開校15周年を迎えたデジタルハリウッド。その学校長である杉山知之氏の独占インタビュー。前回は、日本におけるクリエイターの待遇について語ってもらったが、今回は、杉山氏が今の時代をどう捉え、どのような人材を生み出そうとしているのかについて話しを訊いた。

杉山知之
1954年東京都生まれ。1979年に日本大学大学院理工学研究科修了後、日本大学理工学部助手に就任。1987年より、MIT メディア・ラボ客員研究員を務めたのち、国際メディア研究財団・主任研究員、日本大学短期大学部専任講師を経て、1994年10月、デジタルハリウッド設立。現在は、デジタルハリウッド学校長とデジタルハリウッド大学大学院学長を兼任する

Googleには追いつけない、主戦場はコンテンツ

――デジタルハリウッドを開校してからの15年、技術的に見て何が一番変わりましたか?

杉山知之(以下、杉山)「CGについて言えば、予想もできないほどハードの性能が上がりましたね。これだけGPUが発達するとは想像できませんでした。昔のスーパーコンピュータ以上の性能のGPUが、今、秋葉原では2~3万円で売られているんですよ。でも、それに比べてソフトは、それほど進化していないんです。"性能が早くなったから近似値計算をもうちょっと細かくする"といった進化が多く、根本的にはあまり変わってないんです」

――インターネットを取り巻く環境はどうでしょう?

杉山「世界中のすべてのコンピュータがつながり、また、インターネット上で起きている様々なアイディアに驚かされますね。インターネットが普及してきた最初の頃は、ホームページを制作するといっても『こんなの会社案内くらいにしかならないよ』とみんな思っていましたし、実際に最初に成功したのも求人広告のページくらいでした。その当時インターネットに対する認識は『求人広告ならイメージアップにもなるか』程度だったんですよ。まだ誰もインターネットを利用してイーコマース(電子商取引)ができるなんて思ってもいませんでした。でも、それからあっという間にイーコマースの時代がきて、楽天のような成功事例が出てきました。また、ブログのように、何も教わらずに誰でもWebページを制作できる時代がやってきています。それと並行するようにYahoo!が出てきて『これからは検索だよな。でも、人海戦術大変だよな』と思っていたところに『すべての情報をデジタル化する』というコンセプトを持ったGoogleが出てきました。今では全員それに後追いでくっついていくという流れになってしまいましたよね」

――そうですね。

杉山「Googleのような強いコンセプトを持っている会社は珍しいですよ。お構い無しですからね。本でもなんでも、すべての情報をデジタル化してから、『今度、こういうの出しちゃいますよ。いいですか?』って最後に言ってくるんですから」

――それについては、そうした行為が許されるアメリカと、ちょっと提案しただけで、すぐ頭ごなしにNOと言われてしまう日本とでは土壌が大きく違いますよね。

杉山「そうですね、大きく違います。そして、Yahoo!やGoogleのように、社会への新たなインフラ提供で戦っていくのも、個人的には違うと思っています。デジタル技術は常に進化しているので、その方法では、作り変えていくだけで精一杯だと思うんです。少し前まで順調だったIBMも、今ではかなり厳しい状況になっていますよね。一方、我々は、そうした土壌の上で、どんなコンテンツを生み出せるか、何を構築できるのかということを考えていくべきだと思うんです。iPhoneのように、たったひとりのクリエイターが、世界中に自分のゲームを販売できるシステムが出てきています。そういうシステムを利用して仕事をおこなったり、自分を表現することが大事だと思います。今からGoogleに対抗するには、国をあげて取り組むぐらいしないと追いつけません」