倉岡寛 グーグル プロダクトマネージャー

「クエリを見てサービスを作るというのは当たり前のようになっている」。そう話すのは、グーグル プロダクトマネージャー 倉岡寛氏。クエリとは、検索エンジンの利用者が検索窓に入力する文字列のことだ。Googleが持つ膨大なクエリDBからは、ユーザーが望んでいるものが見えてくる。当サイトで3回にわたり紹介した『Google Insights for Search』は、クエリDBを分析するツールのひとつだ。倉岡氏は、そうしたGoogleが提供するツールを多くの人に活用してほしいと話す。

クエリから見えてくるものがある

いまGoogle検索では、震度2以上の地震が発生した場合、地震関連情報を検索するユーザーに対して、結果ページのトップで地震速報を伝える仕様となっている(過去6時間以内)。このサービスはクエリの観察から生まれた。地震発生時に「地震関連のクエリが跳ね上がる」(倉岡氏)ことがきっかけだった。今秋、大型台風の日本上陸というニュースがあったときは、「"運行状況"というクエリが圧倒的に増えた」(倉岡氏)という。その事実が新たなサービスに結びつくことは十分に考えられるだろう。

では、Googleのみが、世界中から集まる膨大なクエリの恩恵に与れるのかと言えばそうではない。「Googleトレンド」や「Google Insights for Search」を使うことで、クエリDBにアクセスすることができる。

Googleトレンドは、クエリの検索推移を長期的に調べるとともに、Googleにおける検索数が短期間で相対的な急上昇を見せている「急上昇ワード」も閲覧することができるサービスだ。たとえば、朝のTVニュースを賑わした芸能人名などはWeb検索される可能性も高く、急上昇ワードにあらわれやすい。世情に疎い人でも、急上昇ワードランキングを見ていると、なんとなく"今日の世間的な関心事"が見えてくる。

Googleトレンド

検索クエリが急上昇ワードの場合、検索結果画面の下部にその旨が表示される

Google Insights for Searchについてはこちらの連載に詳しいが、おもにマーケターを対象としたクエリの多角的な分析を可能にするツールだ。2004年以降のクエリDBが提供され、利用者は自由な視点でネットユーザーの検索傾向を調べることができる。売り出し中の商品への関心度を検索率から推測する、食材関連クエリの検索率の年間推移を調べて需要予測を立てる、さらに地域別のニーズを把握する、といった調査が簡単にこなせるようになる。

Google Insights for Search。画面は、北海道・東京・沖縄における「鍋」の検索率推移

ユーザーの声から何を生むかは利用者次第

倉岡氏は、「検索ワード(クエリ)はユーザーの声」であり、その声を聞くGoogleのツールは「"気づきのきっかけ"になるもの」と説明する。さまざまな切り口で試してほしい、と活用を促す。「たとえばニュース報道番組などで、GoogleトレンドやInsights for Searchを使い、報道内容の一部をユーザーの関心と紐付けるという方法もあると思う。キーワード単位ではあるが、番組側が選ぶ情報と視聴者の間にある『なにか違うな』という点が埋められるかもしれない」(倉岡氏)。

GoogleトレンドやInsights for Searchでは、すべてのクエリ情報を公開しているわけではないが、それでも大部分を解放している。ツールの利用者は、かつてのような大規模調査を行なわずとも、消費者が考えていることを容易に覗き見ることができる。とはいえ、このデータをいかに活用するかは"クリエイティビティ"次第だ。「『Googleが誕生したことで、人はバカになったんじゃないか』と言われることがあるが、そんなことはない。Googleとしては、『情報にアクセスするコストを極端に下げることで、別のクリエイティビティを発揮する時間が増えた』と考えている。むしろ、ユーザーにはクリエイティブであることを求めるようになっている。その意味では、非常に面白いことなのではないか」(倉岡氏)。