ」は「5」です。間もなく数字譜を見ただけで歌えるようになりました。そのうちに、作曲家、しかも映画音楽の作曲家になりたいと思うようになりました。作曲家になるにはハーモニカだけではダメだろうと考え、五線譜を読むことを決意したのです。旧制中学でも音楽の授業があり、楽典で音階理論を習っていたので、五線譜に移ることは簡単でした。唱歌などを集めた楽譜集を買ってきて目的の調子の曲を捜して、楽器なしで歌う練習をしました。約一週間で各キーをほとんどすべてマスターすることができたのです。しかし、作曲家になるにはピアノが弾けなくてはいけないということで、ピアノを習いだしたんですよ」
――ずっと音楽がお好きで、高校卒業したらすぐ作曲家を目指すというわけにはいかなかったんですか?
「私は旧制中学校ですが、父から『ともかく大学に入れ。音楽家になるかどうかはそれから考えてもいいではないか』と言われ旧制高校、大学を目指すことになったのです。間もなく太平洋戦争が始まっちゃって、空襲はあるわで、のんびり音楽だけに専心するっていう雰囲気じゃなくなりました。悩み多い青春でした。そのうちに、戦争が終わった。それで親父が言うには、『今、音楽やりたいったって、どうなるかわからんじゃないか。ともかく大学へ入れ』と言われ、東大の心理学へ入りました。勿論、音楽との関係を考えてのことです。東大の心理学は実験心理学ですから理系に近いんです。僕の性に合ってた。そのころ團伊玖磨さんのところへ和声楽を習いに行きました」
――その後、諸井三郎先生にも師事される……。
「大学卒業してからですね。大学院に籍を置いて、諸井先生宅で講義を受けました。ところが、父が、大学院1年を終了したときにガンで入院し手術しましたが、手遅れで自宅で療養することになったのです。私は、看病のために名古屋へ帰った。で、間もなく亡くなっちゃって、さあ大変だと。なんとかして作曲の仕事がないもんかと思って、中部日本放送、CBCですね。そこへねぇ、私は今考えるとホントに強引だと思うんだけれども、自分1人で窓口に行き、音楽の担当者に紹介してくれと(笑)。担当者と会い、自分を売り込みました。そのうちに仕事を依頼されたのです。やったのが、『アトムボーイ』っていう、SF作品のラジオドラマですね」
――ラジオドラマが盛んに製作されていた時代ですね。
「ええ、民放ができたばっかりで。ラジオドラマありね。それから、詩の朗読に音楽つける仕事もあったりして」
――その後、いよいよ作曲家として上京なさると。
「3年ほど経ってからね、やっぱり名古屋にいたんじゃダメだなというんで、ラジオドラマのテープをコピーしてもらって、新東宝の音楽担当者に聴いてもらったんですね。『ああ、いいじゃないですか。しばらく待っていてください。必ず連絡しますから』と言われました。かなり待ちましたが、仕事の依頼が来ました。それが12月に撮った『人形佐七捕物帳・妖艶六死美人』。その後は、どんどん注文が来たんですよ。1年に10本ぐらいやりました。今、1人で10本なんてやる人いないですけど」
――映画が大衆娯楽の頂点だった時代ですね。
「全盛期でねぇ、毎週二本立てですよ。その後しばらくして、映画専門の指揮者がほかの映画会社、テレビ局にも紹介してくれるようになった」
――話はちょっと変わるんですけれども、『ゴジラ』などで知られる伊福部昭先生のお書きになった『管弦楽法』という本で勉強された時期があって、その本のことで伊福部先生が会いに来られたことがあったそうですね。
「あれはねぇ、ブラスのバッテリーっていって、2音をトリルのように反復する奏法。演奏可能な音と不可能な音があります。それを表にしてあったのがあってね、中に間違いがあったんですよ。で、松村禎三さんっていう作曲家とはそのとき親しかったもんですからね、『伊福部先生に言っといてください』って。で、京都の撮影所で朝、これから録音を始めようと準備していたときに、ちょうど打ち合わせで来ておられた伊福部先生が録音スタジオにわざわざやって来られて、『渡辺宙明さんですか』って。『いやぁ、あの本はね、校正に間に合わなかったんですよ』って。突然来られて、驚きましたよね。ああ、いい人だなぁっと思って」
――その後、昭和40年代に入ってからですか、渡辺貞夫さんに……。
「CMの事務所やってた人が『渡辺貞夫さん、アメリカから帰ってきて、今、家で教えてるそうだよ』っていうんで。で、直接電話して自宅で集団レッスンを受けました。これはすごく役に立ちましたよ。見事な理論体系に私はショックを受けました」
――渡辺貞夫さんは、バークリーのほうで勉強されたんですね。
「その習ったとおりを教えてくれました。今、『ジャズ・スタディ』って本が出てますけど、あのとおりを教えていただきました。難しくて途中で投げ出した人もいましたが、私と鈴木宏昌さんは最後まで宿題をやって行きました」
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